バイデン革命とグローバル・デジタル課税の新局面

◆コロナ禍から「バイデン革命」へ

 コロナ禍を契機に、世界的に新自由主義、市場原理主義の見直しが進行している。WHOの提案するコロナワクチンの特許権停止は以前では考えられなかった策であるし、米英の増税政策への転換もそうである。特にバイデン政権は、1980年代のレーガン財政に始まった小さな政府路線を覆し、大きな政府路線に進もうとしている。

バイデン政権はまずコロナ禍対策の「米国救済計画」として、1人最大1400ドルの追加給付など総額1.9兆ドル散布を打ち出したが、これだけならばコロナ対策の大型財政出動として各国で実施されている。だが、バイデン政権はそれを超えてさらなる財政拡大を提起した。第一に、インフラ投資(道路・鉄道、EV設備、半導体供給網等)を柱とする2兆ドル超の「米国雇用計画」である。財源は法人税の増税であり、連邦法人税の21%から28%への引き上げ、多国籍企業の海外収益への増税などで15年間に2.5兆ドルの確保を目指すという。第二に、所得格差是正をねらった「米国家族計画」であり、10年間で財政出動1兆ドル(幼児教育、介護支援等)、子育て世帯減税8000億ドルを見込み、その財源として富裕層への増税(所得税、キャピタルゲイン増税等)10年間1.5兆ドルをあてるという。5月28日に公表された2022会計年度予算教書は歳出総額6兆ドルと戦後最大規模となった。

この「バイデン革命」、バイデノミクスともいわれる野心的な提案には議会、大企業、富裕層の抵抗が予想され、その通りに実現するものではないだろう。実際、法人税の28%への増税は25%に削減する動きも出ている。また、インフレ、金利上昇による混乱の懸念も指摘されている。とはいえ、減税、小さな政府路線が格差を拡大してきた現状を転換させる意義は大きい。加えて、法人税増税はOECDが提起している多国籍企業課税構想を前進させる画期的な意義をもっている。

 

◆OECDの多国籍企業課税構想の進展

 課税は1国主義が原則であるため、国外に事業展開する多国籍企業への課税をめぐっては長い歴史がある。20世紀には本社立地国と海外子会社立地国との間で二重課税問題が生じたため、これを解決する2国間租税条約が締結された。21世紀になると、経済のグローバル化、デジタル化によって、タックスヘイブンを利用した多国籍企業の課税逃れ、二重非課税問題がクローズアップされた。20世紀型の製造業中心の課税モデルでは、無形資産が価値を生むGAFAなどの新興デジタル企業の巧妙な利益移転作戦に対応できなくなったためである。

 2000年代初頭には、タックス・ジャスティス・ネットワークなどのNGOが問題を提起し、多国籍企業の課税逃れは年間5000億ドルに及ぶという推計を発表した。対策として、多国籍企業の利益合算課税(独立企業原則の否定)、法人税の最低税率の設定などのアイディアが早くも提出されていく。

2008年のリーマンショック以後、各国政府も問題の重要性を認め、本格的に取り組むようになった。ここで中心的役割を担ったのはOECD租税委員会である。2011年、財務省国際租税課長であった浅川雅嗣氏が租税委員会議長になり、その幹部会(ビューロー)で米国の委員が二重非課税を許してはならないと問題提起したことが発端であった(浅川雅嗣『通貨・租税外交』日本経済新聞出版、2020年、191頁)。OECD租税委員会は2012年に「税源浸食と利益移転」(BEPS)プロジェクトをG20と共同で46カ国の規模で開始し、2015年に15項目の行動計画を作成した。このなかには、多国籍企業に税務当局への詳細な経営情報の提出を義務づけるといった画期的な内容が含まれている。

 

◆巨大デジタル企業への課税

2016年以降、BEPS行動計画で積み残されたデジタル課税問題についてBEPS包摂的枠組み会合(IF)が組織され、参加国は140カ国・地域へと拡張した。この取り組みのなかで、巨大デジタル企業への課税方式として、利用者の企業利益への貢献度に応じて各国で課税する英国案、収益を生む無形資産が作られた国で課税する米国案、売上高・資産・従業員数などに応じて各国で課税するインド案の3案が提起され、2019年10月には米国案をベースにして、連結売上高7.5億ユーロ以上のグローバル企業を対象にして、3段階で課税する方式(1.通常の利益率10%を超過する無形資産による利益を抽出、2.その利益を各国の売上高に応じて分割、3.分割された利益に対して各国で課税)にまとめられた。また、それに合わせて、タックスヘイブン対策として、各国共通の法人税最低税率を設定する案も提起された。

