トヨタの経営動向―2019年3月期決算とCASE革命への対応

  • 売上高30兆円突破

 トヨタの2019年3月期(2018年4月~2019年3月)連結売上高は、日本企業で初めて30兆円を突破した(表1)。ホンダ15.9兆円、日立製作所9.5兆円と比べると、トヨタの飛び抜けた強さがわかる。販売台数は3年連続で900万台弱を維持し、非連結会社も含めると1060万台に達した。2018年の世界販売台数ランキングでは、フォルクスワーゲン1083万台、ルノー・日産・三菱連合1076万台に続き3位にとどまったが、その差はわずかである。

表1 トヨタの主要経営指標の推移

   

 

 

2016年3月期

2017年3月期

2018年3月期

2019年3月期

2020年3月期

販売台数(万台)

868

897

896

898

900

売上高(億円)

284,031

275,972

293,795

302,257

300,000

営業利益(億円)

28,539

19,943

23,999

24,675

25,500

純利益(億円)

23,127

18,311

24,940

18,829

22,500

従業員数(千人)

349

364

369

371

-

出所:トヨタ自動車『有価証券報告書』、「決算説明会資料」2019年3月期。

注 :2020年3月期は見通し。

       

 営業利益は2兆4675億円で3年連続増加を達成、ホンダ、日産、スズキ、マツダ、SUBARUが軒並み前期比営業減益となるなかで、トヨタの好調は際立っている。ただし、純利益は1兆8829億円、前期比24.5%減となったが、これは米国法人税減税の効果終了、保有株の評価減という特殊要因によるようだ。

営業利益の増減要因は、「決算説明会資料」によれば、プラス面は営業努力(台数・構成、金融事業他)2750億円、原価改善800億円、マイナス面は諸経費増加(労務費、減価償却費他)1650億円、為替変動500億円などが主なもので、減価改善、為替変動の影響は意外に少ない。しかし、2019年は円高が進む情勢にあり、1円400億円と言われるトヨタでは3500億円の利益押し下げ効果を見込み、業績予想を下方修正している。

 

  • アジアで稼ぐ構図

 表2によれば、地域別生産台数は日本、北米、アジアの順、販売台数は北米、日本、アジアの順であり、日本からの輸出を含めて北米が最重要市場となっているようにみえる。

表2 トヨタの地域別経営指標(2019年3月期)

 

 

 

生産台数

販売台数

売上高

営業利益

売上高利益率

 

(万台)

(万台)

(億円)

(億円)

(%)

日本

431

223

166,254

16,917

10.2

北米

184

275

108,172

1,145

1.1

欧州

68

99

32,389

1,249

3.9

アジア

168

168

55,130

4,575

8.3

その他

47

133

23,334

911

3.9

消去または全社

-

-

△83,023

△121

-

合計

899

898

302,257

24,675

8.2

出所:トヨタ自動車『有価証券報告書』2019年3月期。

   

 一方、売上高は日本、北米、アジア、欧州の順、営業利益は日本、アジア、欧州、北米の順であり、アジアが北米よりも稼いでいる状況が示される。売上高利益率(売上高に対する営業利益の比率)を計算してみると、日本10.2%、アジア8.3%が高く、北米はわずか1.1%にとどまっている。

 アジアの販売台数(2018年)を国別に集計してみると、中国(香港・マカオを含む)149万台、インドネシア36万台、タイ32万台、フィリピン15万台、台湾12万台などが上位を占め、合計286万台に達する(トヨタ、ウエブサイト掲載データ)。表2より多いのは、中国の非連結企業を含むためである。このデータでは北米280万台であり、2018年にアジアが北米を上回る状況になった(2011年に続いて2回目)。

 次にアジアの生産台数を国別に集計すると、中国132万台、タイ59万台、インドネシア20万台、インド16万台、台湾9万台、フィリピン4.6万台など、合計257万台となり、北米193万台を大きく上回っている。要するに、非連結企業を含めた場合、アジアは販売、生産の両面で北米を超え、最重要地域になっているといえる。

 

  • CASE革命に異例の対応

 自動車産業は100年に一度の変革期、CASE革命に直面している。C(つながる車)、A(自動運転)、S(シェアリング)、E(電動化)といったイノベーションに対応すべく、トヨタは移動サービスのプラットフォーム企業化を目指している。そのために研究開発投資に年間1兆円規模(年間売上高の3%)を投じている。しかし、新たなライバル企業のアルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コムの研究開発投資額は2~3兆円(年間売上高の12~15%)であり、トヨタに差をつけている。

 CASEの4分野ではそれぞれに先行企業が存在し、また相互の関連性が強いため、激しい主導権争いが展開されている。従来の体制ではCASE革命に対処しきれないとみたトヨタは、異例の対応策を打ち出している。第一に、様々なレベルでの企業連携の推進である。たとえばソフトバンクと共同出資で移動サービス推進企業「モネ・テクノロジーズ」を設立、これに小売、物流、不動産など90社以上が参加、ホンダの合流も注目される。トヨタはライドシェアではウーバーテクノロジーズ、グラブ、滴滴出行などへの出資も進めている。また、パナソニックとは住宅事業を統合して「プライム・ライフ・テクノロジーズ」設立を決定する一方、電気自動車向け電池の開発でも連携を強めている。電気自動車では中国大手のBYDとも提携、自動運転では中国のバイドウのアポロ計画に参加するなど、連携ネットワークを拡大している。

 第二に、人事・労務面の対応である。新事業に機動的に対応するために、執行役員を55人から23人へと大幅に削減し、意思決定のスピードを速める。管理職を整理して新資格「幹部職」を2300人選定し、経営課題ごとにリーダーを柔軟に配置するという。また、春闘賃金交渉では、業界のベースアップ相場形成の先導役を降り、一律賃上げ方式でない人材確保策を打ち出してきている。さらに、2019年夏の賞与は、好業績にもかかわらず管理職中心に減額に踏み切った。これらの異例の人事政策は、CASE革命に直面して「生きるか死ぬか」という危機感を抱くトヨタ経営陣の焦りの現れと考えられる。トヨタのようなモノづくりの「成功体験」が、デジタル経済ではむしろマイナスに作用するかもしれないからだ。

(フィリピントヨタ労組を支援する会「フィリピントヨタ労組と共に」第19号、2019年8月)