軍拡路線で急成長する軍事産業

◆世界的な軍拡潮流に呼応する日本

 ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ侵攻が長期化するなかで、世界的な軍備拡張の潮流が生じている。NATOは加盟国32カ国のうち23カ国が軍事費のGDP比2%目標を2024年に達成する見込みという。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2023年の世界の軍事費は前年比6.8%増の2.4兆ドルと過去最高に達した。1位の米国は2.3%増の9160億ドル、2位の中国は6.0%増の2960億ドルだったが、3位のロシアは24%増の1090億ドル、8位のウクライナは51%増の648億ドルへと急増した。その影響で日本は10位から11位に順位を下げたが、11%増の502億ドルと過去最大の増加率を記録した。

 2022年末の安保3文書閣議決定を契機に軍拡路線に突入した日本の防衛関係予算は、2022年度の5.2兆円が23年度は6.6兆円へと当初予算ベースで27.4%増、さらに24年度は7.7兆円へと17.0%の増加だ。軍拡予算の規模は2023~2027年度の5年間総額で43兆円と見積もられているが、1ドル=108円と想定した計画であるため、おそらくさらに大幅な増額になるだろう。軍拡予算の使途は自衛隊員の生活・勤務環境の改善まで含めて多方面に渡るが、ミサイル・戦闘機などの兵器増強が中核となることはいうまでもない。

 

◆「防衛特需」で潤う軍事産業

 安保3文書では軍事産業を「いわば防衛力そのもの」と位置づけ、その育成・強化を強調している。そのための手段として、軍事産業への手厚い利益保証(営業利益率15%)、輸出促進等の様々な支援策を打ち出している。それらは2022年4月に経団連が公表した「防衛計画の大綱に向けた提言」の内容を受ける形で制定されたと考えられる。

 軍事産業の対応は迅速だった。三菱重工は2023年11月に開催した「防衛事業説明会」で、スタンドオフミサイル、統合防空ミサイル(PATRIOT、SM-3、イージス艦等)、無人兵器(航空、海洋、陸上)、次期戦闘機、宇宙機器等の重点事業を説明し、2026年度までに売上高倍増、それに対応して人員2~3割増といった経営方針を表明した。また2024年5月に行った2023年度決算説明では、全体として受注高、売上高、当期利益は過去最高、特に「航空・防衛・宇宙」部門は受注高が7000億円から2兆円へと3倍近く増加したと報告している。これに続く事業計画説明でも、泉澤社長は「国家安全保障へのニーズの急激な高まりに応えることで事業を拡大する」と言明した。三菱重工の株価は2023年末と比較して2024年6月時点で8割高に達し、PBR(株価純資産倍率)は2倍を超えた。

 川崎重工は防衛省向け受注高を2022年度2628億円から23年度5530億円へと2倍以上伸ばした。同社の主力製品は航空機、ヘリコプター、潜水艦などで、決算説明では防衛省向けが「抜本的な防衛力強化という防衛省の方針のもと、需要増や採算性の改善が期待できる」と記している。IHIは23年度決算説明資料で、防衛省向け航空エンジン・装備品の受注高が2022年度の1156億円から23年度の2684億円へと2.3倍に増加して過去最高を記録、24年度はさらに上回る見通しと説明した。また「成長事業について(民間エンジン・防衛・宇宙事業)」と題する資料では、「防衛力強化」の7つの重点分野を示し、「当社の強みが発揮できる分野に特に大きく予算が割り当て」と期待を滲ませている。

 その他、NEC、三菱電機、日本製鋼所なども受注を伸ばしている。軍事産業の裾野は広く、戦闘機1100社、戦車1300社、艦船8300社にのぼるといわれており、「防衛特需」の影響は多方面に及ぶと想定される。

 

◆際限のない武器輸出へ

 軍拡予算に対応して生産能力を増やした軍事産業は、海外市場への輸出拡大を追求することになる。第二次安倍政権は発足早々、「武器輸出3原則」を「防衛装備移転3原則」へと変更したが、殺傷兵器の輸出に関しては抑制的だった。ところが岸田政権は安保3文書の閣議決定とともに、3原則運用指針の全面的転換へと踏み込み、自民党・公明党の一部議員の検討を経て、23年末には一部殺傷兵器輸出の限定的解禁、さらに24年3月には戦闘機の輸出容認に至った。これには、イギリス・イタリアとの国際共同開発品に限るなどの条件が付与されたが、そんなものは今後いくらでも変更できるだろう。問題は、こうした重要な政策変更を閣議決定のみで進めていることだ。米国などは兵器輸出について議会がチェックする仕組みをもっており、日本も国会にそのような役割をもたせるべきではないか。

 この間、防衛省は軍事産業に働きかけ、内外の兵器展示会・商談会への参加を促してきた。

国内では2022年から在日米軍との取引を想定した商談会「インダストリーデー」を開催、また中小企業の軍事産業関与を狙って「防衛産業参入促進展」を東京・大阪で開いている。

海外では、23年9月、ロンドンで開かれた欧州最大の兵器展示会「DSEI」に日本企業8社が出展、11月にはシドニーで開催された展示会「インド・パシフィック」に初めて日本企業10社が参加した。さらに24年2月の航空機関連展示会「シンガポール・エアショー」に初めてブースを設け、日本から13社が出展した。

 このような防衛省と軍事産業の一体化した武器輸出に向けた動きに対しては、厳しく監視していく必要があろう。   (POLITICAL ECONOMY、264号、2024年7月1日)