これらの案が2020年には正式に140カ国の間で合意されるはずであったが、2020年1月、米国が現行課税方式と新方式を企業が選択できるとする提案を持ち出し、合意は遠のくことになった。これはトランプ政権の米国第一主義を反映した提案だが、この結果各国がばらばらにデジタル課税を導入する動きが強まっていった。

こうして2011年以来のOECD租税委員会の取組みは中断しかけたが、バイデン政権の登場により、米国国内の法人税引上げに合わせて、国際最低税率の設定、グローバル企業への新課税方式が復活することになった。米国は最低税率を21%とする案を示したが、アイルランドなど低税率国の反発に配慮して15%へと下げるもようである。グローバル企業への課税では、売上高100億ドル以上、利益率15~20%以上などの基準で世界100社程度を想定した提案となっている。

この提案に対して、最低税率は15%では低すぎる、対象企業が100社では少なすぎるなどの批判が寄せられている。2021年中の合意に向けて各国政府・NGOの間で折衝が進行するだろう。

 

◆グローバル税制への第一歩

 GAFAの課税逃れは巨額である。世界の主要企業5万社の平均税負担率25.1%と比べて、15.4%と6割しか負担していない(日経新聞2021年5月9日)。米国をはじめ各国が新方式に取り組むのは、グローバル企業の課税逃れへの対策を確立し、増税政策を全体として推進していくためだろう。

 米国の新提案は不十分だという批判もあるが、長期の視点でみれば、新方式は国際法人税の課税原則の大転換を意味している。もちろん、旧方式は存続しており、新方式はごく一部に導入されるにすぎないが、少なくともグローバル企業への課税が1国主義から多国間主義へと転換することは、グローバル税制への一歩前進を意味する。

 企業活動のグローバル化に対応して、課税権力もグローバル化する必要がある。その方式には、課税権力のネットワーク化と超国家機関の創出の2ルートがあるといわれるが(諸富徹『グローバル・タックス』岩波新書、2020年)、その第1ルートが現実化しつつあると考えられる。第2ルートについては、EUが近い将来財政同盟をつくるとしても、それは国民国家の拡大であって超国家機関とはいえない。第2ルートは第1ルートが実績を積み上げた後に、いずれ姿を現すことになるだろう。

(POLITICAL ECONOMY, No.190, 2021年6月1日に加筆)

グローバル危機と金融取引税

グローバル危機と金融取引税

 

(『世界』2013年1月号)

 

 2008年9月のリーマンショックからギリシャ債務危機へと展開したグローバル資本主義の危機は、ひとまず小康状態に転じたかにみえるが、この先いつどこでどのような激震が起こるか、予断を許さない。グローバルな資本移動を通じた生産力基盤の先進資本主義国から新興国へのシフト、先進資本主義国における金融セクターの肥大化、金融危機と財政危機の複合、歯止めを失いつつある中央銀行の通貨供給、このような20世紀末から生じた世界システムの一連の変動は、いまだ次の安定したシステムへの移行を完了したとは考えられないからである。

 次のシステムの枠組みや要素は、これから徐々に登場してくるであろうが、その一角を占めると予想されるのが、欧州に登場しつつある金融取引税である。2011年9月に欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会が提起した金融取引税は、少なくとも11ヵ国の参加によって2014年から実施される予定である。この制度は、金融危機対策を直接の契機としてはいるが、内容的には欧州統合を深化させ、また国際連帯税構想を前進させる可能性を備えている。

 以下では、金融取引税の内容、背景、欧州統合との関係、国際連帯税との関係について、順次検討を進めていきたい。

 

欧州金融取引税の革新的な内容

 株式、国債、社債等の有価証券取引への課税という手法は、すでに多くの国で実施されてきている。たとえば日本でも1999年まで有価証券取引税が存在した。しかし、今回提起された金融取引税は、従来のそれとは多くの点で異なる革新的な内容をもっている。要点を4点にまとめておこう。

  • 目的

 金融商品の取引に低率の課税を行い、一方では金融機関の負担によって金融危機に対処する財源を確保し、他方では過剰な投機的取引を抑制することにより、全体として金融市場の安定化を図ることがこの税の目的である。経済危機を引き起こし、公的資金によって救済された金融機関に対して、欧州の市民社会では批判の声が強く、応分の税負担をさせることには広い支持が寄せられている。

 これに加えて、EUレベルでの課税であるため、税収の一部をEUの独自財源とする意図もうかがうことができる。

  • 課税の範囲と対象

 金融取引の範囲は、証券・短期金融市場商品・投資信託等の金融商品の売買から、証券の貸借、レポ取引、デリバティブ契約の締結・修正に至るまで、きわめて広く設定されている。また納税義務を負う金融機関は、銀行、証券会社、保険会社から投資ファンド、年金基金まで、これも広く定義されている。高頻度で売買を繰り返す取引の場合、ネッティングによって差額決済を行うとしても、決済以前のグロスの取引に課税される。

