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- Published: Monday, 01 May 2017 17:36
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◆コロナ禍で他社を引き離す
2020年から続く新型コロナの世界的大流行によって世界の自動車メーカーは苦戦を余儀なくされているが、トヨタ自動車は2021年の世界新車販売台数1135万台(ダイハツ、日野、スバルを含む)、前年比9%増を達成し、2年連続で世界首位の座を維持した。2位のフォルクスワーゲンが888万台(前年比5%減)、3位の日産・ルノー・三菱が768万台(前年比0%増)だったから、トヨタの強さは際立っている。
米国市場でも2021年にトヨタはGMを抜いて販売台数首位に立った。米国市場で海外メーカーがトップになるのは史上初めてのことだ。2022年に入ってもトヨタは強さを維持し、上半期(1~6月)の世界販売台数は513万台と前年同期より6%減少したものの、2位フォルクスワーゲンが387万台(22%減)と大きく落ち込んだため、3年連続で世界首位を保つことになった。
各社が苦戦した要因は、コロナ禍で工場の操業停止、サプライチェーンの寸断が生じたためだが、なかでもデジタル化の波のなかで半導体が圧倒的に不足したことが大きかった。トヨタは競合他社に比べて半導体調達難の影響をある程度回避できたように思われる。
表1によって、国内大手8社の2021年度(2021年4月~2022年3月)における生産・販売実績をみよう。各社の世界生産台数では、トヨタ、スズキ、ダイハツ、三菱が前年度比プラス、ホンダ、日産、マツダ、スバルが前年度比マイナスを記録した。世界販売台数も同様の傾向であり、トヨタ、スズキ、三菱がプラス、他の5社がマイナスだった。また国内生産台数は三菱以外はトヨタを含めて7社がマイナスとなった。
表1 自動車8社の生産・販売台数(2021年度) |
|||||||
世界生産 |
国内生産 |
世界販売 |
国内生産 |
||||
(千台) |
(%) |
(千台) |
(%) |
(千台) |
(%) |
比率(%) |
|
トヨタ自動車 |
8,570 |
4.7 |
2,761 |
-5.4 |
9,512 |
4.7 |
32.2 |
ホンダ |
4,143 |
-8.6 |
634 |
-7.7 |
4,363 |
-6.3 |
15.3 |
日産自動車 |
3,390 |
-10.7 |
446 |
-13.8 |
3,821 |
-9.0 |
13.2 |
スズキ |
2,822 |
6.4 |
840 |
-9.7 |
2,707 |
5.3 |
29.8 |
ダイハツ工業 |
1,518 |
8.8 |
841 |
-8.4 |
907 |
-1.7 |
55.4 |
三菱自動車 |
1,025 |
25.9 |
421 |
14.7 |
937 |
16.9 |
41.1 |
マツダ |
1,024 |
-12.6 |
696 |
-6.8 |
1,251 |
-2.8 |
68.0 |
スバル |
727 |
-10.3 |
455 |
-13.3 |
812 |
-11.3 |
62.6 |
出所:「朝日新聞」2022年4月28日 |
|||||||
注:生産と販売の%は前年度比増減率 |
トヨタ、ホンダ、日産の上位3社を比べると、世界生産と世界販売でトヨタのプラス、ホンダ、日産のマイナスが対照的であり、トヨタの一人勝ちといった様相だった。ホンダと日産は国内生産比率がきわめて低いことも、トヨタとの違いを示している。
◆空前の好業績はさらに続くのか
表2によれば、2022年3月期(2021年4月~22年3月)のトヨタは営業収益、純利益とも空前の好業績だった。営業収益は31兆3800億円、純利益は2兆8500億円とかつてない規模に達した。販売台数は2020年3月期の水準に達していないにもかかわらず、利益を大きく伸ばすことができたのは、利幅の多い高級車の売上が増加したためだろう。
表2 トヨタの主要経営指標 |
||||
2019年4月 |
2020年4月 |
2021年4月 |
2022年4月 |
|
~20年3月 |
~21年3月 |
~22年3月 |
~23年3月 |
|
営業収益(億円) |
298,665 |
272,146 |
313,795 |
345,000 |
純利益(億円) |
20,361 |
22,453 |
28,501 |
23,600 |
販売台数(万台) |
896 |
765 |
823 |
885 |
従業員数(人) |
361,907 |
