世界首位を走るトヨタの未来は安泰か?

◆コロナ禍で他社を引き離す

 2020年から続く新型コロナの世界的大流行によって世界の自動車メーカーは苦戦を余儀なくされているが、トヨタ自動車は2021年の世界新車販売台数1135万台(ダイハツ、日野、スバルを含む)、前年比9%増を達成し、2年連続で世界首位の座を維持した。2位のフォルクスワーゲンが888万台(前年比5%減)、3位の日産・ルノー・三菱が768万台(前年比0%増)だったから、トヨタの強さは際立っている。

 米国市場でも2021年にトヨタはGMを抜いて販売台数首位に立った。米国市場で海外メーカーがトップになるのは史上初めてのことだ。2022年に入ってもトヨタは強さを維持し、上半期(1~6月)の世界販売台数は513万台と前年同期より6%減少したものの、2位フォルクスワーゲンが387万台(22%減)と大きく落ち込んだため、3年連続で世界首位を保つことになった。

 各社が苦戦した要因は、コロナ禍で工場の操業停止、サプライチェーンの寸断が生じたためだが、なかでもデジタル化の波のなかで半導体が圧倒的に不足したことが大きかった。トヨタは競合他社に比べて半導体調達難の影響をある程度回避できたように思われる。

 表1によって、国内大手8社の2021年度(2021年4月~2022年3月)における生産・販売実績をみよう。各社の世界生産台数では、トヨタ、スズキ、ダイハツ、三菱が前年度比プラス、ホンダ、日産、マツダ、スバルが前年度比マイナスを記録した。世界販売台数も同様の傾向であり、トヨタ、スズキ、三菱がプラス、他の5社がマイナスだった。また国内生産台数は三菱以外はトヨタを含めて7社がマイナスとなった。

表1 自動車8社の生産・販売台数(2021年度)

     
 

世界生産

 

国内生産

 

世界販売

 

国内生産

 

(千台)

(%)

(千台)

(%)

(千台)

(%)

比率(%)

トヨタ自動車

8,570

4.7

2,761

-5.4

9,512

4.7

32.2

ホンダ

4,143

-8.6

634

-7.7

4,363

-6.3

15.3

日産自動車

3,390

-10.7

446

-13.8

3,821

-9.0

13.2

スズキ

2,822

6.4

840

-9.7

2,707

5.3

29.8

ダイハツ工業

1,518

8.8

841

-8.4

907

-1.7

55.4

三菱自動車

1,025

25.9

421

14.7

937

16.9

41.1

マツダ

1,024

-12.6

696

-6.8

1,251

-2.8

68.0

スバル

727

-10.3

455

-13.3

812

-11.3

62.6

出所:「朝日新聞」2022年4月28日

         

注:生産と販売の%は前年度比増減率

       

 

 トヨタ、ホンダ、日産の上位3社を比べると、世界生産と世界販売でトヨタのプラス、ホンダ、日産のマイナスが対照的であり、トヨタの一人勝ちといった様相だった。ホンダと日産は国内生産比率がきわめて低いことも、トヨタとの違いを示している。

 

◆空前の好業績はさらに続くのか

 表2によれば、2022年3月期(2021年4月~22年3月)のトヨタは営業収益、純利益とも空前の好業績だった。営業収益は31兆3800億円、純利益は2兆8500億円とかつてない規模に達した。販売台数は2020年3月期の水準に達していないにもかかわらず、利益を大きく伸ばすことができたのは、利幅の多い高級車の売上が増加したためだろう。

表2 トヨタの主要経営指標

     
 

2019年4月

2020年4月

2021年4月

2022年4月

 

~20年3月

~21年3月

~22年3月

~23年3月

営業収益(億円)

298,665

272,146

313,795

345,000

純利益(億円)

20,361

22,453

28,501

23,600

販売台数(万台)

896

765

823

885

従業員数(人)

361,907

366,283

372,817

 

平均臨時雇用人員(人)

86,596

80,009

87,120

 

税金費用(億円)

6,818

6,500

11,159

 

実際負担税率(%)

24.4

22.2

28.0

 