 また、EU域内の金融機関と域外の金融機関との取引の場合、域外の金融機関にも納税義務が発生する。このような、広範囲の金融取引に対する、しかも国境を越えた取引も含めた包括的な課税は従来存在しなかったものであり、今回の構想を革新的な試みとして評価することができる。

  • 税率と税収見込み

 税率は、一定の税収を確保できる程度には高く、また過度な市場の反発や域外取引へのシフトを招かない程度には低くするねらいから、一般の金融商品の取引には0.1%、デリバティブには0.01%と設定している。これによって高頻度取引、高レバレッジ商品の取引は激減すると予測されるが、市場の反応と徴税の効率性を考慮して年間570億ユーロほどの税収が得られると見込んでいる。

  • 税収の使途

 課税はEU全体で行うが、徴税権は域内各国が確保しているため、税収は各国政府の予算に充当され、一部がEU予算に繰り入れられる。その配分、また使途の限定については現時点では明らかでない。

 2011年9月の欧州委員会提案を受けて、EU各国は態度決定を迫られることになったが、まず反対したのは金融セクターへの依存度の高いイギリスであった。イギリスは、国際社会全体で導入するのでなく、EUだけで実施するならば、金融取引はアメリカやアジアに逃げると主張して、構想そのものに反対した。他方、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなどのユーロ圏4大国は、EU27ヵ国全体での導入が無理ならば、まずユーロ圏17ヵ国だけで先行実施する方針を表明した。

 最も積極的なのはフランスで、2012年8月には1国単独で限定された金融取引税の導入に踏み切った。これは、①フランスに本拠を有する時価総額10億ユーロ超の上場企業株式の取引、②フランスで活動する企業が行う株式の高頻度取引における注文の取消・変更行為、③EU加盟国のソブリンリスクに係るネイキッドCDS取引(CDS取引の受益者になっていない場合)に限って課税するもので、年間10億ユーロ程度の税収を見込んでいる。

 2014年の本格実施に向けて、導入国拡大工作が進められたが、ユーロ圏17ヵ国のなかでも温度差があった。結局、2012年10月のEU財務相理事会では、上記4大国にベルギー、オーストリア、ギリシャ、ポルトガル、スロベニア、スロバキア、エストニアを加え、計11ヵ国が2014年1月から導入の意思を明らかにした。今後、課税逃れ対策を準備したうえで実施に踏み出し、その後参加国を増やしていくことになろう。オランダが参加という情報も伝えられている。2014年以降、アメリカや日本の銀行がユーロ圏11ヵ国の金融機関と取引した場合には課税を免れないわけで、課税回避がどの程度発生するか、税収がどれだけあげられるか、注目されるところである。

 

グローバル危機と金融規制の潮流

 EUの金融取引税は、リーマンショック以降の世界的な金融規制の潮流の一環として捉えることができる。2008年11月の第1回G20サミット(ワシントン)では、短期的な危機対策に加えて、中期的な課題として、一連の金融市場規制策が討議された。金融市場の暴走を抑えるべく、ヘッジファンド、格付け会社等の監督・規制の強化、証券化商品の透明性の確保、CDSの清算機関の設立などが提起され、総じて市場原理主義を修正する気運が醸成された。

 これに続く第2回G20サミット(2009年4月、ロンドン)でもこの方向性が確認された。それをふまえて第3回G20サミット(2009年9月、ピッツバーグ)では、フランスとドイツが金融取引税の導入を主張したものの、結果的には、金融危機のコストを金融機関に負担させる方法についてIMFに検討させることになった。IMFによる検討作業の過程では、様々な圧力がかけられたと推測されるが、検討結果の報告書は第4回G20サミット(2010年6月、トロント)に提出された。そこでは、金融機関の負担方法について、①資産・負債規模に応じた負担金、②金融取引への課税、③利潤・報酬への課税(金融活動税)などの方式が列挙され、そのなかで金融取引税には否定的な結論が示された。それどころか、サミットの討議では、金融機関への課税それ自体にも異論が出され、G20としての取り組みの方向は拡散していった。金融システムの破綻がとりあえず回避されたため、新しい取り組みを進めなければならないという切迫感が消えてしまったためであろう。