366,283 |
372,817 |
|
平均臨時雇用人員(人) |
86,596 |
80,009 |
87,120 |
|
税金費用(億円) |
6,818 |
6,500 |
11,159 |
|
実際負担税率(%) |
24.4 |
22.2 |
28.0 |
|
出所:トヨタ自動車「有価証券報告書」2022年3月期他 |
||||
注:2022年4月~23年3月は2022年8月時点での決算見通し |
表3によって国内他社と比較してみると、売上高、純利益はスバルを除いて各社とも前年度に比べて増加しているが、増加率はトヨタが優勢であり、トヨタとホンダ以下各社との差が開いたことが明らかだ。なかでも純利益の増加率はトヨタが際立っている。
利益増加の要因について、トヨタは販売台数の拡大とともに為替変動の影響を指摘し、資材高騰というマイナス要因をカバーした点をあげている。しかし、2023年3月期の業績見通しでは、最近の世界的な物価上昇、特に鉄鋼、樹脂原料等の原材料費膨張が円安というプラス要因を上回り、利益は落ち込むとみている。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱は在庫を圧縮するトヨタ生産方式に打撃を与えており、原材料費の高騰はトヨタを支える部品企業群を苦境に追い込むだろう。
表3 自動車7社の経営実績(2022年3月期) |
||||
売上高 |
純利益 |
|||
(億円) |
(%) |
(億円) |
(%) |
|
トヨタ自動車 |
313,795 |
15.3 |
28,501 |
26.9 |
ホンダ |
145,526 |
10.5 |
7.070 |
7.6 |
日産自動車 |
84,245 |
7.1 |
2,155 |
ー |
スズキ |
35,683 |
12.3 |
1,603 |
9.5 |
マツダ |
31,203 |
8.3 |
815 |
ー |
スバル |
27,445 |
-3.0 |
700 |
-8.5 |
三菱自動車 |
20,389 |
40.1 |
740 |
ー |
出所:「朝日新聞」2022年5月14日 |
||||
注:%は前年度比増減率。純利益の―は前年度赤字のため |
||||
算出せず。 |
一方、表4によって地域別の事業実績をみると、生産台数・販売台数ともに日本はマイナス、海外はプラスだった。海外ではアジア、その他(中南米、オセアニア、アフリカ、中東)の伸びが北米、欧州を大幅に上回った。その結果、生産台数はアジアが北米に接近するまでに地位をあげた。営業収益では、全地域でプラスを記録したが、日本、北米は相対的にそれ以外の地域より低かった。営業利益はどの地域もかなりの伸びをみせたが、アジアが54.2%増の6724億円に達し、北米の5658億円を上回ったことが注目される。
表4 トヨタの地域別事業実績(2021年4月~2022年3月) |
||||||||
生産台数 |
販売台数 |
営業収益 |
営業利益 |
|||||
(万台) |
前期比(%) |
(万台) |
前期比(%) |
(億円) |
前期比(%) |
(億円)(億利益 |
前期比(%) |
|
日本 |
374 |
-5.3 |
192 |
-9.5 |
159,914 |
7.0 |
14,234 |
23.9 |
北米 |
175 |
6.7 |
239 |
3.5 |
111,665 |
17.6 |
5,658 |
41.0 |
欧州 |
71 |
10.1 |
102 |
6.0 |
38,678 |
23.4 |
1,630 |
50.9 |
アジア |
150 |
47.6 |
154 |
26.3 |
65,306 |
29.4 |
6,724 |
54.2 |
その他 |
46 |
51.3 |
135 |
31.7 |
29,282 |
56.3 |
2,382 |
298.0 |
合計 |
816 |
8.0 |
823 |
7.6 |
313,795 |
15.3 |
29,957 |
36.3 |
出所:トヨタ自動車「有価証券報告書」2022年3月期 |
ちなみに国別の販売台数を示せば、米国233万台、中国194万台が飛び抜けて多く、それに続くインドネシア、タイ、カナダ、オーストラリアなど20万台水準の国々と差をつけていた。
◆電気自動車への転換は進むのか
世界首位の座にあるトヨタにとって、脱炭素革命への対応、ガソリン車から電気自動車へのシフトは簡単ではない。EU、中国、米国など世界の主要自動車市場では、2050年のカーボンニュートラルに向けて、2030年代にはガソリン車を禁止しようとしている。主要な自動車メーカーは一斉に電気自動車へのシフトを進めている。