出所:トヨタ自動車「有価証券報告書」2022年3月期他

 

注:2022年4月~23年3月は2022年8月時点での決算見通し

 

 

 表3によって国内他社と比較してみると、売上高、純利益はスバルを除いて各社とも前年度に比べて増加しているが、増加率はトヨタが優勢であり、トヨタとホンダ以下各社との差が開いたことが明らかだ。なかでも純利益の増加率はトヨタが際立っている。

 利益増加の要因について、トヨタは販売台数の拡大とともに為替変動の影響を指摘し、資材高騰というマイナス要因をカバーした点をあげている。しかし、2023年3月期の業績見通しでは、最近の世界的な物価上昇、特に鉄鋼、樹脂原料等の原材料費膨張が円安というプラス要因を上回り、利益は落ち込むとみている。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱は在庫を圧縮するトヨタ生産方式に打撃を与えており、原材料費の高騰はトヨタを支える部品企業群を苦境に追い込むだろう。

 

 

表3 自動車7社の経営実績(2022年3月期)

 
 

売上高

 

純利益

 
 

(億円)

(%)

(億円)

(%)

トヨタ自動車

313,795

15.3

28,501

26.9

ホンダ

145,526

10.5

7.070

7.6

日産自動車

84,245

7.1

2,155

スズキ

35,683

12.3

1,603

9.5

マツダ

31,203

8.3

815

スバル

27,445

-3.0

700

-8.5

三菱自動車

20,389

40.1

740

出所:「朝日新聞」2022年5月14日

   

注:%は前年度比増減率。純利益の―は前年度赤字のため

  算出せず。

     

 

一方、表4によって地域別の事業実績をみると、生産台数・販売台数ともに日本はマイナス、海外はプラスだった。海外ではアジア、その他(中南米、オセアニア、アフリカ、中東)の伸びが北米、欧州を大幅に上回った。その結果、生産台数はアジアが北米に接近するまでに地位をあげた。営業収益では、全地域でプラスを記録したが、日本、北米は相対的にそれ以外の地域より低かった。営業利益はどの地域もかなりの伸びをみせたが、アジアが54.2%増の6724億円に達し、北米の5658億円を上回ったことが注目される。

表4 トヨタの地域別事業実績(2021年4月~2022年3月)

     
 

生産台数

 

販売台数

 

営業収益

 

営業利益

 
 

(万台)

前期比(%)

(万台)

前期比(%)

(億円)

前期比(%)

(億円)(億利益

前期比(%)

日本

374

-5.3

192

-9.5

159,914

7.0

14,234

23.9

北米

175

6.7

239

3.5

111,665

17.6

5,658

41.0

欧州

71

10.1

102

6.0

38,678

23.4

1,630

50.9

アジア

150

47.6

154

26.3

65,306

29.4

6,724

54.2

その他

46

51.3

135

31.7

29,282

56.3

2,382

298.0

合計

816

8.0

823

7.6

313,795

15.3

29,957

36.3

出所:トヨタ自動車「有価証券報告書」2022年3月期

     

 

ちなみに国別の販売台数を示せば、米国233万台、中国194万台が飛び抜けて多く、それに続くインドネシア、タイ、カナダ、オーストラリアなど20万台水準の国々と差をつけていた。

 

◆電気自動車への転換は進むのか

 世界首位の座にあるトヨタにとって、脱炭素革命への対応、ガソリン車から電気自動車へのシフトは簡単ではない。EU、中国、米国など世界の主要自動車市場では、2050年のカーボンニュートラルに向けて、2030年代にはガソリン車を禁止しようとしている。主要な自動車メーカーは一斉に電気自動車へのシフトを進めている。

 しかし、トヨタはこれまで電気自動車生産には消極的で、ハイブリッド車を広義の電動車と位置づけつつ、内燃機関を維持した多様な車種の開発を進めてきた。表5はトヨタが公表している電動車の生産実績だが、ハイブリッド車が大半であり、これは世界標準では「排ガスゼロ車」とは認められていない。トヨタがハイブリッド車の成功体験に囚われているうちに、世界では電気自動車の市場が急速に拡大しており、2021年の世界販売台数450万台が2022年には700万台へと急増する見込みだ。

