世界のNGO紹介シリーズ 第1回 ICRICT
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- Published: Thursday, 03 November 2022 09:18
世界のNGO紹介シリーズ 第1回
ICRICT(The Independent Commission for the Reform of International Corporate Taxation;
国際企業課税改革独立委員会) https//:www.icrict.com
◆設立趣旨:グローバル時代における公正な企業課税(多国籍企業課税)の実現に向けて提言を行う国際NGO。2015年設立。
◆主な委員:ジョセフ・スティグリッツ(コロンビア大学教授、ノーベル経済学賞受賞)
2022年共同議長
『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』徳間書店、2002年
『プログレッシブ・キャピタリズム』東洋経済新報社、2020年
ジャティ・ゴーシュ(マサチューセッツ大学教授)、2022年共同議長
ホセ・アントニオ・オカンポ(元国連事務次長、コロンビア大学教授)前議長
トマ・ピケティ(社会科学高等研究院EHESS教授、パリ経済学院教授)
『21世紀の資本』みすず書房、2014年
ガブリエル・ズックマン(カリフォルニア大学バークレイ校教授)
『失われた国家の富:タックスヘイブンの経済学』NTT出版、2015年
『つくられた格差:不平等税制が生んだ所得の不平等』(エマニュエル・サエズとの共著)光文社、2020年
◆主な報告書と概要
*An Emergency Tax Plan to Confront the Inflation Crisis, September 2022
[はじめに]
・世界経済はコロナ禍でエネルギー、食料等の価格高騰、成長率の低下、財政赤字と債
務の拡大といった危機に直面している。その負担は、特に脆弱な貧困層、貧困国に加
重されている。
・一方、巨大多国籍企業や富裕層は巧妙に課税を逃れて富を蓄積しており、課税を強化することが求められている。
[超過利潤税]
・世界経済がインフレに進むなかで、エネルギー、食料、製薬、金融等の価格支配力をもつ独占的多国籍企業は、超過利潤を取得している。それに対する課税は国際協調のもとで進めるべきであるが、その交渉は遅れている。
・我々は、そうした交渉の妥結を待つことなく、緊急に超過利潤税を実施すべきであると考える。
[グローバル課税交渉は前進しているのか]
・多国籍企業の課税逃れは年間2400~6000億ドルに達し、特に中低所得国の喪失額が大きい。
・2021年10月に合意された2本柱のグローバル企業課税ルールは、従来の方式の転換という意義をもつとはいえ、きわめて不十分な内容だ。グローバル最低税率15%では、増収が少ないばかりか、むしろそれが国際標準とされ、法人税依存度の高い途上国にとってマイナスに作用する恐れがある。
・合意が前進しているかといえば、EUと米国内に抵抗があり、実施が遅れている。それゆえ、各国は自国でできる公正な課税を実施すべきだ。2本柱の多国間合意が実行段階に入るまでは、それに代わる1国ベースの措置をとるべきである。
[第1の柱の代替案]
・第1の柱(課税権の配分)は、物理的拠点のない市場国にも一定の課税権を配分する考えを打ち出した。しかし、対象企業が総売上高200億ユーロ以上、売上高利益率10%以上の巨大企業(およそ140社)に限定され、しかも課税権の配分は10%を超える超過利潤のうちの25%に限られ、利潤の大部分は従来の方式で課税される。新方式での税収はせいぜい60~150億ドルだろう。
・新方式での課税は多国籍企業の総利潤に適用するユニタリータックスとすべきである。その場合、国別配分の基準は売上高のみでなく、従業者数、物理的資産も指標に加える必要がある。現行案は、小規模、複雑性、不平等などの点で是認できない。加えて、各国議会での承認のハードルは高い。
・次のような代替案が考えられる。
- 累進的デジタルサービス税。すでにいくつかの国で採用されており、新方式実施に際しては廃止されることになるが、それまでは活用できる。
- サービス支払の源泉徴収課税。自動的デジタルサービスにも源泉徴収はできる。
- サービスの純利益への課税。
- 無形資産を利用した所得移転への課税。
- 租税政策と租税条約の修正。
[第2の柱について]
・第2の柱であるグローバル最低税率は、法人税切下げ競争に歯止めをかける意義をもつが、実効税率15%に満たない場合の追加課税は多国籍企業本国で徴収され、価値が創出される途上国は利益を得られない可能性がある。途上国は代替策を検討する必要がある。
・代替ミニマム税は利益に代わって売上高や資産を対象に課税する方式であり、脱税や租税回避を抑止するうえで有効性をもつ。