米中覇権争いの構造と展望

はじめに

 21世紀に入り、米国の総合国力の低下と中国の台頭によって、世界の覇権構造(「国際秩序」)に大きな変動が生じつつある。米国の政治学者グレアム・アリソンは、新興国が覇権国に挑戦するとき、危険な緊張、衝突が生じうることを「トウキディデスの罠」と捉え、米中戦争の可能性を示唆した(グレアム・アリソン『米中戦争前夜―新旧大国を衝突させる歴史の法則と回復のシナリオ』ダイヤモンド社、2017年)。米国の軍幹部、CIA長官などからは、2027年あたりで中国が台湾に武力侵攻するとの予測が流され、米中軍事衝突の危機が煽られている。

 ロシアがウクライナ侵攻を続けるなかで、米中覇権争いは深刻化する一方にみえる。しかし、一部のハイテク分野を除けば、貿易や投資の双方向の動きは維持され、断絶とはほど遠い状況だ。対立と相互依存の両面をどう統一的に理解すればよいのか。以下では、米中覇権争いの複合的な構造について、米中両国の国力・覇権意思、貿易の動向、ハイテク分野の攻防などを検討したうえで、今後の展望を試みたい。

 

1.米中の総合国力の接近

 覇権国になるには、能力(総合国力)と意思の両要件が揃う必要がある。そこでまず、総合国力のいくつかの要素を比較してみよう。

 GDPをみると、2000年に米国は10兆ドルを上回り、世界GDPの30%超のシェアを誇っていた。WTO加盟直前の中国は1兆ドルを超えた程度、世界の3.5%、米国の12%ほどにすぎなかった。その後、中国は高度成長を続け、2010年に日本を抜いて世界第2位になり、2021年には18兆ドル(世界シェア18.3%)に達した。米国は23兆ドル(23.7%)だったので、中国は米国の77%まで迫ってきた。この勢いが続けば、2030年代には追い抜くという予測が成り立つ。 物価水準を評価した購買力平価基準ではすでに2010年代半ばに追い越しているとの指摘もある。

 貿易規模はどうか。中国の輸出の伸びは目覚ましく、2009年に世界第1位になり、2021年には34兆ドル(世界シェア15%)に達し、米国の2倍近い大きさになった。輸入では2009年以降、米国に続く世界2位の位置にあり、2021年は27兆ドル(世界シェア12%)、米国の92%の規模に到達した。中国は輸出超過、米国は輸入超過が続いていて、これが米中貿易戦争の一因をなしている。2021年の世界貿易収支ランキングをみると、中国は6752億ドルの黒字で世界第1位、米国は1兆1810億ドルの赤字で世界最下位にある。

 このように貿易面では中国が米国よりはるかに強力になっているが、米国はドルが基軸通貨の地位を維持している点で強みをもつ。国際決済でのドルのシェア44.2%に対して人民元は3.5%にすぎない(2021年)。各国政府が保有する外貨準備では、ドル59.5%、人民元2.4%と大差がついている。対外直接投資でも、2021年の残高ベースで米国は世界全体の23%を占め、中国(6%)を引き離している。

 次に軍事力を比較してみる。軍事費は米中ともに増大を続けていて、2022年の米国は7666億ドルで世界第1位、中国は2424億ドルで第2位を占めている。総額でみる限り、その差はなお大きい。核弾頭保有数は米国5425発に対して中国は350発と開きがある。ただし、2035年までに1500発程度に増強する見通しという。各種兵器数もまた総数では米国が中国をかなり上回っている。しかし、米軍をインド太平洋軍に限定するならば、戦闘機、戦闘艦艇、潜水艦それぞれで中国軍は米軍の5倍の規模を備えている。またサイバー空間、宇宙空間などの新領域では、中国が米国に匹敵あるいは一部優勢にあるかもしれない。

 全体として総合国力は米国が中国を上回っているが、その差はかなり縮まりつつあり、米国は危機感を高めている。

 

2.中国の覇権戦略と米国の対抗策

中国は、総合国力の増大とともに、地域覇権(帝国の形成)への意思を示しはじめる。2000年代初めまでは「韜光養晦」路線のもと、大国主義的態度は抑制されてきたが、2000年代中ごろから「平和的台頭論」、さらに「新型大国関係論」などの表現が用いられていく。そして2012年末に成立した習近平政権は、「中華民族の偉大な復興」を掲げ、経済力と軍事力を駆使した大国主義政策を展開することになる。

地域覇権を目指す対外戦略としては「一帯一路」構想があげられる。これは2015年に公式に打ち出された重要政策であり、中国の資金、資材を周辺国に投入し、インフラ建設を通じて中国を軸とする巨大経済圏を構築しようという壮大な構想である。その範囲は中央アジア、南アジアから欧州、アフリカに及び、何らかの協定を結んだ国は150カ国以上とされる。この構想に沿って、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が設立された(本店・北京)。

「一帯一路」構想を補完する地域協力機構として、2001年設立の上海協力機構(SCO)がある。SCOの前身は1996年発足の上海ファイブ(中国、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、キルギス)であり、当初は国境地帯の信頼醸成を図る機構だったが、2001年にウズベキスタンを加えて地域協力機構に格上げし、その後、インド、パキスタン、イラン等が正式加盟するとともに、南アジア、中東諸国が対話パートナー、オブザーバーとなるなど、欧州以外のユーラシア諸国が参加する安全保障機構へと拡大を遂げている(本部・北京)。