表5 トヨタの電動車販売実績

         
 

2019

 

2020

 

2021

   
 

(台)

(%)

(台)

(%)

(台)

(%)

 

HEV

1,860,188

96.7

1,902,621

97.1

2,482,236

94.7

 

MHEV

4,602

0.2

3,320

0.2

7,482

0.3

 

PHEV

56,524

2.9

48,513

2.5

111,882

4.3

 

FCEV

2,494

0.1

1,770

0.1

5,918

0.2

 

BEV

0

0

3,346

0.2

14,407

0.5

 

合計

1,923,808

100.0

1,959,570

100.0

2,621,925

100.0

 

出所:トヨタ自動車ウエブサイト>企業情報>会社概要>販売・生産・輸出実績

 

 電気自動車のメーカーは、表6に示されるようにテスラを先頭に、上海汽車集団、BYDなどの中国勢がこれに続き、トヨタははるか後方の21位と出遅れている。またトヨタは、ガソリン車禁止政策を緩和させようと政治工作を行い、脱炭素革命を妨害しているとして、世界の環境運動団体から批判されている。有力な環境NGOのグリーンピースは、2021年11月、世界の自動車大手10社の気候変動対策でトヨタは最下位と評価した。また、2022年6月のトヨタ株主総会では、デンマークの年金基金から、トヨタの脱炭素の姿勢に対する質問状が提出された。

表6 電気自動車(EV)の会社別販売台数

会社名

販売台数(万台)

EV比率

 

2021年

2022年上期

(%)

テスラ

93.6

56.4

100

上海汽車集団

59.6

31.0

21

フォルクスワーゲン

45.2

21.7

5

BYD

32.0

32.4

43

日産・ルノー・三菱

24.8

13.3

3

現代自動車

22.3

16.9

3

ステランティス

18.2

11.6

3

長城汽車

13.5

 

11

広州汽車集団

12.0

10.0

29

浙江吉利集団

11.0

12.3

8

BMW

11.0

 

4

トヨタ自動車

1.4

 

0.1

出所:「日本経済新聞」2022年3月18日、7月28日

注:EV比率は2021年のデータ

   

 

こうした事態に対して、2021年12月、トヨタは2030年の電気自動車世界販売目標を200万台から350万台に引き上げ、4兆円(うち車載電池2兆円)を投資すると発表した。2022年5月には、初の量産型電気自動車bZ4Xを発売した。とはいえ、トヨタはホンダのように電気自動車一辺倒になるのでなく、水素エンジン車など、エンジン技術を残しつつ燃料の脱炭素化を進める戦略を堅持している。しかし、膨大な資金を要する電気自動車、水素エンジン車、燃料電池などの開発を並行して進めていけるのか。またこれまで協力してきた多数の部品メーカーを円滑に再編成していけるのか。自動車産業全体の大転換を前にして、世界王者トヨタの前途はかなり厳しいのではないだろうか。(2022年9月)

コロナ禍から回復できるか―トヨタ経営の現局面をみる

  • 2019年度は若干の後退

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、自動車各社の経営業績は大きく落ち込んだ。そのなかでトヨタ自動車のみ赤字転落を食い止めている。まず。通常の決算年度である2019年度(2019年4月~2020年3月)の業績からみていこう。コロナの影響は2020年2月の中国から生じていくが、この決算年度への打撃はそれほど大きくなかった。表1によれば、前年度と比べて売上高、営業利益は若干減少したとはいえ、純利益はむしろ増加し、販売台数はほぼ同じ水準だった。

表1 トヨタの主要経営指標      
  2017年4月 2018年4月 2019年4月 2020年4月
  ~18年3月 ~19年3月 ~20年3月 ~21年3月
売上高(億円) 293,795 302,257 299,300 240,000
営業利益(億円) 23,998 24,675 24,429 5,000
純利益(億円) 24,940 18,829 20,762 [7,300]
販売台数(万台) 896 898 896 700
従業員数(人) 369,124 370,870 359,542  
(臨時雇用)(人) 84,731 87,129 86,219  
税金費用(億円) 5,044 6,599 6,834  
実効税率(%) 19.2 28.9 26.8  