 とはいえ、金融取引税に消極的なアメリカの場合でも、オバマ政権は1930年代以来の大がかりな金融規制改革政策を打ち出した。2010年7月に成立した「ドッド・フランク法」には、財務長官を議長とする金融安定協議会の設置、金融機関の巨大化の抑制、銀行による投機的ビジネスの規制(ボルカー・ルール)、デリバティブやファンドの規制・監視、消費者金融保護局の設立など、肥大化した金融セクターの暴走を押さえ込む組織と制度が盛り込まれた。しかしながら、ウォール街の猛烈な巻き返しによって、その内容は骨抜きにされつつあり、当初の目的が達成される見通しはない。投資銀行は姿を消し、「影の銀行システム」は一時的に縮小したが、その後復活してきており、金融セクターの肥大化は再現されている。「ウォール街を占拠せよ」という運動が大きな共感を呼んだのも、こうした大手金融資本の懲りない姿勢への反発が強いからであろう。「ドッド・フランク法」は換骨奪胎されてしまったが、新自由主義の総本山でともかくも包括的な金融規制法が成立したことの意義は否定できない。今後、もしアメリカで金融危機が再発するような事態になれば、この法律が息を吹き返すことになるかもしれない。

 G20と並行する金融規制の潮流としては、バーゼル銀行監督委員会(主要10ヵ国)による自己資本強化の規制が強制力をもっている。それとは別に、強制力はもたないものの、より根本的な規制・改革案が国連の委員会で検討された。2008年11月、ニカラグア出身のデスコト国連総会議長のもとに、国際金融システム改革専門委員会(スティグリッツ委員長)が設置された。そこでは、国際機関の抜本的な改革と国際金融システムの大胆な革新が検討され、国際機関改革では、国連における安全保障理事会と同格のグローバル経済調整理事会の設置、IMF・世界銀行のガバナンス改革、国際金融市場を監視する金融安定化理事会のグローバル金融庁への改組など、国際金融システムの革新では、ドル基軸通貨システムからグローバル準備通貨システムへの転換、国際債務整理法廷の設置、炭素税・通貨取引税の導入など、長期的な改革に関する様々なアイディアが報告書に盛り込まれた。報告書は2009年6月の金融経済危機と開発に関する国連会議で採択され、9月の国連総会で最終報告が行われた。しかし、その内容があまりに革新的であること、また実施に移す道筋がついていないことから、近い将来に具体化するとは想定できない。

 それに対して欧州委員会の金融取引税提案は、フランス、ドイツなどが実施を宣言しているものであり、金融規制の潮流の先頭に立つ政策とみることができる。EUが金融規制を急ぐのは、グローバル危機の第二波としての欧州債務危機、ユーロ危機に見舞われたからであり、またその危機を逆手にとって欧州統合を深化させる力学が作用しているためと考えられる。

 

欧州債務危機と統合の深化

 金融取引税の導入は、危機対策だけでなく、欧州統合を深化させるという戦略的意義ももっている。1957年のローマ条約に始まる欧州統合のプロセスにおいて、何回も統合の危機が訪れ、それを克服するなかで統合の度合いが強められていった。

1999年の単一通貨ユーロの導入(2002年、一般流通開始)により、ユーロ圏の金融政策は統合された形になり、各国別の金利水準、為替相場の設定ができないことになった。財政赤字の対GDP比3%以内への規制、政府債務残高の対GDP比60%以内への制限など、財政運営にも制約が加えられた。ただし、こうした財政規制はその後空文化し、財政規律は緩んでいく。財政統合は政治統合の一環であって、通貨統合よりはるかに抵抗が強いためである。

しかし、本格的な政治統合は将来の課題としたままで、実体経済(産業の競争力、経常収支、所得水準、インフレ率、失業率、金利水準、為替相場等)に大きな格差があるなかで、通貨のみ先行して統合したことの無理がやがて表面化してくる。ユーロ圏の実態は、いわゆる「最適通貨圏」の資格を欠いており、一方でドイツの圏内輸出拡大、多国籍資本の低賃金地域進出が生じ、他方で南欧諸国の景気が過熱し、スペイン、アイルランドでは不動産バブルが発生した。また財政基盤の弱い南欧諸国で国債発行が増大した。こうした状況にリーマンショックが加わり、まず財政赤字を粉飾して国債を乱発していたギリシャに債務危機が発生し、たちまちのうちにポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアへと危機が波及していった。

ここで、ギリシャがユーロ圏から離脱する可能性が指摘されたが、政治プロジェクトである欧州統合の流れに逆行することは基本的に起こりえないであろう。当面の危機を押さえ込む短期的対策を講じながら、それを通じて統合をさらに進める以外に選択肢は存在しないと考えられる。