さらに中国が覇権国家になる意思を明確に表明したのが、2015年に打ち出された「中国製造2025」という国家戦略だった。これは2025年、さらに2035年、2049年を目標にハイテク分野を中心にして産業技術力を先進国水準に引き上げる行動計画であり、海洋、宇宙、サイバーなど軍事分野の飛躍的強化を意図した戦略といえる。

米国は、中国の大国化に対して、当初は支援・関与策をとっていたが、2010年代前半に警戒・対抗策へと大きく転換していく。中国の東シナ海・南シナ海への進出、「一帯一路」、「中国製造2025」の発出がその契機と考えられる。中国の躍進を抑制するべく、オバマ政権はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を通じた中国封じ込めを画策するが、協定成立直後にトランプ政権が脱退して、この試みは変質した。トランプ政権は「アメリカ第一主義」を掲げ、米国の貿易赤字の主因である対中国貿易を規制し、赤字解消を図る米中関税戦争を仕掛けていく。4段階に及ぶ中国からの輸入品に対する関税引上げは、中国側の対抗的関税引上げを招き、米中間の貿易は大きく混乱した。

次に米国は、安全保障へのリスクを理由にして、中国の通信機器メーカーを標的に、製品購入、半導体供給等を規制し、経営基盤・技術開発力を押さえ込む政策を発動していく。そして対象企業、対象品目を拡大するとともに、米国の友好国にもこれに同調するように誘導していく。

バイデン政権は、「国家安全保障戦略指針」のなかで中国を、「国際秩序を塗り替える意図と能力を持つ唯一の競争相手」と規定し、米中間の貿易・投資活動への規制を強めるとともに、中国包囲網として、軍事面ではAUKUS(米英豪の軍事同盟)、総合安全保障面ではQUAD(日米豪印の戦略対話)、通商面ではIPEF(インド太平洋経済枠組み)などを組織していく。これらはすべて、中国の覇権国家化を容認しないとする米国の国家意思の発動にほかならない。

 

3.米中貿易戦争の帰趨

トランプ政権は2018年7月以降、中国からの輸入品に対して総額3700億ドル相当の物品に関税を上乗せし、貿易戦争の火蓋を切った。この金額は対中輸入全体の7割以上を占めるもので、中国も対抗して米国からの輸入品に同等に近い規模の関税引き上げを行った。トランプ政権の貿易戦争発動の理由は、中国に知的財産権侵害等の不公正行為に是正を迫ることだったが、同時に米国の国内産業を保護し、過大な貿易赤字の縮小を図る狙いももっていた。

2022年にバイデン政権は、インフレ対策を意図して対中制裁関税の引下げを検討したが、国内の対中国強硬派の意向を無視できず、政策変更を見送った。

貿易戦争を経るなかで、米中間貿易はどう変化したのか、表1,2からうかがってみる。

第一に、米国の中国からの輸入は2019~20年に減少したものの、21年以降は元にもどっている。この変化はコロナ禍による経済の縮小と回復の影響を受けていると考えられる。この間、米国の輸入に占める中国のシェアは確かに減少を続けていて、ベトナム、タイ、インドなどのアジア諸国やメキシコがシェアを伸ばしたとみられる。中国側からみても、輸出に占める米国のシェアは一定の減少を示した。

第二に、米国の対中国貿易収支赤字は、金額ではそれほど変化がみられないが、割合は着実に低下した。中国の貿易収支黒字に占める米国の比率も一定の低下を示した。

こうした変化を認めるとしても、米国の中国からの輸入(中国の米国への輸出)がきわめて大きいことに変わりはない。中国のシェアを奪ったベトナムなどの対米輸出品のなかには中国製部品がかなり含まれている可能性がある。今後、米国は戦略的に重要な品目(ハイテク関連の電池・医薬品原料等)の調達については、過度の中国依存を回避していくと予想されるが、対中輸入規制が一般的な電子機器、プラスチック製品などまで波及していくとは考えにくい。

 

表1 米国の対中国貿易の推移                                                                                                             

                                                                                                   (単位:億ドル、%)                

                 輸出                         輸入                                          貿易収支                

                 金額        シェア    金額        シェア    金額        シェア    総額

2017        1,299       8               5,055       22            -3,756     47            -7,957

2018        1,201       7               5,397       21            -4,196     48            -8,748

2019        1,064       7               4,517       18            -3,453     40            -8,543

2020        1,245       9               4,347       19            -3,102     34            -9,111

2021        1,514       9               5,049       18            -3,535     33            -10,768

2022        1,400                        5,000                        -3,600                     

出所:JETRO「世界貿易投資動向シリーズ」各年版                                                                     2022年は「日本経済新聞」2023年2月8日(1~11月のデータ)                                                                             

表2 中国の対米国貿易の推移                                                                                                             

                                                                                                   (単位:億ドル、%)                

                 輸出                         輸入                                          貿易収支                

                 金額        シェア    金額        シェア    金額        シェア    総額

2017        4,298       19            1,539       8               2,758       65            4,225

2018        4,784       19            1,551       7               3,233       92            3,518

2019        4,187       17            1,227       6               2,960       70            4,219

2020        4,518       17            1,349       7               3,169       59            5,350

2021        5,761       17            1,795       7               3,966       59            6,765

出所:JETRO「世界貿易投資動向シリーズ」各年版                                                                                                       

また、米国から中国への直接投資(企業進出)に大きくブレーキがかかっているとは認めがたい。世界の対中国直接投資は2016年の1260億ドルから2021年の1735億ドルまで、コロナ禍にもかかわらず5年連続で過去最高を更新し続けている。むろん一部ハイテク分野の中国企業の対米投資、また米国企業の対中国投資には規制が厳しくなっており、米国企業の対中国投資は減少している。とはいえ、電気自動車のテスラをはじめとして、中国を生産拠点とする企業の多くが撤退するといった状況ではない。追加投資を中国からインドなどに移すなどの対応がみられる程度だ。