 地域別の事業実績は表2のとおりで、これを前年度と比べると、生産台数では日本以外は減少、販売台数では北米、アジアが減少、外部顧客向け売上高では北米、アジア、その他が減少、営業利益では日本、アジア、その他が減少したが、いずれにせよ減少幅はそれほど大きくなかった。

表2 地域別事業実績(2019年4月~20年3月)  
  生産台数 販売台数 売上高 営業利益
  (万台) (万台) (億円) (億円)
日本 441 224 95,229 15,680
北米 181 271 104,166 2,706
欧州 67 103 31,388 1,505
アジア 152 160 48,286 3,710
その他 40 137 20,231 907
合計 882 896 299,300 24,429

 

コロナの影響は中国工場閉鎖から始まり、欧州、北米、日本の操業停止、販売市場の縮小へと広がっていくが、3月末時点では影響は深刻ではなかった。5月の決算説明会資料によれば、営業利益へのコロナの影響をマイナス1600億円(台数影響1000億円、金融事業600億円)と見積もっていた。それに対して2020年度の見通しは厳しく、売上は6兆円近い減少、営業利益は2兆円近い落ち込みを予測し、営業利益は何とか5000億円の黒字とするものの、純利益は数字の発表を見送ってしまった。

 

  • コロナの影響はどの程度か

 4月以降、世界の自動車生産は軒並み大幅にダウンした。感染拡大による工場閉鎖、生産の縮小と外出制限、ロックダウンによる需要の落ち込みの両面から各社とも生産・販売が激減し、総崩れの状態となった。トヨタの地域別生産・販売台数も表3のように落ち込んだ。

表3 コロナのトヨタへの影響  
        (単位:万台)
  生産 台数 販売 台数
  2019年1-6月 2020年1-6月 2019年1-6月 2020年1-6月
日本 178.0 129.9 83.1 71.1
北米 95.3 61.0 133.7 101.8
欧州 40.8 29.1 55.5 41.0
アジア 126.7 100.5 143.6 115.6
その他 23.3 10.8 62.8 47.6
合計 464.1 331.3 478.7 377.1

 国内7社の2020年4~6月期売上高合計は9兆3872億円で、これは前年同期比45.4%減という驚くべき数字だった。50%以上の減少は日産、マツダ、三菱、スズキ、40%台の減少にとどまったのはトヨタ、ホンダ、スバルだった。売上高の下落以上に差が開いたのは純利益の減少(損失の発生)であり、日産2855億円、三菱1761億円など、巨額の損失に見舞われた。そのなかで、トヨタは1588億円の黒字を計上した。他に黒字はスズキの17億円のみだった。

 なぜトヨタの黒字計上が可能になったのか。理由の一つは中国市場の回復であり、1~6月の販売台数は前年比2%減にとどまり、1~7月では1%増となった。特に高額のSUV(スポーツ用多目的車)であるRAV4が富裕層向けに売れ行きを伸ばしたことが大きかったようだ。中国市場ではライバルのフォルクスワーゲンは1~6月販売台数17%減、日産・ルノー・三菱連合は20%減だったので、トヨタの強さは際立っていた。この結果、1~6月の世界販売台数ランキングでトヨタ(ダイハツ。日野を含む)は6年ぶりに首位に返り咲いた。

 もう一つの理由は、原価低減策が効果を発揮していることだろう。原価低減(原価削減、諸経費圧縮)は毎年2000~3000億円に達しており、その効果が4~6月期にも及んできていると考えられる。4~6月期の業績好転を受けて、トヨタは2020年度の世界販売台数計画を当初の890万台から910万台に引上げ、非公表だった純利益を7300億円(前期比64%減)と発表した。

 

