世界首位を走るトヨタの未来は安泰か?

◆コロナ禍で他社を引き離す

 2020年から続く新型コロナの世界的大流行によって世界の自動車メーカーは苦戦を余儀なくされているが、トヨタ自動車は2021年の世界新車販売台数1135万台(ダイハツ、日野、スバルを含む)、前年比9%増を達成し、2年連続で世界首位の座を維持した。2位のフォルクスワーゲンが888万台(前年比5%減)、3位の日産・ルノー・三菱が768万台(前年比0%増)だったから、トヨタの強さは際立っている。

 米国市場でも2021年にトヨタはGMを抜いて販売台数首位に立った。米国市場で海外メーカーがトップになるのは史上初めてのことだ。2022年に入ってもトヨタは強さを維持し、上半期(1~6月)の世界販売台数は513万台と前年同期より6%減少したものの、2位フォルクスワーゲンが387万台(22%減)と大きく落ち込んだため、3年連続で世界首位を保つことになった。

 各社が苦戦した要因は、コロナ禍で工場の操業停止、サプライチェーンの寸断が生じたためだが、なかでもデジタル化の波のなかで半導体が圧倒的に不足したことが大きかった。トヨタは競合他社に比べて半導体調達難の影響をある程度回避できたように思われる。

 表1によって、国内大手8社の2021年度(2021年4月~2022年3月)における生産・販売実績をみよう。各社の世界生産台数では、トヨタ、スズキ、ダイハツ、三菱が前年度比プラス、ホンダ、日産、マツダ、スバルが前年度比マイナスを記録した。世界販売台数も同様の傾向であり、トヨタ、スズキ、三菱がプラス、他の5社がマイナスだった。また国内生産台数は三菱以外はトヨタを含めて7社がマイナスとなった。

表1 自動車8社の生産・販売台数(2021年度)

     
 

世界生産

 

国内生産

 

世界販売

 

国内生産

 

(千台)

(%)

(千台)

(%)

(千台)

(%)

比率(%)

トヨタ自動車

8,570

4.7

2,761

-5.4

9,512

4.7

32.2

ホンダ

4,143

-8.6

634

-7.7

4,363

-6.3

15.3

日産自動車

3,390

-10.7

446

-13.8

3,821

-9.0

13.2

スズキ

2,822

6.4

840

-9.7

2,707

5.3

29.8

ダイハツ工業

1,518

8.8

841

-8.4

907

-1.7

55.4

三菱自動車

1,025

25.9

421

14.7

937

16.9

41.1

マツダ

1,024

-12.6

696

-6.8

1,251

-2.8

68.0

スバル

727

-10.3

455

-13.3

812

-11.3

62.6

出所:「朝日新聞」2022年4月28日

         

注:生産と販売の%は前年度比増減率

       

 

 トヨタ、ホンダ、日産の上位3社を比べると、世界生産と世界販売でトヨタのプラス、ホンダ、日産のマイナスが対照的であり、トヨタの一人勝ちといった様相だった。ホンダと日産は国内生産比率がきわめて低いことも、トヨタとの違いを示している。

 

◆空前の好業績はさらに続くのか

 表2によれば、2022年3月期(2021年4月~22年3月)のトヨタは営業収益、純利益とも空前の好業績だった。営業収益は31兆3800億円、純利益は2兆8500億円とかつてない規模に達した。販売台数は2020年3月期の水準に達していないにもかかわらず、利益を大きく伸ばすことができたのは、利幅の多い高級車の売上が増加したためだろう。

表2 トヨタの主要経営指標

     
 

2019年4月

2020年4月

2021年4月

2022年4月

 

~20年3月

~21年3月

~22年3月

~23年3月

営業収益(億円)

298,665

272,146

313,795

345,000

純利益(億円)

20,361

22,453

28,501

23,600

販売台数(万台)

896

765

823

885

従業員数(人)

361,907

366,283

372,817

 

平均臨時雇用人員(人)

86,596

80,009

87,120

 

税金費用(億円)

6,818

6,500

11,159

 

実際負担税率(%)

24.4

22.2

28.0

 

出所:トヨタ自動車「有価証券報告書」2022年3月期他

 

注:2022年4月~23年3月は2022年8月時点での決算見通し

 

 

 表3によって国内他社と比較してみると、売上高、純利益はスバルを除いて各社とも前年度に比べて増加しているが、増加率はトヨタが優勢であり、トヨタとホンダ以下各社との差が開いたことが明らかだ。なかでも純利益の増加率はトヨタが際立っている。