全体として米中間の貿易面、投資面における双方向の流れは、なお継続しているとみることができる。政治的対立が経済的断絶(デカップリング)をもたらすわけではない。政治と経済の分裂とみるべきだ。

 

4.ハイテク覇権の攻防

 米中間で全般的な貿易・投資活動が継続している半面、ハイテク分野は安全保障への影響が大きいため、対立が先鋭化している。米国が中国のハイテク企業、とりわけ通信機器メーカーのファーウエイを標的にしたのは、サイバー空間における覇権の奪取を危惧したからだろう。ファーウエイは2015年に通信設備売上高で世界第1位になり、高速通信規格「5G」開発の先頭に立っていた。スマホ出荷台数でも、2020年には一時的に世界のトップに位置した。しかし米国の圧力により、一方では先進国市場から締め出され、他方では高機能半導体の調達が不可能となり、国内部品調達、国内販売へとシフトせざるをえなくなった。

米国の攻撃対象はその他のハイテク機器メーカーへと拡大し、監視カメラのハイクビジョン、ダーファなど、さらにはドローン、太陽光パネル、遺伝子(バイオ)へと広がり、2022年末には633企業・団体が輸出禁止リスト入りすることになった。米国は、中国ハイテク企業に対して、部品だけでなく人材やソフトウエアの供給も止めにかかっている。2023年に入ると、ITサービス企業バイトダンスの動画投稿アプリ「ティックトック」が標的とされ、データの流出を理由として事業売却あるいは一般利用禁止の動きとなった。米国の友好国も同調を要請され、日本やオランダの半導体製造装置メーカーは輸出規制に取り組みつつあり、サプライチェーンの分断が進行している。

中国は最終製品の製造では世界首位が多いとはいえ、半導体などの基盤技術では遅れをとっている。開発のためには先進的な技術、人材が必要だが、その供給も制約されている。

高機能の半導体、半導体製造装置、ソフトウエアなどの利用が止められるならば、中国はハイテク覇権争いで遅れをとることは避けられず、半導体国産化率の上昇は計画どおりには進まないだろう。

 しかし、中国のハイテク開発の潜在力は大きい。人材面では、中国の理工系大学を卒業する学生数は年間400万人で、米欧日インドの合計よりも多いという。科学技術分野の研究者数は米国をはるかに上回る。これを反映して科学技術論文の国別ランキングでは、量的にも質的にも世界のトップに立っている。オーストラリアのシンクタンクASPIの調査によれば、先端技術の影響力ある論文数(2018~22年)で、44分野のうち37分野で中国が第1位を占めた(朝日新聞2023年3月3日)。日本経済新聞の調査では、人工知能関連論文数は2021年に米国の2倍、注目論文数(引用数上位10%)は米国の1.7倍に達した(日経新聞2023年1月16日)。半導体の国際学会の論文数でも2023年に中国が初めて米国を抜いた(日経新聞2023年3月7日)。

この結果、国際特許出願件数では中国が2019~22年、4年連続世界第1位となっている(日経新聞2023年3月3日夕刊)。次世代エネルギー技術の核融合でも中国が特許競争力の首位に位置する(日経新聞2023年2月23日)。高機能半導体は技術覇権争いのすべてではない。たとえば、人工知能分野で中国が世界を主導し、ルール形成を主導する可能性も否定しきれない。

 

5.覇権構造の転換―2極化から複合型へ

 世界は新冷戦を深化させていくのだろうか。米中はそれを見据えて覇権構築策を進めている。ウクライナ戦争はその決定的な契機となった。

 米国はロシアを押さえ込むべくNATOを強化し、インド太平洋では中国を包囲する軍事ネットワークを編成しつつある。また情報通信技術分野では中国を封じ込め、世界を分断しようとしている。

中国はロシアを抱き込む一方、グローバルサウスへの影響力拡大を図っている。一帯一路構想は、「債務の罠」などの悪評が生じたため手直しを図り、「グローバル開発イニシアチブ(GDI)」、「グローバル文明イニシアチブ(GCI)」といった新たな概念を打ち出して目先を変えようとしている。サウジとイランの外交正常化に仲介役となったことは、中国外交の成果といえる。また、米国によるロシア制裁に、ドル決済システム(SWIFT)が威力を発揮したとみて、別の決済システム(CHIPS)の整備を進め、人民元決済圏の拡大を企図している。

しかし、こうした米中の覇権争いは、軍事面では先鋭化する一方、世界が2大覇権国並立の状況には至らないと予想される。その理由の第一は、米中ともに総合国力が低下していくことである。米国はアフガン・イラク戦争の失敗以降、国際的権威を低下させ、国内的には政治的分断が修復不能な状況に陥った。中国は自国中心主義が各国の警戒・反発を招く一方、人口減少・少子高齢化社会に向かい、経済成長が減速し、社会保障負担が重くなり、共産党統治体制は不安定化していく。

第二に、グローバルサウスが台頭し、米中に続く第三勢力を形成、米中の覇権を相対化する。その代表格のインドは、中国が主導するSCOに参加する一方、米国主導のQUADにも加わり、両陣営のいずれにも深入りしないしたたかなスタンスをとっている。インド、ブラジル、南アフリカ、トルコ等とそれに続く新興国・途上国は、特定の1国でなく国家連携によって国際政治に発言力を増す。国連でロシア批判票が意外に伸びなかったのは、2大陣営のいずれにも属さないとするグローバルサウスの国家意思の現れだろう。