  • ポストコロナに向けて

 他社に比べれば回復の早いトヨタだが、ポストコロナの前途には難題が待ち受けている。デジタル革命への対応は待ったなしである。電気自動車専業のテスラが株式時価総額でトヨタを抜いたのも、そうした時代の変化を先取りしている。電気自動車が主流になれば、当然部品点数は激減し、車づくりのシステムが大転換する。トヨタが抱える下請け部品メーカーは整理・淘汰を迫られる。この7月にトヨタは一部の部品メーカーに価格の引き下げを要求した。通常は4月と10月に価格見直し交渉をするが、今年は異例の要請となった。特殊鋼価格の低下が引下げ要請の理由のようだが、こうした要請を繰り返すなかで部品メーカーを淘汰していくのがトヨタの狙いではないか。すでに車台・部品の共通化を通じて、部品メーカーの再編は進行している。

販売組織、社内組織の再編もここにきて目立ってきた。これまで車種ごとに販売店を系列化していたが、この区分を解消した。これによって販売店間の競争が激しくなるだろう。また社内組織では、これまで23人いた執行役員を9人まで減らし、副社長職もなくしてしまった。社長の権力がますます強化されるだろう。

豊田章男社長は、強いリーダーシップを発揮する意気込みを示すなかで、5月の決算説明会の発言を「SDGsに本気で取り組む」と締めくくった。これは唐突な感があるし、言うこととすることの食い違いを示している。SDGsに取り組むならば、当然サプライチェーンの労働者の人権を尊重しなければならない。フィリピントヨタ争議の解決を放置しておきながら、「SDGsに本気で取り組む」といってみても、とうてい信用することができない。なぜこのような発言をしたのか、真意を知りたいところだ。

(フィリピントヨタ労組を支援する会『フィリピントヨタ労組と共に』第20号、2020年8月)

トヨタの経営動向―2019年3月期決算とCASE革命への対応

  • 売上高30兆円突破

 トヨタの2019年3月期(2018年4月~2019年3月)連結売上高は、日本企業で初めて30兆円を突破した(表1)。ホンダ15.9兆円、日立製作所9.5兆円と比べると、トヨタの飛び抜けた強さがわかる。販売台数は3年連続で900万台弱を維持し、非連結会社も含めると1060万台に達した。2018年の世界販売台数ランキングでは、フォルクスワーゲン1083万台、ルノー・日産・三菱連合1076万台に続き3位にとどまったが、その差はわずかである。

表1 トヨタの主要経営指標の推移

   

 

 

2016年3月期

2017年3月期

2018年3月期

2019年3月期

2020年3月期

販売台数(万台)

868

897

896

898

900

売上高(億円)

284,031

275,972

293,795

302,257

300,000

営業利益(億円)

28,539

19,943

23,999

24,675

25,500

純利益(億円)

23,127

18,311

24,940

18,829

22,500

従業員数(千人)

349

364

369

371

-

出所:トヨタ自動車『有価証券報告書』、「決算説明会資料」2019年3月期。

注 :2020年3月期は見通し。

       

 営業利益は2兆4675億円で3年連続増加を達成、ホンダ、日産、スズキ、マツダ、SUBARUが軒並み前期比営業減益となるなかで、トヨタの好調は際立っている。ただし、純利益は1兆8829億円、前期比24.5%減となったが、これは米国法人税減税の効果終了、保有株の評価減という特殊要因によるようだ。

営業利益の増減要因は、「決算説明会資料」によれば、プラス面は営業努力(台数・構成、金融事業他)2750億円、原価改善800億円、マイナス面は諸経費増加(労務費、減価償却費他)1650億円、為替変動500億円などが主なもので、減価改善、為替変動の影響は意外に少ない。しかし、2019年は円高が進む情勢にあり、1円400億円と言われるトヨタでは3500億円の利益押し下げ効果を見込み、業績予想を下方修正している。

 

  • アジアで稼ぐ構図

 表2によれば、地域別生産台数は日本、北米、アジアの順、販売台数は北米、日本、アジアの順であり、日本からの輸出を含めて北米が最重要市場となっているようにみえる。

表2 トヨタの地域別経営指標(2019年3月期)

 

 

 

生産台数

販売台数

売上高

営業利益

売上高利益率

 

(万台)

(万台)

(億円)