危機対策としては、まずデフォルト(債務不履行)を回避するために、2010年5月にEUは欧州金融安定化基金(EFSF)を暫定的に設立した。これに続き、2010年12月には、恒久的機構として、欧州安定メカニズム(ESM)の2013年6月設立を決定した(実際は2012年9月に前倒しで設立)。そしてEFSF、欧州中央銀行(ECB)、IMFが連携して緊急救済融資を行うが、それには厳しい緊縮財政、また民間金融機関の債権圧縮(秩序あるデフォルト)が条件となった。緊縮財政には労働者、市民の強い反対があり、また民間の債権圧縮にも不同意の銀行が続出したが、危機の乗り切りを最優先とする支援策が強引に実施されていく。この過程で、IMFの欧州版となるESMが設立の運びとなったことは、危機対策が欧州統合深化の意味をもつことを示している。

2012年3月には、財政規律を高めるべく、法的拘束力の強い新たな財政協定条約がEU25ヵ国首脳によって調印された(イギリス、チェコを除く)。平時であればなかなか合意されないであろう財政統合がこれによって加速されることになった。さらに、銀行監督の一元化、銀行の破綻処理制度の統一、ユーロ圏予算の共通化、ユーロ共同債の発行など、経済・金融統合の課題がこれに続いている。

そうした動向の一環として、金融取引税の導入が位置づけられる。金融取引税には、EU独自財源の確保、共通税制の導入という統合深化の意味が備わっている。金融取引税の導入が差し当たり11ヵ国程度にとどまるとすれば、欧州には、EU加盟国27ヵ国、ユーロ圏17ヵ国、金融取引税導入国11ヵ国という三重構造が成立することになる。統合の程度に温度差を含みながら、全体として結束を強めていくことになるのであり、その先には軍事統合、政治統合のスケジュールがひかえている。

しかし、危機を契機としてしか統合を進められないのであれば、そこには強い反発が生じることは避けられない。南欧諸国に対する緊縮財政の強制にみられるように、負担が強引に押しつけられるならば、大規模な抗議行動、政権の動揺をもたらさざるをえない。危機のなかでの統合が平穏に進むとは考えられない。

 

金融取引税から国際連帯税へ

欧州の金融取引税は、2005年以来提唱されている国際連帯税とは異なる税であるが、重なる部分もある。特に、これまで国際連帯税構想を推進してきた欧州のNGO、労働組合などは、金融取引税を国際連帯税の一環として位置づけているようにみえる。以下、両者の関連を整理してみよう。

国際連帯税は、国連ミレニアム開発目標(MDGs)の実現のために、ODAを補完する革新的資金メカニズムとして構想されたものであった。フランスを中心にして、これに取り組むリーディング・グループが組織され、今や日本も含めて60ヵ国ほどが参加している。国際連帯税の要件は、第一に、グローバルな経済活動を課税対象とし、第二に、税収をグローバル公共財の調達にあて、第三に、税の管理をグローバル組織(超国家機関)が行うことである。つまり究極的には、国民国家から徴税権を取り上げ、グローバル社会を運営するためのグローバル・ガバナンスを実現するということである。

もちろん、現在の国民国家体制が消滅することは当面はありえない。とはいえ、欧州におけるEU統合の深化は、その先駆けとみることができるし、国連に代表される国際組織(諸国家の連合)を超国家機関に改造する試みも一部では進展している。

これまでのリーディング・グループの歩みをみると、航空券連帯税は2006年以来、十数ヵ国で実施され、税収はUNITAID(国際医薬品購入ファシリティ)という国際機関を通じて貧困国向けの医薬品購入にあてられている。UNITAIDの理事会には政府代表だけでなく市民社会代表も加わっており、小規模とはいえグローバル・ガバナンスの萌芽を示している。

航空券連帯税は導入が技術的に容易であったが、税収が数億ドル程度と小規模であるため、これに続いて取引規模の大きい外国為替市場に課税する通貨取引税の検討が進められた。外国為替市場は今や年間1000兆ドル規模に拡大しており、これにきわめて低率の課税を行うとすれば、投機的取引が抑制される一方、数百億ドルの税収は得られる見通しである。リーディング・グループは専門家委員会を組織し、通貨取引税の実現に向けて多角的な検討を行わせた。2010年にまとめられた報告書では、グローバル通貨取引税の導入という革新的な構想が提起された。その骨子は、世界の主要通貨取引に0.005%という低率課税を行うというものであり、技術的には主要17通貨の取引の決済を行っているCLS銀行(多通貨同時決済銀行)を通じて徴税可能とする。