加えて、グローバル経済に利益を見出すグローバル資本は、2大陣営への世界の分断を受け入れず、隠然と抵抗するだろう。また、気候危機などのグローバル課題に取り組むグローバル市民社会運動も、世界の分裂を認めないだろう。

それでは今後の世界覇権構造はどうなっていくのか。イアン・ブレマーは、米国1国覇権後退後の世界について、G2(米中協調)、米中新冷戦、G20(多国間協調)、地域分裂世界の4つのシナリオを提示している(『「Gゼロ」後の世界―主導国なき時代の勝者はだれか』日本経済新聞出版社、2012年)。またインド出身の国際政治学者アミタフ・アチャリアは、パワーバランスの変化だけに注目する見方を否定し、中心軸が存在しないなかで、様々な部分が互いに複雑に依存しあう「マルチプレックス(複合型)世界」というイメージを提唱している(『アメリカ世界秩序の終焉―マルチプレックス世界のはじまり』ミネルヴァ書房、2022年)。

おそらくは、単なる多極化ではなく、相対的に国力の大きい米国、次いで中国、さらにEU、インド、その他諸国が階層構造をもって複合的に並存し、そのなかで非国家主体であるグローバル資本、市民社会組織が存在感を増していき、様々な対立と依存の組み合わせが生じる世界へと至るのだろう。それが安定的なものになるのか、混乱を繰り返すものになるのか、そのカギは国益、私的利益を超えて持続可能で公正な社会を求める世界の社会運動が握っているのではないだろうか。

(2023年4月5日、ピープルズ・プラン研究所ウエブサイト:https://www.peoples-plan.org

米中覇権争いと日本の隘路

中国共産党第20回党大会において習近平総書記は、「中国の特色ある大国外交を推し進め、覇権主義と強権政治に反対」すると述べた。覇権主義は米国を指すと思われるが、「中国の特色ある大国外交」もまさに覇権主義に相当するだろう。習近平報告の数日前、バイデン米政権は「国家安全保障戦略」を発表し、中国を「国際秩序を塗り替える意図と能力を持つ唯一の競争相手」と規定した。

 トランプ政権期に表面化した米中覇権争いは、今後長期に渡って継続すると考えられるが、グローバル経済下の「米中新冷戦」はかつての米ソ冷戦とは性格を異にしている。以下では米中経済関係の対立と依存の入り組んだ構造を概観し、その狭間で埋没しつつある日本経済の位置を明らかにしたい。

 

◆米中新冷戦の陣形

 中国の勢力圏づくりは、安全保障面では上海協力機構、経済面では「一帯一路」構想に即して進行してきた。中国、ロシア、中央アジア諸国で2001年に結成された上海協力機構は、その後インド、パキスタンをメンバーに加え、最近はイラン、トルコ、さらにエジプト、サウジアラビアなどへの拡大を志向し、総じてユーラシアにおける非米国家連合の趣きを呈してきている。

 一方、中国中心の経済圏構築を目指す「一帯一路」構想は、中国の資金、資材、労働力等を用いて各地にインフラを建設するプロジェクトとして展開しつつあり、その範囲は東欧、アフリカにも及んでいる。中国が2000~2017年に世界各国に供与した開発協力資金は8000億ドルを超え、米国を凌いだと推計されている。こうした融資によって、GDPの10%以上の対中国債務を抱えた国が44カ国に達したという調査もある(日経新聞10月13日、11月5日)。

 ただし、高利の過剰な融資によって返済が滞るケースが相次ぎ、「債務の罠」の悪評が生じるとともに、中国側の資金事情も悪化したため、近年は規模を縮小させている。習近平の報告で「「一帯一路」建設の質の高い発展を進める」と述べたのも、そうした事情の反映と思われる。

 この他、東アジアについては、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)が15カ国によって2022年に発効しているが、経済・貿易規模の点で、中国が中核に位置することは明らかだ。日本はインドを加えて中国を牽制する狙いであったが、インドは参加を見送っている。

 こうした中国の対外拡張政策に対して、米国は「自由で開かれたインド太平洋」構想を対置し、中国の影響力拡大の抑制を試みている。その表れが、軍事面ではAUKUS(米英豪)、外交・経済安全保障面ではQuad(日米豪印)、経済面ではIPEF(インド太平洋経済枠組み)14カ国の組織化だ。IPEFに先立って、TPP(環太平洋パートナーシップ)が結成され、当初は米国主導のもと、中国を牽制する狙いであった。しかし、トランプ政権が離脱を決定し、バイデン政権もこれを継承する一方、中国が加盟の意向を表明するなど、性格が変わってきている。

 以上のような中国と米国の陣形配置は、かつての米ソ2大陣営の対立構造とはかなり異なっている。第一に、イデオロギーに基づく結集というよりは、国益に基づく集合であり、それぞれの凝縮力はそれほど強固でない。民主主義と権威主義の対立という図式もあるが、境界線は曖昧だ。第二に、グローバル経済の時代を反映して、経済活動では貿易と投資の相互乗り入れが活発に行われている。デカップリング、ブロック化を過大にみるべきではない。

 

◆米中経済分断の進行と限界

 トランプ政権が発動した米中関税合戦は、バイデン政権下でも継続しているが、ここにきて高インフレ対策として見直しに着手する動きが出ている。ただし中間選挙等の政治情勢に規定され、具体化には至っていない。