しかし、トヨタはこれまで電気自動車生産には消極的で、ハイブリッド車を広義の電動車と位置づけつつ、内燃機関を維持した多様な車種の開発を進めてきた。表5はトヨタが公表している電動車の生産実績だが、ハイブリッド車が大半であり、これは世界標準では「排ガスゼロ車」とは認められていない。トヨタがハイブリッド車の成功体験に囚われているうちに、世界では電気自動車の市場が急速に拡大しており、2021年の世界販売台数450万台が2022年には700万台へと急増する見込みだ。
表5 トヨタの電動車販売実績 |
|||||||
2019 |
2020 |
2021 |
|||||
(台) |
(%) |
(台) |
(%) |
(台) |
(%) |
||
HEV |
1,860,188 |
96.7 |
1,902,621 |
97.1 |
2,482,236 |
94.7 |
|
MHEV |
4,602 |
0.2 |
3,320 |
0.2 |
7,482 |
0.3 |
|
PHEV |
56,524 |
2.9 |
48,513 |
2.5 |
111,882 |
4.3 |
|
FCEV |
2,494 |
0.1 |
1,770 |
0.1 |
5,918 |
0.2 |
|
BEV |
0 |
0 |
3,346 |
0.2 |
14,407 |
0.5 |
|
合計 |
1,923,808 |
100.0 |
1,959,570 |
100.0 |
2,621,925 |
100.0 |
|
出所:トヨタ自動車ウエブサイト>企業情報>会社概要>販売・生産・輸出実績 |
電気自動車のメーカーは、表6に示されるようにテスラを先頭に、上海汽車集団、BYDなどの中国勢がこれに続き、トヨタははるか後方の21位と出遅れている。またトヨタは、ガソリン車禁止政策を緩和させようと政治工作を行い、脱炭素革命を妨害しているとして、世界の環境運動団体から批判されている。有力な環境NGOのグリーンピースは、2021年11月、世界の自動車大手10社の気候変動対策でトヨタは最下位と評価した。また、2022年6月のトヨタ株主総会では、デンマークの年金基金から、トヨタの脱炭素の姿勢に対する質問状が提出された。
表6 電気自動車(EV)の会社別販売台数 |
|||
会社名 |
販売台数(万台) |
EV比率 |
|
2021年 |
2022年上期 |
(%) |
|
テスラ |
93.6 |
56.4 |
100 |
上海汽車集団 |
59.6 |
31.0 |
21 |
フォルクスワーゲン |
45.2 |
21.7 |
5 |
BYD |
32.0 |
32.4 |
43 |
日産・ルノー・三菱 |
24.8 |
13.3 |
3 |
現代自動車 |
22.3 |
16.9 |
3 |
ステランティス |
18.2 |
11.6 |
3 |
長城汽車 |
13.5 |
11 |
|
広州汽車集団 |
12.0 |
10.0 |
29 |
浙江吉利集団 |
11.0 |
12.3 |
8 |
BMW |
11.0 |
4 |
|
トヨタ自動車 |
1.4 |
0.1 |
|
出所:「日本経済新聞」2022年3月18日、7月28日 |
|||
注:EV比率は2021年のデータ |
こうした事態に対して、2021年12月、トヨタは2030年の電気自動車世界販売目標を200万台から350万台に引き上げ、4兆円(うち車載電池2兆円)を投資すると発表した。2022年5月には、初の量産型電気自動車bZ4Xを発売した。とはいえ、トヨタはホンダのように電気自動車一辺倒になるのでなく、水素エンジン車など、エンジン技術を残しつつ燃料の脱炭素化を進める戦略を堅持している。しかし、膨大な資金を要する電気自動車、水素エンジン車、燃料電池などの開発を並行して進めていけるのか。またこれまで協力してきた多数の部品メーカーを円滑に再編成していけるのか。自動車産業全体の大転換を前にして、世界王者トヨタの前途はかなり厳しいのではないだろうか。(2022年9月)
TAX JUSTICE NETWORKの2022年11月23日付の記事によれば、国連総会は、国連にグローバル税制の創設に向けて主導権を発揮することを義務づける決議を全会一致で採択した。米国は決議内容をあいまいにする修正を試みたものの、失敗に終わった。
国際課税のルール形成では、これまでOECD租税委員会が仕切り役を担ってきたが、これは先進国優位の方式であるとして、途上国やNGOからの批判を受けていた。この決議により、グローバル企業が先進国政府を通じて企業寄りのルール形成に影響力を行使する回路が縮小される可能性がある。
