展望なき日本財政

展望なき日本財政

                       Political Economy 107号

                       2018年1月13日

 

  • 場当たり主義の増税策

 2018年度の税制改正大綱、予算原案が出揃った。今回目立つのは、久しぶりの増税方針である。しかし、その中身は取れるところから取るという場当たり主義であり、将来的な基幹税(所得税、法人税、消費税)のあり方、社会保障制度と税の関係などを見通したものではない。一般会計のプライマリーバランスの目標再設定も先送りしている。

 主な増税項目は、所得税の見直し900億円、たばこ税2400億円、国際観光旅客税400億円、森林環境税600億円などであり、国際観光旅客税と森林環境税は国税としては実に27年ぶりの新税だという。ただし、森林環境税は地方税ではすでに各地で導入されており、その実施は2024年度とずいぶん先の話だ。これに対して国際観光旅客税は2019年1月7日、会計年度の途中の中途半端な日から導入される。

国際観光旅客税は、最初は出国税として登場し、途中から名称変更した。また導入時期は2019年4月の予定だったが、19年7月の参院選との近さを気にして3ヵ月前倒し、姑息にも正月休みを避ける意味で1月7日にしている。

もともと出国税は、外務省が国際貢献を目的とした航空券連帯税としてこれまで要求してきたものとほぼ同じ税である。航空券連帯税に対して国土交通省は、観光立国に反するとして強く反対してきた。ところが、税収が国土交通省管轄になると、手のひらを返すようにこの新税推進に動いた。ご都合主義もいいところだ。

 

  • 国債は一般会計だけではない

 2018年度予算案は一般会計総額が97.7兆円と過去最大となった。増税策も含めて、税収見積もりが1991年度以来の59兆円とされたことが、予算規模の拡大を可能にした。歳入では新規国債は33.7兆円、8年連続の減少となり、麻生財務相は「財政健全化は着実に進んでいる」と語った。本当にそうか。

 歳出面の国債費は23.3兆円となり、一般会計のうえで国債の収支は10.4兆円の残高増と計算される。しかし、国債全体の動きについては、特別会計の国債整理基金を含めてみていかなければならない。一般会計歳入の新規国債は政府の発行する国債の一部にすぎない。その他に、国債整理基金の歳入となる借換債が100兆円以上発行されている。また一般会計歳出の国債費は実際の償還・利払いではなく、国債整理基金への移転にすぎない。実際には国債整理基金が100兆円規模の償還・利払いを行っている。

 いま2016年度の国債発行全体の内訳をみると、新規国債34.4兆円、復興債2.2兆円、財投債16.5兆円、借換債109.1兆円、合計162.2兆円であった。借換債は2005年度以降、ほぼ毎年100兆円以上発行され、国債発行全体では2004年度以降、ほぼ毎年160兆円以上の規模が続いている。普通国債の発行残高は、2004年度の499兆円が2016年度には838兆円まで膨らんだ。

 

  • 金利上昇のリスク

 毎年の予算案では、一般会計が注目される一方、特別会計には注意が向かない。しかし、国債の発行、償還、利払いの全体像をみるには、両者を合体してみていく必要がある。一般会計に特別会計の国債関係の数字を合算してみると、予算規模は230兆円、国債発行は160兆円、歳入の国債依存度は70%近くに達することになる。あまりにも大きい数字ではないか。

100兆円を越える借換えが毎年順調に行われるならば、この依存度もさほど問題ではないのかもしれない。しかし、今後長期金利が上昇するとどうなるのか。仮に1%上昇すると、160兆円の発行は1.6兆円の利子負担をもたらすことになる。それが毎年継続すると利子負担は急速に膨らんでいくことになろう。

異次元の金融緩和を続けてきた日銀は、いずれ「出口」に向かい、金利上昇は避けられない。財政を破綻させずに「出口」から外に出られるのか、事態は楽観を許さないように思われる。