・既存の優遇税制の見直しも有効であり、多国籍企業誘致のための税制優遇は、国内企業と同等とするように改められるべきである。
[だれがルールを決めるのか]
・多国籍企業課税ルールの決定は、公平性、透明性、説明責任、安定性等の原則が尊重されるべきである。OECD/G20は途上国を含めた「包摂的枠組み」へと拡大してきたが、途上国の参加は行動指針が合意された後であり、途上国の意向は軽視されている。国際課税のルール策定は国連のもとでの国際条約交渉へと発展させるべきである。また、国連にグローバル租税機構を創設する議論も進めるべきである。
[結論]
・今回の合意は先進国に有利で途上国に不利なものだが、より包括的な解決策への足掛かりになりうる。この合意が実施されないようであれば、各国は独自の代替案を導入し、真に公正なグローバル税制に向けて圧力をかけるべきである。途上国の経済危機に立ち向かうためには、公正なグローバル・ガバナンスが必要とされている。
*It is Time for a Global Asset Registry to Tackle Hidden Wealth, April 2022
コロナ危機とウクライナ戦争、世界的な物価上昇のなかで、オフショアに隠された富への課税が急務となっている。グローバル資産台帳という一種のデータベースの構築が求められている。その特徴は第一に、富のあらゆる形態を包括すること、第二に、資産の真の所有者を特定すること、第三に、情報が公開されることである。1国レベルでの資産台帳はEU、米英などで整備が進んでいる。1国単位の資産台帳は、EUのような地域レベルの台帳へと発展させる必要がある。
*Who Owns What? Making UK Wealth Ownership More Transparent through a National Asset Register, December 2020
「グローバル資産台帳」は世界的な富の分布、不正な資金移動を把握し、効果的な課税策を講じる有効なツールとなる。それは各国の資産台帳を統合して作成される。この報告では、イギリスにおける資産台帳創出の試みとして、各種の登記情報、公式記録などを総合し、不動産・無形資産・金融資産等の資産状況の概要を検討している。
*International Corporate Tax Reform, October 2019
公正で包括的な多国籍企業課税はユニタリータックスでなければならない。現在OECDが提起している案は、それにはほど遠い。国際最低税率は25%とすべきである。現在の案では、通常の利益への課税は従来通りであるし、超過利益の課税権配分は売上のみを基準としている。
また、今回の合意は終着点ではなく、さらなる改革への入口である。それはOECDでなく、国連システムのもとでなされなければならない。
*A Roadmap for a Global Asset Registry, March 2019
世界的に貧富の格差が拡大するなかで、富裕層の富は巧妙に隠されている。各国の税務当局間の情報交換システムは近年整備されてきているので、そうした現存するデータを結合し、隠された富を表に出す「グローバル資産台帳」の設置を提案したい。
ピケティ、ズックマンの提起を受けての提案。
*The Fight against Tax Avoidance, January 2019
多国籍企業は価値を生み出すところで税を納めず、低税率国に利益を移転している。OECDのBEPSプロジェクトは多国籍企業の国別報告書作成などの成果をあげたが、子会社間の「価格移転システム」を利用した税逃れは放置している。これを防ぐには、多国籍企業グループ全体に対するユニタリータックスを導入するべきである。同時に、グローバル最低実効税率20~25%を設定すべきである。
*A Roadmap to Improve Rules for Taxing Multinationals, February 2018
BEPSプロジェクトによる多国籍企業の国別報告書は有益であり、その一般公開が望まれる。多国籍企業課税では、従来の子会社ごとの課税方式(独立企業原則)を捨て、単一統合課税(ユニタリータックス)に移行すべきであり、課税ベースの国別配分は資産、雇用、売上等の要素を組み合わせた公式を用いることが望ましい。長期目標がそうであるとして、短期的にはEUの共通連結法人税(CCCTB)を採用することを要請する。また多国籍企業課税問題は先進国主導のOECDでなく、国連で扱うべきである。
*Four Ways to Tackle International Tax Competition, November 2016
国際課税問題の解決のためには、グローバルな最低税率の設定、タックスヘイブンなど税逃れの仕組みの廃絶、海外企業への優遇税制廃止、市民への企業課税情報の公開という4項目を実現していく必要がある。