第2次トランプ政権と米国覇権の行方

第2次トランプ政権が発足して40日が経過した。この間、洪水のように大統領令を乱発し、米国国内も国際社会もトランプの言動に振り回されている。トランプ政権は何を目指しているのか、世界の覇権構造はどのように変貌していくのか、先行きはなお不透明だが、とりあえず現状を整理しておきたい。

◆大統領令の乱発

 トランプ大統領は最初の1か月だけで100件以上の大統領令(行政命令・覚書・布告)に署名した。国内政策では第一に、イーロン・マスク率いるDOGE(政府効率化省)を通じた政府機関の解体、政府職員の大量整理があげられる。国際開発局、消費者金融保護局の業務停止をはじめ、国防総省、中央情報局を含めて多数の政府機関に大幅な人員削減を迫っている。また、DEI(多様性、公平性、包摂性)を推進する政府内の部署の廃止を実施した。第二は移民排斥政策であり、「不法移民」の強制送還、メキシコ国境への米軍動員、壁の建設をはじめ、合法移民の規制、国籍付与の「出生地主義」の修正などが打ち出された。その他、環境・エネルギー政策の転換では、「パリ協定」からの離脱、化石燃料開発の促進策を実施した。さらに、法人税・所得税の減税政策、企業活動の規制緩和策が予定されている。

対外政策では第一は関税政策であり、中国には、第1期政権期の関税引上げ策を継承し、新たに10%の追加引上げに踏み切った。隣国メキシコ、カナダへは、合成麻薬流入を理由に25%課税を提起したが、実施は延期されている。その他、鉄鋼、アルミ、自動車への25%追加関税、すべての国からの輸入品への一律10~20%関税、特定の相手国に対する相互関税など、様々な関税発動を予告している。第二に国際協調システムからの離脱だ。気候変動に関する「パリ協定」離脱、WHO等の国際機関からの撤退、国際課税協定・国際租税協力枠組条約交渉からの撤収などが目に付く。第三に、目下の二つの戦争に対する積極的な停戦工作だ。パレスチナ戦争では停戦合意の実施が進むなかでイスラエル寄りの姿勢を強め、ガザを所有してリゾート開発する構想を打ち出した。ウクライナ戦争では、米ロの2国間交渉を先行させ、ウクライナ、欧州諸国の関与を後回しにした。 

◆引き起こされる内外の混乱

 第一に、大統領令の拙速な発動が現場に様々な混乱を引き起こした。政府機関の閉鎖、職員のリストラは、通常業務の停止、大統領令の執行停止を求める訴訟の多発、連邦地裁による差し止め命令など、総じて連邦政府の機能停滞といった事態を生んでいる。ただ、こうした混乱が生じるとしても、いずれ最高裁によって訴訟は終結し、行きすぎは是正されながら、行政整理は進行していくだろう。

 第二に、関税引上げが広範囲の輸入品に適用されれば、国内的にはインフレ、世界的には貿易の停滞、成長率鈍化を引き起こすだろう。移民排斥も低賃金労働力の不足に帰結し、インフレに結びつく。減税政策も同様の効果をもつ。バイデン政権下のインフレを非難して選挙に勝ったトランプだが、このままではインフレは避けられないように思われる。

 第三に、米国第一主義による国際システムの混乱だ。国際社会をリードしてきた米国がリード役を降りることになれば、様々な空白、停滞が生じる。「パリ協定」離脱は気候変動への取り組みに打撃を与える。デジタル課税協定も実現一歩手前で頓挫した。ウクライナ停戦交渉をめぐっては米国・欧州間に深い亀裂が生じた。国連総会の決議では、ロシアを非難する欧州等提案と非難を避けた米国提案が並列する形となり、亀裂が表面化した。G7、G20 の運営も混迷するだろう。 

◆世界覇権構造の変貌

 トランプ政権の米国第一主義には二重の意味が込められている。第一は狭義の国益優先であり、覇権国に求められる国際貢献は軽視される。第二に、軍事力・経済力では超大国として世界第1位の座を維持することだ。従って、その地位を脅かす中国の台頭は抑え込む意思が強烈に発動される。超大国の特権、軍事的・経済的威圧を駆使して、ディールという手法で米国の国益確保を図ることになる。

 覇権国に相応しい国際貢献を果たさず、自国本位で普遍的理念(人権、法の支配等)を提供できない米国は、国際社会における信認を低下させ、友好国の離反を招かざるをえない。米国は国際社会をリードする覇権国の地位から後退し、代わりに中国が台頭してくるだろう。しかし中国も超大国とはいえ、普遍的理念を供給して世界から信認を得る覇権国にはなりえない。とすれば、世界は超大国として対立する米中と、これに続くEU、ロシア、インド、その他グローバルサウスが並立する、覇権国不在の多極化世界に向かうことになるだろう。多極化世界では各国が自国中心主義に走り、軍備増強に傾いて国際社会が不安定化する危険性がある。国連を軸とした多国間協調・連携が何よりも重要になるだろう。

(POLITICAL ECONOMY, No.279、2025年3月1日)