 利益増加の要因について、トヨタは販売台数の拡大とともに為替変動の影響を指摘し、資材高騰というマイナス要因をカバーした点をあげている。しかし、2023年3月期の業績見通しでは、最近の世界的な物価上昇、特に鉄鋼、樹脂原料等の原材料費膨張が円安というプラス要因を上回り、利益は落ち込むとみている。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱は在庫を圧縮するトヨタ生産方式に打撃を与えており、原材料費の高騰はトヨタを支える部品企業群を苦境に追い込むだろう。

 

 

表3 自動車7社の経営実績(2022年3月期)

 
 

売上高

 

純利益

 
 

(億円)

(%)

(億円)

(%)

トヨタ自動車

313,795

15.3

28,501

26.9

ホンダ

145,526

10.5

7.070

7.6

日産自動車

84,245

7.1

2,155

スズキ

35,683

12.3

1,603

9.5

マツダ

31,203

8.3

815

スバル

27,445

-3.0

700

-8.5

三菱自動車

20,389

40.1

740

出所:「朝日新聞」2022年5月14日

   

注:%は前年度比増減率。純利益の―は前年度赤字のため

  算出せず。

     

 

一方、表4によって地域別の事業実績をみると、生産台数・販売台数ともに日本はマイナス、海外はプラスだった。海外ではアジア、その他(中南米、オセアニア、アフリカ、中東)の伸びが北米、欧州を大幅に上回った。その結果、生産台数はアジアが北米に接近するまでに地位をあげた。営業収益では、全地域でプラスを記録したが、日本、北米は相対的にそれ以外の地域より低かった。営業利益はどの地域もかなりの伸びをみせたが、アジアが54.2%増の6724億円に達し、北米の5658億円を上回ったことが注目される。

表4 トヨタの地域別事業実績(2021年4月~2022年3月)

     
 

生産台数

 

販売台数

 

営業収益

 

営業利益

 
 

(万台)

前期比(%)

(万台)

前期比(%)

(億円)

前期比(%)

(億円)(億利益

前期比(%)

日本

374

-5.3

192

-9.5

159,914

7.0

14,234

23.9

北米

175

6.7

239

3.5

111,665

17.6

5,658

41.0

欧州

71

10.1

102

6.0

38,678

23.4

1,630

50.9

アジア

150

47.6

154

26.3

65,306

29.4

6,724

54.2

その他

46

51.3

135

31.7

29,282

56.3

2,382

298.0

合計

816

8.0

823

7.6

313,795

15.3

29,957

36.3

出所:トヨタ自動車「有価証券報告書」2022年3月期

     

 

ちなみに国別の販売台数を示せば、米国233万台、中国194万台が飛び抜けて多く、それに続くインドネシア、タイ、カナダ、オーストラリアなど20万台水準の国々と差をつけていた。

 

◆電気自動車への転換は進むのか

 世界首位の座にあるトヨタにとって、脱炭素革命への対応、ガソリン車から電気自動車へのシフトは簡単ではない。EU、中国、米国など世界の主要自動車市場では、2050年のカーボンニュートラルに向けて、2030年代にはガソリン車を禁止しようとしている。主要な自動車メーカーは一斉に電気自動車へのシフトを進めている。

 しかし、トヨタはこれまで電気自動車生産には消極的で、ハイブリッド車を広義の電動車と位置づけつつ、内燃機関を維持した多様な車種の開発を進めてきた。表5はトヨタが公表している電動車の生産実績だが、ハイブリッド車が大半であり、これは世界標準では「排ガスゼロ車」とは認められていない。トヨタがハイブリッド車の成功体験に囚われているうちに、世界では電気自動車の市場が急速に拡大しており、2021年の世界販売台数450万台が2022年には700万台へと急増する見込みだ。

表5 トヨタの電動車販売実績

         
 

2019

 

2020

 

2021

   
 

(台)

(%)

(台)

(%)

(台)

(%)

 

HEV

1,860,188

96.7

1,902,621

97.1

2,482,236

94.7

 

MHEV

4,602

0.2

3,320

0.2

7,482

0.3

 

PHEV

56,524

2.9

48,513

2.5

111,882

4.3

 

FCEV

2,494

0.1

1,770

0.1

5,918

0.2

 