今後は、多国籍企業や超富裕層による課税回避策の濫用に終止符を打つために、グローバルな税制を全面的に見直す国連租税条約の制定に向けて、政府間の協議が始まることになる。その成果が結実するにはかなり長期間の交渉プロセスが想定されるが、将来的にはグローバル課税機関の創設が見込まれており、グローバル・ガバナンスの新時代の展望が開けてきたといえる。
2021年1月に成立した米国のバイデン政権は、格差是正に取り組むなかで抜本的な税制改革を提起し、同時に多国籍企業に対する新たな課税ルールの創出を主導しつつある。その意義と限界について検討してみたい。
◆バイデン税制改革は米国経済に何をもたらすか
バイデン大統領は就任直前に1.9兆ドル規模(約200兆円)の「米国救済計画」を打ち出した。これはコロナによって打撃を受けた低中所得層の支援を目的としたもので、現金直接給付、失業保険給付期間の延長のほか、子育て世帯に対する税額控除を使った「子ども手当」の毎月支給など、ベーシックインカムに近い給付の実施を目指している。3月に、共和党が反対したため民主党単独で可決した。
続いて打ち出されたのが、中長期の「米国雇用計画」と「米国家族計画」である。「米国雇用計画」は8年間に2.3兆ドルを投じ、インフラ整備(高速道路、通信網、水道等)、産業強化(電気自動車、半導体、クリーンエネルギー等)、生活基盤向上(学校、保育施設、低所得者住宅等)を図るという。「米国家族計画」は10年間に1.8兆ドルを投入し、教育支援(幼児教育、コミュニティカレッジ、マイノリティ教育等)、育児・介護支援、家計支援(子育て世帯の税額控除)を進める構想となっている。
3つの計画を合わせると総額6兆ドル、日本のGDPを超えるほどの大きさになる。財源はどうするのか。「米国雇用計画」では、法人税の引き上げ(21%から28%へ)、多国籍企業の海外収益への課税強化などで10年間1.75兆ドル、15年間2.75兆ドルの税収を確保する目算だ。「米国家族計画」では、個人所得税の最高税率引き上げ(37%から39.6%へ)、キャピタルゲイン課税の引き上げ(20%から39.6%へ)のほか、税務当局による徴税強化などによって10年間1.5兆ドルを調達するという。
1930年代のニューディール期に匹敵する財政の大膨脹、大企業・富裕層に増税し、中低所得層に回す所得再分配政策、これはまさに1980年代のレーガン政権時代に始まった新自由主義、市場原理主義、「小さな政府」路線の180度転換であり、格差是正、「大きな政府」路線への回帰といえる。こうした転換は、米国社会の格差拡大が極限まで達していることの帰結にほかならない。
しかし、これらの計画はどこまで実現可能なのか。民主党左派の主張に近い増税政策に対して、共和党だけでなく民主党の一部議員も同意していない。「米国雇用計画」について、超党派の上院議員団は、8年間1.2兆ドルに圧縮、使途は道路等の旧来型のインフラ整備を主とし、財源には法人税増税をあてないといった妥協案を早くも作り上げた。
今後の見通しとして、おそらく大幅な増税は議会が認めず、財政赤字が膨らむことになるだろう。しかしそうなると、インフレの高進は避けられず、といってFRBが金融引締め、金利引上げに動けば金融危機を招きかねない。FRBの舵取りをめぐって米国経済は混迷を深めていくかもしれない。
◆なぜ国際課税ルールは革新されなければならないのか
バイデン政権による法人税引上げ政策は、多国籍企業に対する国境を超えた新たな課税ルールの実現を促すことになる。新たなルールへの道筋をふり返ってみよう。
戦前の国際連盟の時代から、国境を越えた事業活動に対する課税の問題は検討が重ねられてきた。そこでは、多国籍企業の本社所在国と海外子会社立地国の課税権の配分が焦点になり、二重課税の調整を図る2国間租税条約のモデルが作成された。第二次大戦後、多国籍企業の活動が活発になるにつれて、二重課税を回避しつつ課税権を確保する租税条約と国内租税法体系の整備が図られていった。国際的な議論の場としてはOECDと国連の二つがあったが、主導権は先進国クラブであるOECDが握っていた。
この当時の国際課税の原則は、製造業を想定して、独立企業原則(多国籍企業グループの子会社を独立した企業とみなす)と、PE原則(PE=物理的拠点の存在する国に課税権がある)が柱になっていた。ところが21世紀に入り、GAFAというグローバル・デジタル企業が登場すると、こうした原則では税収を確保できないことが明らかになっていく。GAFAはPEをもたずに世界中で売り上げを伸ばし、利益をあげていく。利益源となるのは無形資産(ビジネスモデル、ブランド、知的財産権)であり、これは開発した本社からタックスヘイブンの子会社に移転できるため、企業グループ内の取引を通じてタックスヘイブンに利益を集め、課税を回避できる。最近の調査によれば、世界の主要企業5万社の税負担率平均25.1%に対して、GAFAは15.4%と6割しか負担していない(「日本経済新聞」2021年5月9日)。