 他方、軍事利用に直結する情報通信関連のハイテク覇権争いは一段と激化しつつある。トランプ政権は、中国最大の通信機器メーカーであるファーウエイを標的とし、米国からの半導体など中核部品の供給と完成品の調達を厳しく規制した。中国側は半導体の自給化を進めたが、高機能品の代替は進まず、ファーウエイは事業基盤を海外から国内にシフトせざるをえなくなった。

さらにバイデン政権は、人工知能やスーパーコンピューターなどの開発に要する先端半導体、製造装置、技術者等が中国へ流出しないように全般的に規制を強化した。日本、オランダなど、半導体製造装置の有力メーカーを擁する国家にも同調を要請している。

こうした措置によって中国の先端半導体開発は遅れをとるであろうが、それが中国の「製造強国」化を大きく制約するとは考えられない。中国が技術開発を推進する潜在力は非常に大きい。たとえば、文部科学省科学技術・学術政策研究所が最近公表した国別科学技術指標によれば、中国の科学技術論文は量的にも質的にも米国を抜いて首位に立っている(ちなみに日本は10位以下に沈んでいる、日経新聞8月10日)。毎年卒業する理工系学生数は400万人規模という。

中国が米国と鎬を削る分野はいくつもある。宇宙開発では中国独自の宇宙ステーションが完成に近づきつつあり、次世代高速通信(6G)の中核技術の特許出願数では中国が米国を上回っている。自動運転技術では米国が中国を一歩リードしているが、その差はわずかだ。

中国の経済力の大きさが、米国による中国抑制策を限界づけている。中国の貿易規模は2013年以降、米国を抜いて世界最大であり、各国とも中国への依存度は高い。米国にしても、関税合戦にもかかわらず、中国からの輸入は2018年1~9月と2022年1~9月を比較すると、国別比率では21%から17%へと低下したものの、絶対額では増加しており、依然として最大の輸入相手国であることに変わりはない。中国の比率低下の穴を埋めたのはベトナムをはじめとする東南アジア諸国であるが、そこへは中国の輸出が伸びており、東南アジア経由で対米輸出ルートを築いた可能性もある。中国への対抗を意図したIPEFにしても、そのメンバー国のすべてで中国は米国を凌ぐ貿易相手国となっている。

覇権争いの主戦場である半導体をみても、米国企業が中国市場から撤退するわけではない。11月に上海で開催された中国国際輸入博覧会には、クアルコム、AMD、インテル、TI等の有力メーカーが規制対象外の半導体売り込みを狙って参加をしている。製造装置メーカー、ソフトウエア大手も同様だ。

 

◆日本経済の中国依存度の深化

 2021年、中国のGDPは日本の3.6倍、貿易規模は4倍に達している。米中対立の狭間にあって、軍事的に米国に依存する日本は、経済的には長期的に中国への依存度を深めている(以下は拙稿「2010年代における日中経済関係の深化」『中央学院大学現代教養論叢』4巻1号による)。2000年から2019年にかけて、日本の貿易相手国として米国と中国の比率がどう変化したかをたどってみると、輸出では米国が29.7%から19.8%へと減少する一方、中国は6.3%から19.1%へと大きく上昇した。香港を含めると23.8%となり、米国を上回る。輸入では米国が19.0%から11.0%へと低下する一方、中国は14.5%から23.5%へと増加した。

 注目すべきは中国からみた日本の比率の変化だ。同じ期間に輸出では16.7%から5.7%へ、輸入では18.4%から8.3%へと日本の地位は低下している。かつては中国の対日依存度が大きかったが、今や日本の対中依存度が上昇する反面、中国からみた日本の存在感は大幅に下がっているのだ。

 品目別にみると、中国依存度の上昇はさらに明らかになる。輸出品の中分類上位10品目では、中国比率30%以上は2010年の2品目が2019年に4品目(半導体等製造装置、プラスチック等)へと増加した。輸入品では2019年の中分類計38品目のうち中国比率70%以上が2品目(通信機、電算機類)、50~69%が7品目もある。食料品輸入に占める中国の割合もきわめて高い。野菜、加工魚の50%以上が中国産だ。肥料も50%以上を中国から輸入しており、コメの生産に欠かせないリン酸アンモニウムはほぼ全量中国が供給している(日経新聞10月20日)。仮に台湾有事などで日中貿易が途絶するとすれば、その打撃は計り知れない。2022年の中国のゼロコロナ政策程度でも日本が受けた影響は大きかった。

 日本企業の進出先としての中国の位置もきわめて重要だ。製造業の直接投資残高を国別にみると、2019年時点で全世界80兆円のうち、米国20兆円、中国9兆円であり、米国が中国の2倍以上ある。しかし、投資収益をみると2019年の場合、中国1.6兆円、米国0.9兆円となり、中国が米国を上回る。自動車と電気機器産業がその主要部分を占めている。

 このような日本経済の中国依存度の深まりをみるならば、米中対立の構図のなかで米国側につき、中国との軍事的緊張を高め、経済的に断絶する選択(ゼロチャイナ)は考えられない。中国が対日牽制策として、日本が不可欠とする品目の供給を規制してきた場合、日本側が負うべきコストは甚大なものとなる。経済安全保障政策(サプライチェーンの貼替え)ですべてをカバーできるべくもない。そうである以上、長期に渡る米中覇権争いのなかで、中国との軍拡競争に陥ることなく外交力を発揮し、東アジア規模での総合安全保障構想を打ち出していくことが求められているといえよう。    (『現代の理論』2023年冬号)