BEV

0

0

3,346

0.2

14,407

0.5

 

合計

1,923,808

100.0

1,959,570

100.0

2,621,925

100.0

 

出所:トヨタ自動車ウエブサイト>企業情報>会社概要>販売・生産・輸出実績

 

 電気自動車のメーカーは、表6に示されるようにテスラを先頭に、上海汽車集団、BYDなどの中国勢がこれに続き、トヨタははるか後方の21位と出遅れている。またトヨタは、ガソリン車禁止政策を緩和させようと政治工作を行い、脱炭素革命を妨害しているとして、世界の環境運動団体から批判されている。有力な環境NGOのグリーンピースは、2021年11月、世界の自動車大手10社の気候変動対策でトヨタは最下位と評価した。また、2022年6月のトヨタ株主総会では、デンマークの年金基金から、トヨタの脱炭素の姿勢に対する質問状が提出された。

表6 電気自動車(EV)の会社別販売台数

会社名

販売台数(万台)

EV比率

 

2021年

2022年上期

(%)

テスラ

93.6

56.4

100

上海汽車集団

59.6

31.0

21

フォルクスワーゲン

45.2

21.7

5

BYD

32.0

32.4

43

日産・ルノー・三菱

24.8

13.3

3

現代自動車

22.3

16.9

3

ステランティス

18.2

11.6

3

長城汽車

13.5

 

11

広州汽車集団

12.0

10.0

29

浙江吉利集団

11.0

12.3

8

BMW

11.0

 

4

トヨタ自動車

1.4

 

0.1

出所:「日本経済新聞」2022年3月18日、7月28日

注:EV比率は2021年のデータ

   

 

こうした事態に対して、2021年12月、トヨタは2030年の電気自動車世界販売目標を200万台から350万台に引き上げ、4兆円(うち車載電池2兆円)を投資すると発表した。2022年5月には、初の量産型電気自動車bZ4Xを発売した。とはいえ、トヨタはホンダのように電気自動車一辺倒になるのでなく、水素エンジン車など、エンジン技術を残しつつ燃料の脱炭素化を進める戦略を堅持している。しかし、膨大な資金を要する電気自動車、水素エンジン車、燃料電池などの開発を並行して進めていけるのか。またこれまで協力してきた多数の部品メーカーを円滑に再編成していけるのか。自動車産業全体の大転換を前にして、世界王者トヨタの前途はかなり厳しいのではないだろうか。(2022年9月)

トヨタの経営動向―2019年3月期決算とCASE革命への対応

  • 売上高30兆円突破

 トヨタの2019年3月期(2018年4月~2019年3月)連結売上高は、日本企業で初めて30兆円を突破した(表1)。ホンダ15.9兆円、日立製作所9.5兆円と比べると、トヨタの飛び抜けた強さがわかる。販売台数は3年連続で900万台弱を維持し、非連結会社も含めると1060万台に達した。2018年の世界販売台数ランキングでは、フォルクスワーゲン1083万台、ルノー・日産・三菱連合1076万台に続き3位にとどまったが、その差はわずかである。

表1 トヨタの主要経営指標の推移

   

 

 

2016年3月期

2017年3月期

2018年3月期

2019年3月期

2020年3月期

販売台数(万台)

868

897

896

898

900

売上高(億円)

284,031

275,972

293,795

302,257

300,000

営業利益(億円)

28,539

19,943

23,999

24,675

25,500

純利益(億円)

23,127

18,311

24,940

18,829

22,500

従業員数(千人)

349

364

369

371

-

出所:トヨタ自動車『有価証券報告書』、「決算説明会資料」2019年3月期。

注 :2020年3月期は見通し。

       

 営業利益は2兆4675億円で3年連続増加を達成、ホンダ、日産、スズキ、マツダ、SUBARUが軒並み前期比営業減益となるなかで、トヨタの好調は際立っている。ただし、純利益は1兆8829億円、前期比24.5%減となったが、これは米国法人税減税の効果終了、保有株の評価減という特殊要因によるようだ。

営業利益の増減要因は、「決算説明会資料」によれば、プラス面は営業努力(台数・構成、金融事業他)2750億円、原価改善800億円、マイナス面は諸経費増加(労務費、減価償却費他)1650億円、為替変動500億円などが主なもので、減価改善、為替変動の影響は意外に少ない。しかし、2019年は円高が進む情勢にあり、1円400億円と言われるトヨタでは3500億円の利益押し下げ効果を見込み、業績予想を下方修正している。