この構想がそのまま直ちに実現する見通しはないが、その萌芽形態を欧州の金融取引税にうかがうことができる。すなわり、課税対象のなかに、通貨デリバティブが含まれており(通貨スポット取引は除外)、これが国際連帯税のなかの通貨取引税と重なるのである。もし、欧州通貨取引税が実施され、そのなかで通貨取引税が部分的に実現していけば、そこからグローバル通貨取引税に接近する道が開けてくる。それには、タックスヘイブン規制、オフショア金融市場規制など、課税回避を防止する関連した対策を講じる必要もある。

また、税収の使途は、欧州金融取引税の場合、フランスが一部を開発や環境の分野に向けると表明している以外は、国内あるいはEUの財源になるものであり、国際連帯税との距離は大きい。また、税収を一括管理する国際機関の構想も存在せず、2国間ODAの一部に組み込まれる程度である。

このように金融取引税と国際連帯税との違いは大きいものの、国境を越えた金融取引、通貨取引への課税が欧州規模で実施される意義は軽視できない。今後、国連スティグリッツ委員会等で取り上げられた諸構想の実現に向けた、確かな一歩になりうるであろう。

 

参考ウエブサイト

 国際連帯税を推進する市民の会 http://www.acist.jp

  欧州委員会 http://ec.europa.eu

タックスヘイブンとグローバル資本主義の制御

タックスヘイブンとグローバル資本主義の制御

                       (『月刊社会民主』2016年9月号)

 

◆はじめに

 2016年は、後世から振り返ってみると、歴史の転換点であったと評価されるかもしれない。国内政治では、7月参院選の結果、改憲勢力が衆参ともに3分の2を超える議席を獲得するに至った。国際政治のうえでは、6月の国民投票によって英国のEU離脱が選択されたことが数十年スケールでの歴史的事件といえる。11月の米国大統領選挙は、現時点では結果はわからないものの、トランプのような人物が共和党の候補となったこと自体、米国政治史では稀有のことであり、仮に当選となれば、米国中心の国際政治秩序を揺るがす決定的転換になると考えられる。

 以上のような内外情勢の大変動の底流には、1980年代以降の新自由主義イデオロギーに主導されたグローバリゼーションの帰結として、世界的に貧富の格差が拡大し、その不満の捌け口として排外主義的ナショナリズムのうねりが生じていることを指摘しなければならない。冷戦終結後の福祉国家の終焉、格差拡大に対して、排外主義のような否定的な反応が目立っているが、そうではなく、グローバリゼーションの欠陥を根本から是正し、公正な社会を目指して格差縮小に転じるために、革新的なビジョンが提示されるべきであろう。

 その点で注目されるのが、2016年4月に公表された「パナマ文書」である。これもまた格差拡大への憤りをバネとした内部告発によって現出したと思われるが、この事態を契機にして格差をもたらすグローバル資本主義を制御する可能性がわずかながら開けてきたように感じられる。以下では、グローバル資本主義の負の側面を象徴するタックスヘイブン問題に焦点をあて、「パナマ文書」の意義、OECDの総合的なタックスヘイブン対策(BEPS)の特徴と限界を検討したうえで、より踏み込んだグローバル資本主義の制御方法について論じてみたい。

 

◆「パナマ文書」の意義は何か

 2016年4月に公表された「パナマ文書」は、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立する業務を行うパナマの法律事務所「モサックフォンセカ」の40年におよぶ内部資料の集積である。厳格な秘密保持がなされていたはずの内部資料が流出した意義はとてつもなく大きい。

 第一に、公表の主体と形式が画期的である。公表したICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)は世界65カ国のジャーナリストが参加する非営利のネットワークであり、これまでも国境を超える犯罪などにかかわる情報を暴露し、不正の追及を行ってきた。今回の「パナマ文書」では、400人もの人々が1年以上の時間をかけて資料を整理・分析し、データベースの形式で公表に至った。入手された情報のすべてがオープンになったわけではないが、作成されたデータベースに基づき、タックスへイブンに関与した人物、金融機関などの個別の情報を追跡することができる。特に、世界各国の政治指導者(プーチン、習近平、キャメロンなど)の本人または周辺人物の情報がまとめて明らかにされたことは衝撃的であった。

アイスランドの首相、スペインの閣僚など、辞職に追い込まれる政治家が相次いだ。

 第二に、公開された情報の量が前例のない膨大なものだったことである。総量2.6テラバイト(文庫本2万6千冊相当)という情報量は、2013年に暴露された「スノーデン・ファイル」の1500倍にあたり、過去40年間に21のタックスヘイブンに設立された21万4千社の関係書類が含まれている。ペーパーカンパニー設立を仲介した会計事務所、法律事務所、銀行、信託会社の総数は1万4千に達し、香港とスイスに集中していることが明らかにされた。タックスヘイブンを利用した資金の流れは、これまでもマクロ的レベルでは指摘されていたが、今回はミクロの情報が詳細に示された点が高く評価できる。