(億円)

(%)

日本

431

223

166,254

16,917

10.2

北米

184

275

108,172

1,145

1.1

欧州

68

99

32,389

1,249

3.9

アジア

168

168

55,130

4,575

8.3

その他

47

133

23,334

911

3.9

消去または全社

-

-

△83,023

△121

-

合計

899

898

302,257

24,675

8.2

出所:トヨタ自動車『有価証券報告書』2019年3月期。

   

 一方、売上高は日本、北米、アジア、欧州の順、営業利益は日本、アジア、欧州、北米の順であり、アジアが北米よりも稼いでいる状況が示される。売上高利益率(売上高に対する営業利益の比率)を計算してみると、日本10.2%、アジア8.3%が高く、北米はわずか1.1%にとどまっている。

 アジアの販売台数(2018年)を国別に集計してみると、中国(香港・マカオを含む)149万台、インドネシア36万台、タイ32万台、フィリピン15万台、台湾12万台などが上位を占め、合計286万台に達する(トヨタ、ウエブサイト掲載データ)。表2より多いのは、中国の非連結企業を含むためである。このデータでは北米280万台であり、2018年にアジアが北米を上回る状況になった(2011年に続いて2回目)。

 次にアジアの生産台数を国別に集計すると、中国132万台、タイ59万台、インドネシア20万台、インド16万台、台湾9万台、フィリピン4.6万台など、合計257万台となり、北米193万台を大きく上回っている。要するに、非連結企業を含めた場合、アジアは販売、生産の両面で北米を超え、最重要地域になっているといえる。

 

  • CASE革命に異例の対応

 自動車産業は100年に一度の変革期、CASE革命に直面している。C(つながる車)、A(自動運転)、S(シェアリング)、E(電動化)といったイノベーションに対応すべく、トヨタは移動サービスのプラットフォーム企業化を目指している。そのために研究開発投資に年間1兆円規模(年間売上高の3%)を投じている。しかし、新たなライバル企業のアルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コムの研究開発投資額は2~3兆円(年間売上高の12~15%)であり、トヨタに差をつけている。

 CASEの4分野ではそれぞれに先行企業が存在し、また相互の関連性が強いため、激しい主導権争いが展開されている。従来の体制ではCASE革命に対処しきれないとみたトヨタは、異例の対応策を打ち出している。第一に、様々なレベルでの企業連携の推進である。たとえばソフトバンクと共同出資で移動サービス推進企業「モネ・テクノロジーズ」を設立、これに小売、物流、不動産など90社以上が参加、ホンダの合流も注目される。トヨタはライドシェアではウーバーテクノロジーズ、グラブ、滴滴出行などへの出資も進めている。また、パナソニックとは住宅事業を統合して「プライム・ライフ・テクノロジーズ」設立を決定する一方、電気自動車向け電池の開発でも連携を強めている。電気自動車では中国大手のBYDとも提携、自動運転では中国のバイドウのアポロ計画に参加するなど、連携ネットワークを拡大している。

 第二に、人事・労務面の対応である。新事業に機動的に対応するために、執行役員を55人から23人へと大幅に削減し、意思決定のスピードを速める。管理職を整理して新資格「幹部職」を2300人選定し、経営課題ごとにリーダーを柔軟に配置するという。また、春闘賃金交渉では、業界のベースアップ相場形成の先導役を降り、一律賃上げ方式でない人材確保策を打ち出してきている。さらに、2019年夏の賞与は、好業績にもかかわらず管理職中心に減額に踏み切った。これらの異例の人事政策は、CASE革命に直面して「生きるか死ぬか」という危機感を抱くトヨタ経営陣の焦りの現れと考えられる。トヨタのようなモノづくりの「成功体験」が、デジタル経済ではむしろマイナスに作用するかもしれないからだ。

(フィリピントヨタ労組を支援する会「フィリピントヨタ労組と共に」第19号、2019年8月)