このような状況に対して、英国を拠点とする有力NGOのタックス・ジャスティス・ネットワークなどが問題を提起し、多国籍企業の課税逃れは年間5000億ドルという推計を発表した。対策として、多国籍企業グループの利益を合算したうえで各国に一定の方式で合算利益を配分し、それぞれ課税する方法(独立企業原則、PE原則の否定)、各国の法人税率の共通最低ラインの設定(タックスヘイブンの否定)などの提案を行った。
リーマンショック以後、問題を放置できなくなったOECDは2012年にG20と共同して46カ国の規模でBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2016年に15項目の行動計画を策定した。これによって多国籍企業の活動・納税実績の国別報告書作成が義務づけられるなどの成果が生まれたが、税逃れを十分に捕捉する実効性あるルール制定は残された課題となった。
そこでOECDとG20は139カ国・地域が集まる「拡張された枠組み」を創出し、多国籍企業課税の新ルールの形成を目指した。2018年には、①多国籍企業の総利益に対する課税権の国別配分、②法人税の国際最低税率の設定という2本柱からなる方策がまとめられた。ところが、米国のトランプ政権がこれに同意せず、新ルールの実現は暗礁に乗り上げた。そこにバイデン政権が登場し、国内の法人税増税政策に連動する形でOECD提案を米国主導で推進することになった。新ルールは、①法人税の共通最低税率を15%以上とする、②多国籍企業の超過利潤のうち20~30%について、売上のある各国に課税権を配分するというもので、2021年10月のG20サミットで最終合意に至る見通しである。
◆新しい国際課税ルールはどこまで評価できるか
新しい国際課税ルールは、これを求めてきた国際NGOや労働組合からはあまり評価されていない。
第一に、対象となる多国籍企業の範囲が狭く、税収増加が見込めない。現時点の案では、年間売上高200億ユーロ(約2.6兆円)以上、利益率10%以上の巨大高収益企業のみが対象になる。業種では銀行・保険、資源企業は除かれている。該当企業は世界全体で100社程度と想定されている。GAFAのうちアマゾンは利益率が10%未満であるため除外される。
第二に、課税範囲が限定され、利益配分方式が偏っている。新方式は利益全体に及ぶのでなく、利益率10%までの利益および10%を超える超過利益の70~80%は従来の課税方式のままであり、超過利益のうち20~30%にしか適用されない。この部分が売上高に応じて各国に配分され、各国の税率で課税される。すでに独自にデジタル・サービス税を導入して売上高に課税しているインドなどからみれば、減収になるかもしれない。
第三に、最低税率が低すぎて、タックスヘイブンを容認することになる。現時点では少なくとも15%以上という低いラインが設定されている。そのうえ実効税率を計算する分母にあたる利益の算出に抜け道が用意され、従来どおりの税負担でも計算上の税率が高くなり、最低法人税率が意味をもたないことになる。
第四に、総じて途上国の声が反映されていない。現在の案が実施された場合、途上国側に税収増加のメリットはあまり期待できない。先進国主導のルール作りでなく、国連のもとで途上国の発言力が保障された場でルールが策定されるべきだという批判がある。
このような問題点をあげて、いま拙速に決定してしまうと今後当分の間変更されないため、もう少し時間をかけて検討すべきだとして、早期妥結に反対する意見が提起されている。しかし、現在の改革機運を逃すならば、現状を変える機会が失われ、現行の欠陥ルールが生き続けることになる。今回の新ルールは様々な限界をもつとしても、法人税切下げ競争にブレーキをかけ、多国籍企業の課税回避を抑制する第一歩として意義をもつのではないか。
グローバルに活動する多国籍企業に対して、課税権力も主権国家の枠を超えてグローバル化していく必要がある。諸富徹『グローバル・タックス』(岩波新書)は、グローバル化の方式には、課税権力のネットワーク化と超国家機関の創出の2ルートがあると論じているが、その第1ルートが現実化しつつあると考えられる。グローバルな課題に対処するためには、1国主義を超える様々なグローバル・ガバナンスの道が開拓されなければならない。課税問題にとどまらず、多国籍企業規制(「ビジネスと人権」)、気候変動、感染症などの課題に連携して取り組んでいくことが求められている。(「テオリア」107号、2021年8月)