 第三に、これを契機にして世界的にタックスヘイブン規制の潮流が台頭している点をあげることができる。タックスヘイブンに集積する資金量、租税回避の金額については、従来種々の推計が積み重ねられてきた。たとえば有力なNGOの「タックス・ジャスティス・ネットワーク」では、タックスヘイブンには30兆ドルほどの資金が集まっていると指摘している。OECDは、多国籍企業の租税回避行動により、年間1000億~2400億ドルの法人税収の損失(総額の4~10%)が生じていると推算している。またトマ・ピケティの弟子にあたるガブリエル・ズックマンは、富裕層の個人資産残高の推計に基づき、年間1900億ドルの税収漏れが発生しているとみている。こうしたマクロの推計の一方、スターバックス、アップル、アマゾン、グーグルなどの多国籍企業が、巧妙な租税回避策を駆使して、高収益に比べてごくわずかな税金しか払っていない事実が明らかにされ、市民の憤激を招いている。このようなタックスヘイブン問題への関心の高まりに対して、「パナマ文書」公表は規制強化に向けて追い風となるだろう。

 タックスヘイブンの問題点とは何か。マネーロンダリングなど犯罪につながる行為の温床を提供する点はこれまでも指摘されてきたが、税制に即してみれば第一に、本来徴収されるべき法人税、所得税などが納められず、各国の税収減、財政運営の困難を招くことである。第二に、大企業、富裕層が巧妙な税逃れを行う一方、中小企業や庶民はそうした行動をとれず、格差のさらなる拡大をもたらすことである。税逃れの穴埋めは、消費税増税などに転化されることになる。第三に、そうした不公正な事態の発生により、公正であるべき税制に対する信頼感が喪失することである。換言すれば、税制民主主義の空洞化を招き、社会不安をもたらすことが深刻な問題なのである。

 

◆BEPSの特徴と限界

 そのような事態を前にして、先進国中心の国際機関OECD(経済協力開発機構、34カ国加盟)は本格的なタックスヘイブン対策に着手した。OECD租税委員会は2012年にBEPS(税源浸食と利益移転)対策プロジェクトを開始し、G20のOECD非加盟国がこれに加わり、2015年に最終報告書をまとめた。

 BEPS報告書は、「実質性」「透明性」「予見可能性」という三つの基本原則を掲げている。「実質性」とは、価値が創造される(利益が生まれる)地点での課税を意味し、タックスヘイブンに利益を移転し、法人税削減を図る企業行動を抑止しようとする考え方である。「透明性」とは、政府・多国籍企業が情報を共有し、過度の租税回避をチェックする仕組みを作ろうという理念である。そして「予見可能性」とは、租税回避をめぐる税務紛争を防止するために、課税ルールや紛争解決手続きを明確にしておこうとすることである。

 BEPSプロジェクトでは、以上の三つの原則のもとで、15の行動計画を作成した。「実質性」にかかわる領域は、①電子経済への対応、②各国税制の協調・統一、③国際基準の効果の回復の3分野から構成される。①では、急速に発達するデジタル経済(電子サービスの取引)に対処できるように、税制のあり方を見直していくことが課題とされた。②は、各国の税制が不統一であるため、そのズレにつけ込んだ租税回避が横行する事態に対して、ズレをなくして不当な税逃れを抑止する諸方策を検討、実施していく計画である。③では、これまでの国際課税ルールであるモデル租税条約や移転価格ガイドラインを見直し、より実効性のある課税手法を整備していくことを目標とした。

 「透明性」にかかわる領域では、現実の租税回避の実態・規模・経済的影響度等を測定・分析する方法の確立、租税回避手法の税務当局への報告の義務化、多国籍企業の事業内容・利益・納税状況等の報告の制度化など、野心的な取り組みが打ち出された。タックスヘイブンの問題点には、税の軽減と並んで情報の不透明性があげられるが、透明化を通じて行き過ぎた租税回避を押さえ込もうというねらいがある。

 「予見可能性」の領域では、国際税務紛争を効果的に解決していく仕組みの構築、2国間租税条約の限界を克服する多国間協定の創出など、BEPSの内容を安定的かつ迅速に推進していく方法に取り組むことが提唱された。

 以上のようなBEPSプロジェクトに加えて、非居住者の金融口座情報の自動的交換制度といった税務当局間の実務的取り組みも進展しつつある。これは、外国人名義の金融機関口座について、氏名、住所、納税者番号、口座残高、利子・配当等の受取総額などの情報を国別に集約し、各国間で相互に自動的に交換する仕組みであり、富裕層の租税回避を抑制する効果が期待されている。