 

  • アジアで稼ぐ構図

 表2によれば、地域別生産台数は日本、北米、アジアの順、販売台数は北米、日本、アジアの順であり、日本からの輸出を含めて北米が最重要市場となっているようにみえる。

表2 トヨタの地域別経営指標(2019年3月期)

 

 

 

生産台数

販売台数

売上高

営業利益

売上高利益率

 

(万台)

(万台)

(億円)

(億円)

(%)

日本

431

223

166,254

16,917

10.2

北米

184

275

108,172

1,145

1.1

欧州

68

99

32,389

1,249

3.9

アジア

168

168

55,130

4,575

8.3

その他

47

133

23,334

911

3.9

消去または全社

-

-

△83,023

△121

-

合計

899

898

302,257

24,675

8.2

出所:トヨタ自動車『有価証券報告書』2019年3月期。

   

 一方、売上高は日本、北米、アジア、欧州の順、営業利益は日本、アジア、欧州、北米の順であり、アジアが北米よりも稼いでいる状況が示される。売上高利益率(売上高に対する営業利益の比率)を計算してみると、日本10.2%、アジア8.3%が高く、北米はわずか1.1%にとどまっている。

 アジアの販売台数(2018年)を国別に集計してみると、中国(香港・マカオを含む)149万台、インドネシア36万台、タイ32万台、フィリピン15万台、台湾12万台などが上位を占め、合計286万台に達する(トヨタ、ウエブサイト掲載データ)。表2より多いのは、中国の非連結企業を含むためである。このデータでは北米280万台であり、2018年にアジアが北米を上回る状況になった(2011年に続いて2回目)。

 次にアジアの生産台数を国別に集計すると、中国132万台、タイ59万台、インドネシア20万台、インド16万台、台湾9万台、フィリピン4.6万台など、合計257万台となり、北米193万台を大きく上回っている。要するに、非連結企業を含めた場合、アジアは販売、生産の両面で北米を超え、最重要地域になっているといえる。

 

  • CASE革命に異例の対応

 自動車産業は100年に一度の変革期、CASE革命に直面している。C(つながる車)、A(自動運転)、S(シェアリング)、E(電動化)といったイノベーションに対応すべく、トヨタは移動サービスのプラットフォーム企業化を目指している。そのために研究開発投資に年間1兆円規模(年間売上高の3%)を投じている。しかし、新たなライバル企業のアルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コムの研究開発投資額は2~3兆円(年間売上高の12~15%)であり、トヨタに差をつけている。

 CASEの4分野ではそれぞれに先行企業が存在し、また相互の関連性が強いため、激しい主導権争いが展開されている。従来の体制ではCASE革命に対処しきれないとみたトヨタは、異例の対応策を打ち出している。第一に、様々なレベルでの企業連携の推進である。たとえばソフトバンクと共同出資で移動サービス推進企業「モネ・テクノロジーズ」を設立、これに小売、物流、不動産など90社以上が参加、ホンダの合流も注目される。トヨタはライドシェアではウーバーテクノロジーズ、グラブ、滴滴出行などへの出資も進めている。また、パナソニックとは住宅事業を統合して「プライム・ライフ・テクノロジーズ」設立を決定する一方、電気自動車向け電池の開発でも連携を強めている。電気自動車では中国大手のBYDとも提携、自動運転では中国のバイドウのアポロ計画に参加するなど、連携ネットワークを拡大している。

 第二に、人事・労務面の対応である。新事業に機動的に対応するために、執行役員を55人から23人へと大幅に削減し、意思決定のスピードを速める。管理職を整理して新資格「幹部職」を2300人選定し、経営課題ごとにリーダーを柔軟に配置するという。また、春闘賃金交渉では、業界のベースアップ相場形成の先導役を降り、一律賃上げ方式でない人材確保策を打ち出してきている。さらに、2019年夏の賞与は、好業績にもかかわらず管理職中心に減額に踏み切った。これらの異例の人事政策は、CASE革命に直面して「生きるか死ぬか」という危機感を抱くトヨタ経営陣の焦りの現れと考えられる。トヨタのようなモノづくりの「成功体験」が、デジタル経済ではむしろマイナスに作用するかもしれないからだ。

(フィリピントヨタ労組を支援する会「フィリピントヨタ労組と共に」第19号、2019年8月)