高金利への移行が経済破綻を招く

  • 金利引上げの連鎖 

 新型コロナによる経済難への対策として各国が財政・金融政策を通じて救済資金を潤沢に供給した結果、世界中に過剰資金が形成され、株価・不動産価格が上昇する一方、政府・民間の債務が膨張することになった。過剰資金の存在を背景に、コロナからの回復過程における需要と供給の不均衡、エネルギー資源と食料の価格高騰、それにロシアのウクライナ侵攻が加わり、インフレの波が世界を襲っている。

 迫りくるインフレに対して、米国FRBを先頭に、各国中央銀行は相次ぐ金利引上げで対処しており、引上げ回数は2022年9月までにのべ160回に達したという。金利引上げの影響で、4月から9月にかけて、世界の株式時価総額は24兆ドル(減少率22%)、債券残高は20兆ドル(14%)、合計44兆ドル減少した。これは世界GDPの半分に達する空前の規模だ(日経新聞10月2日)。

 低金利から高金利への転換は、過剰な債務を抱えた国家、企業、家計の破綻を招かざるをえない。その本格的発現は2023年になってからと見込まれるが、9月から11月にかけて発生した二つのショックはその先駆けといえる。

 

  • 二つのショック

 一つは9月にイギリスで生じたトラスショックだ。ジョンソン政権から交代したトラス政権は、エネルギー高対策として半年で600億ポンド(9.3兆円)の財政出動、総額450億ポンド(7兆円)と推計される50年ぶりの大型減税を打ち出した。その財源は国債発行しかない。しかし、イングランド銀行はインフレ対策として金利引上げ、国債売却を進めており、これに逆行する財政膨張は金融市場の混乱を招き、長期金利の高騰(国債価格急落)、ポンド暴落を引き起こした。緊急事態に直面してイングランド銀行は売却方針から一転して国債の無制限買入れに踏み切り、ひとまず混乱は収束したが、トラス政権は史上最短の

在任期間で崩壊した。危機の要因には、年金基金の破綻懸念があった。年金基金は低金利下で利益を出すためにリスクのある資産運用を行っており、金利急騰・国債暴落で資金繰りがつかなくなるという事態が進行した。MMT(現代貨幣理論)の破綻がここに現れたといえる。

 もう一つは、11月に発生した米国のFTXショックだ。仮想通貨(暗号資産)交換業大手のFTXトレーディングは、杜撰な経営実態が明らかになり、資金繰りに行き詰まって破産に至った。負債総額は現時点で不明だが 100~500億ドル規模と推定されている。これは

仮想通貨業界で過去最大の経営破綻という。担当弁護士は「米国の企業経営史上、最も突然で困難な破綻」と称した(日経新聞11月24日)。FTXには有力なベンチャーキャピタルが出資しており、ソフトバンクもその一つだ。全世界に100万人以上の顧客がいるとされ、影響は仮想通貨業界にとどまらず、金融市場全体に拡大する可能性がある。これも、低金利下で膨らんだバブルが、高金利への移行に伴って崩壊した一例だろう。

 

  • 日銀金融政策の転換が危機の端緒

 日本はどうなのか。日銀はイールドカーブ・コントロール(YCC)という低金利政策を2016年9月から6年も続けているが、すでに消費者物価は今秋連続して目標の2%を超え、10月には3.6%に達した。エネルギー、食料等の輸入品の高騰と日米の金利差拡大による円安が物価上昇の二大要因であり、この対策としての利上げ圧力はかつてなく高まっている。すでに住宅ローン金利は上がり始めている。

 日銀は、金利を引き上げた場合、新規国債発行の困難、既発国債の価格下落による日銀・民間銀行・保険会社・年金基金等の財務内容の悪化が生じることを懸念して、政策転換ができない。出るに出られない袋小路に追い込まれている。しかしいつまでも動かないわけにはいかず、近い将来、YCCを少し手直しして、若干の金利引上げに踏み切らざるをえないだろう。そのタイミングは最も早ければ2023年4月、黒田総裁が次の総裁に交代する時点と考えられる。

その時何が起きるのか。よほどうまく切り替えなければ、投機的な円・国債の売り浴びせが生じ、債券と為替の急落、さらには株式市場の混乱が起こりうる。日銀には当座預金付利が保有国債からの受取利子を上回る逆ザヤが生じうる。また国債価格の下落は日銀・民間銀行・保険会社の資産構成を悪化させるだろう。日本財政と円への信認が低下し、資本の海外逃避によって円安が一段と進行、輸入インフレが激化する可能性がある。

 円安の度合いは、経常収支の見通しにかかっている。経常収支黒字の存在が、巨額債務を抱える日本財政と日本円に対する信頼をこれまでつなぎ止めてきた。しかし、日本経済の輸出力は低下しつつあり、この先貿易赤字の拡大が所得収支の黒字(海外投資収益の還流)をもってしてもカバーしきれなくなれば、実力の低下した日本経済に厳しい試練が訪れるかもしれない。経常収支黒字を維持するために、長期的にエネルギーと食料の自給度を高めていくことが必要だろう。             (Political Economy, No.226、2022年12月1日)

 

新刊紹介 金子文夫著『日本の東アジア投資100年史』

下記の本を刊行しました。

金子文夫著『日本の東アジア投資100年史』

発行者:横浜市立大学学術研究会  販売:春風社

2022年3月30日発行 293頁 3000円

 