 OECDのBEPSなどの一連の取り組みは、タックスヘイブン問題を放置できなくなった国際経済システムの危機の現局面を表しており、包括的な15の行動計画のなかには、これまでにない踏み込んだ制度づくりが提起されている。しかし、取り組みが画期的であるだけに、その限界にも注意しておくべきであろう。

 第一に、実効性に疑問がある。行動計画はあくまで勧告であって、強制力がどこまで働くか、見通しがあいまいである。当然ながら多くの国が参加しなければ有効性を発揮できないが、参加国が多くなればそれだけ多様な国内法、条約を抱え込むことになり、その整合性・統一性を実現するのは容易でない。また、米国のデラウエア州などは一種のタックスへイブンであるが、BEPSの対象外とされている。

 第二に、タックスヘイブン規制自体が徹底していない。各国の課税主権には手をつけられず、軽課税国の存在は容認されている。また、多国籍企業のグローバル事業の展開は自明の前提とされ、税制が国際取引の阻害要因となってはならないという立場からのルール作りとなっている。

 結局、経済のグローバル化と国民国家システムとの乖離が問題の根源にあるにもかかわらず、税制は主権国家の専権事項という立場を崩していないことがBEPSの本質的な限界といえる。

 

◆国民国家システムからグローバル・ガバナンスの時代へ

 経済活動が国境を超えている以上、税制をはじめとするガバナンス(統治)体制もグローバル化しなければ、それに対応できるはずがない。これまでは、国家主権を前提に、条約によってグローバルな経済活動を制御しようとしてきた。国際課税の領域では、2国間の租税条約を通じて対処してきたわけだが、BEPSはその延長線上に位置づけられる手法であり、決して国民国家システムを超えたグローバル・タックスを目指しているものではない。

 にもかかわらず、BEPSにおける国際課税ルールの共通化の試みは、将来的には国境を超えた税制の創出に接近する可能性を有している点を見逃してはなるまい。国境を超えた税制としては、すでに国際連帯税(グローバル連帯税)というアイディアが実施されつつある。グローバル連帯税とは、課税対象、税収管理機関、税収の使途の3要素がいずれもグローバルな性格をもつ税制であり、課税自体は1国単位でなされるが、そこから先は国家主権から離れたグローバル性をもっている。すでに10カ国以上で実施されている航空券連帯税がその代表的事例であり、国境を超える人の移動に若干の課税を行い、税収はユニットエイドという国際機関が管理し、国際医療分野に使用する仕組みである。

 航空券連帯税は導入が簡単である(しかし、韓国が実施しているにもかかわらず、日本は導入できていない)半面、税収規模は大きくない。より期待されるのは国際金融取引税であり、実体経済から遊離して大規模な取引がなされている国際金融市場に対する課税によって、巨額の税収と投機的金融取引の抑制という一石二鳥の効果が見込まれる。2012年に打ち出されたEUの金融取引税は、グローバル連帯税そのものではないが、それに接近する性格を備えている。その試みは野心的であるだけに、当初は2014年導入を想定していたものの、未だに実施段階に至っていない。英国のEU離脱の背景には、こうした金融規制を嫌った事情も考えられる。英国離脱によってEUは一時的な混乱に陥るかもしれないが、むしろ金融取引税導入に有利な状況を生み出したともいえよう。

 国際金融取引税の先には、グローバル富裕税、グローバル法人税など、グローバル資本主義の作り出す格差を是正し、公正な社会を目指す壮大な構想が存在する。グローバル富裕税は、『21世紀の資本』で著名になったトマ・ピケティが提唱している。グローバル法人税は、すでに何人もの提唱者があり、ピケティの弟子にあたるズックマンもその一人である。ズックマンによれば、多国籍企業が世界全体で稼ぎ出す利益を集計し(BEPSによってこれは可能になる)、その利益総額を販売量・賃金総額・資本金などの要素を織り込んだ配分式に基づいて各国に分配し、各国がそれぞれ配分された利益に法人税をかけることができるという。これによって、実体のないタックスヘイブン子会社に利益を移し、法人税を免れる行為を防止できるとする。

 こうしたグローバルな税制の実現は遠い将来のことかもしれない。しかし、内外に格差をもたらすグローバル資本主義を制御し、公正な社会を実現していくためには、1国単位での対応の限界を見すえ、様々なレベルでグローバルなガバナンスに向けた取り組みを強めていく以外に方法はない。「パナマ文書」公表、BEPSプロジェクトを活用し、タックスヘイブン規制を通じてグローバル・ガバナンスへの道を追求していくことが求められている。