多国籍企業とタックスヘイブン ―租税回避額の推計を中心に―

経済のグローバル化によって多国籍企業のタックスヘイブンを利用した租税回避が拡大している。また、デジタル経済の発展とともにIT多国籍企業が高収益をあげる反面、納税額が少ないことが問題になっている。現代世界経済の変容に対して、従来の国際課税のルールは十分な対応ができていない。こうした問題意識から、OECDおよびG20は、多国籍企業のタックスヘイブンを利用した租税回避への包括的な対策(BEPSプロジェクト)に取り組んでいる。

 このような課題に対処する前提として、多国籍企業による租税回避額の規模の推計が不可欠であろう。タックスヘイブンの秘密主義、租税回避範囲の曖昧さなどから、明確な規模の測定は困難であるが、すでに多くの調査報告が公表されている。ただしそれらの成果をみると、推計対象、使用データ、分析方法、推計結果などが種々様々であり、諸推計を比較・検討する必要がある。また富裕層の租税回避の規模についても、同様の検討が求められている。

以下では、富裕層・多国籍企業の租税回避額を推計した主な調査報告について、方法論の違いをもとに3区分したうえで各調査報告の概略を示し、現時点における推計作業の到達点を明らかにしていきたい。

 

◆オフショア資産アプローチ

 オフショアとは金融規制のゆるい(当局の監視が及びにくい)市場を指し、ここでは広義のタックスヘイブンとしておく。富裕層がオフショア市場に保有している金融資産の量から租税回避額を推計するのがこのアプローチである。

 タックスヘイブン問題に取り組む代表的なNGOであるタックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)は2012年にThe Price of Offshore Revisitedを発表した。IMF国際収支統計、BIS資金移動統計、大手50銀行財務諸表等を資料とし、公式統計の不整合、オフショア資産の自己増殖、投資家の資産運用モデル、大手50行のオフショア資産量など、複数の推計手法を併用し、オフショア預金7兆ドル、有価証券・ファンドでの運用はその2~4倍とみて、総額21~32兆ドルを算出している(2010年)。21兆ドルの運用利回り3%、税率30%と仮定し、所得税1890億ドルが回避されたと結論づける。

 世界の貧困問題に取り組むNGOであるOXFAMは、世界の富裕層の資産額を推計し、貧富の格差拡大を証明する報告を毎年発表している。2019年1月発表のPublic Good or Private Wealth?では、世界の上位1%の超富裕層が世界全体の資産の47%を占有し、最上位26人が下位50%(38億人)と同等の資産を有していることを明らかにした。租税回避の推計は後述のズックマンに依拠しており、提言としては富裕層への富裕税強化、上位1%の資産85兆ドル(2015年)に0.5%課税で4000億ドル以上の税収増と主張している。

 ピケティの弟子にあたる経済学者ズックマンは、『失われた国家の富』(NTT出版、2015年)のなかで、富裕層のオフショア金融資産を5.8兆ユーロ、そのうち税務申告されない部分を4.7兆ユーロと推計し、それによって所得税、相続税、財産税計1300億ユーロの税収損失が発生したと計算している。彼は、TJNの推計は大きすぎると批判し、オフショア銀行預金1兆ユーロ、国際収支統計の対外資産・負債差額(隠された資産)4.8兆ユーロ、計5.8兆ユーロという数字の方が正確だと主張する。ズックマンは対象を限定しすぎており、実態は、TJN推計よりは少なく、ズックマン推計よりは多いといえよう。

 

◆直接投資・税率格差アプローチ

 多国籍企業の直接投資・収益率と世界各国・地域の法人税収・税率格差に着目し、オフショアを利用した法人税の租税回避額を推計する方法である。統計学的分析ツールを多用して結論を導いており、その限りではオフショア資産アプローチより緻密であるといえる。

 IMFは2014年、各国の法人税制が直接投資に及ぼす影響度を検討したポリシーペーパーSpillovers in International Corporate Taxationを公表した。この報告は、IMFが保有する1980~2013年、173カ国の直接投資と法人税に関するデータを用いて、各国の租税政策が他国の課税ベース(直接投資・利益移転動向)あるいは法人税率の水準に与える影響を検討している。OECD諸国と発展途上国を区分し、租税切下げ競争やタックスヘイブンの悪影響は途上国の方が大きいことを強調している。税収に関しては、世界全体では現在の法人税収の5%、途上国のみでは13%程度の損失が生じていると推計する。