 本書は、1910年代から2010年代までの100年間にわたる日本の東アジアに対する投資活動について、日本の東アジア政策、貿易動向と関連させつつ統計的に集成し、戦前・戦後を通じた国家資本の役割の重要性を指摘するとともに、時期別にみた日本と東アジア地域との経済関係の変化を分析したものです。

 以下に目次を示します。 

 

序章 課題と視角

 第1節 課題

第2節 先行研究

    1/ 戦前期国際収支の研究

    2/ 戦前期ミクロデータ集計研究

    3/ 戦後期に関する研究

 第3節 視角

 第4節 構成

 

第Ⅰ部 戦前期

  • 第一次大戦期の対外拡張―1910~1924年
  • 大陸政策の展開

1/ 植民地帝国の拡大

2/ 21カ条要求から西原借款へ

3/ 「鮮満一体化」政策の展開

  • 対外投資の増大

1/ 全般的動向

  • 国際収支の推移
  • 投資残高の構成

2/ 主要投資事業

  • 対中国借款
  • 総督府官業投資
  • 国家資本系企業
  • 民間大資本
  • 民間中小資本
  • 帝国圏貿易の構造

1/ 全般的動向

2/ 綿製品輸移出

3/ 農産物輸移入

第2章 満州事変と円ブロックの形成―1925~1936年

  • 満州事変から華北進出へ

1/ 「満州国」の経済建設

2/ 華北分離工作と南方開発機関の設立

 第2節 帝国圏投資の拡大

  1/ 全般的動向

  • 国際収支の推移
  • 投資残高の構成

2/ 主要投資事業

  • 対中国借款
  • 総督府官業投資
  • 国家資本系企業
  • 民間大資本
  • 民間中小資本

 第3節 円ブロック貿易の進展

1/ 全般的動向

2/ 主要品目の構成

3/ 円ブロックの限界

第3章 「大東亜共栄圏」の形成と展開―1937~1945年

  • 戦時開発政策の展開過程

1/ 1937年~1939年9月

2/ 1939年10月~1941年

3/ 1942年~1945年

 第2節 「大東亜共栄圏」投資の膨脹

1/ 全般的動向

  • 国際収支の推移
  • 投資残高の構成

2/ 主要投資事業

  • 対中国借款
  • 総督府官業投資
  • 国家資本系企業
  • 民間大資本
  • 民間中小資本

第3節 「大東亜共栄圏」の貿易構造

1/ 全般的動向

2/ 資源供給の推移

 

第Ⅱ部 戦後期

第4章 高度成長期の東アジア進出―1950~1973年

  • アジア再進出政策の形成と展開

1/ 1950年代のアジア開発構想

  • アジア開発構想の浮上
  • 東南アジア経済開発構想の進展
  • 経済再進出体制の整備

2/ 対アジア経済外交の積極化

  • 国際的背景
  • 多国間開発機構の形成

3/ 対外投資政策の展開

  • 経済協力政策
  • 直接投資促進政策

 第2節 対外投資の増大

1/ 国際収支構造の転換

  • 国際収支の推移
  • 長期資本輸出の増加

2/ 政府開発援助(ODA)の推進

3/ 直接投資の進展

第3節 アジア貿易の発展

1/ 輸出入の推移

  • 全般的動向
  • アジア貿易

2/ 対外投資と貿易の連携

  • 政府開発援助と輸出
  • 直接投資と輸出入

第5章 経済大国期の東アジア経済圏形成―1974~1990年

  • 対外経済政策の展開

1/ ODAの拡充

  • 第1次中期目標
  • 第2次中期目標
  • 第3次、第4次中期目標

2/ 直接投資促進政策

  • ナショナルプロジェクト
  • 外為法と輸銀法の改正

3/ 地域経済圏構想の形成

  • 大蔵省の「円の国際化」構想
  • 通産省の「New AID Plan」構想

 第2節 対外投資大国への道

1/ 国際収支の推移

  • 全般的動向
  • 長期資本輸出の構成変化

2/ ODAの拡大

  • ODA大国化
  • アジアへの集中

3/ 直接投資の増大

  • 地域別・産業別構成の変化
  • 海外現地法人の事業動向

 第3節 貿易大国化とアジア

1/ 輸出入の推移

  • 全般的動向
  • アジア貿易

2/ 資本輸出と貿易の連動

(1) 直接投資と貿易

(2) 長期貿易金融

第6章 低成長期の東アジア経済圏再編―1991~2019年

  • 東アジア経済政策の展開

1/ ODA政策の進展

(1) 政府開発援助大綱の策定(1992年)

(2) 政府開発援助大綱の改定(2003年)

(3) 開発協力大綱の策定(2015年)

2/ 円の国際化政策

  • 1990年代における「円の国際化」政策
  • アジア通貨通貨危機と地域金融協力

(3) 東京国際金融センター構想

3/ FTA政策の推進

  • 2000年代
  • 2010年代
  • 対外投資の新展開

1/ 国際収支の推移

  • 全般的動向
  • 対外資産残高と投資収益の増大

2/ ODAの構造転換

  • 途上国への資本輸出
  • ODAの構成変化

3/ 直接投資の急増

  • 地域別・業種別推移
  • 海外現地法人の事業動向
  • 東アジア貿易圏の再編

1/ 輸出入の推移

2/ 貿易圏の構造転換

(1) 域内依存度の上昇

(2) 中心国の交代

 

終章 総括と展望

第1節 対外投資の俯瞰的・数量的把握

  • 国家資本システム
  • 東アジアのなかの日本
  • 展望

 

参考文献

あとがき

索引