 UNCTADは、World Investment Report 2015年版のなかで国際課税の問題を取り上げ、多国籍企業のオフショア投資を通じた租税回避額の推計を試みている。IMFとUNCTADの統計を使い2009~2012年における世界の直接投資の動向を追跡しているが、世界各国を非オフショア、SPE(オランダ、ルクセンブルクなどの投資中継国)、タックスヘイブン(低税率国)に3分し、SPEの役割を強調していることが注目される。こうした区分を使って投資経路別の投資額と収益率の関係を測定し、利益移転額と税収損失額を算出して、途上国660~1200億ドル、先進国1050億ドル、全世界で約2000億ドルの法人税損失額を導出している。

 BEPSプロジェクトに取り組むOECDは、2015年に公表した行動計画11のレポートMeasuring and Monitoring BEPSで綿密な租税回避額の推計を行っている。そこではORBISという全世界の企業データベースに基づき、6項目のBEPS指標(多国籍企業グループにおける低税率国への利益の集中、非多国籍企業との実効税率格差等)を用いながら、税率格差、国内優遇税制などの要因を考慮して税収損失の総額を計算している。それによると、2014年の世界の法人税収は、4~10%(1000~2400億ドル)の損失を生じているという。

 以上のような国際機関による推計は、手法の違いにもかかわらずほぼ1000~2000億ドル程度の租税回避額で一致している。それに対して、その後、より多くの租税回避額を算出する研究が現れている。

IMFのスタッフであるE. Crivelliらは2016年に Base Erosion, Profit Shifting and Developing Countries, IMF Working Paperを発表し、IMFの2014年の報告と同様のデータ、問題意識のもとに、推計方法に工夫を加え、平均実効税率の動きに注目しつつ、BEPS規模の新推計を試みている。それによると、先進国では4000億ドル(GDP比1%)、途上国では2000億ドル(GDP比1.3%)、合計6000億ドルの税収損失が生じているという。

これに対して、TJNメンバーであるA. Cobhamらは、2017年にGlobal distribution of revenue loss from tax avoidance, UNU-WIDERを発表し、Crivelliらの方法を継承しつつ、政府歳入データベースの活用、タックスヘイブンの範囲と平均実効税修正により、先進国3000億ドル、途上国2000億ドル、合計5000億ドルの税収損失を算出した。この報告では国別に税収損失額を示している点が目新しく、日本は米国、中国に次いで第3位、468億ドル(GDP比0.93%)の損失とされている。

 

◆その他のアプローチ

米国のNGO、Global Financial Integrityは、2017年にIllicit Financial Flows to and from Developing Countries: 2005-2014を公表した。これは世界貿易統計における輸出と輸入の食い違いを根拠に、途上国の資金流出入における不正な量を推計したもので、2005~2014年平均で流出の4.6~7.2%、流入の9.5~16.8%、金額ベースでは6000億~2兆ドル規模の不正資金移動があるとする。ただし、そのなかの租税回避部分の割合は明らかでない。

 同じく米国の団体であるU.S.PIRG、ITEPは、Offshore Shell Games 2017を公表し、米国多国籍企業のタックスヘイブンを通じた租税回避について、個別企業の金額を推計した。納税情報の得られる58社の金額をあげており、第1位のアップルは767億ドル回避とする。こうしたミクロベースの積み上げ作業とマクロレベルの推計とをいかに接合していくかが今後の課題となろう。

                (政治経済研究所『政経研究時報』21-4、2019年4月)

円安と減税で儲けるトヨタ

円安と減税で儲けるトヨタ

                          POLITICAL ECONOMY 23号

                          2014年10月3日                                   

  • 記録更新が続く営業利益

 トヨタ自動車の業績が好調だ。2013年度(2014年3月期:2013年4月~2014年3月)の営業利益は2兆2921億円に達し、6年ぶりに過去最高益を実現した(連結ベース)。純利益1兆8230億円、売上高25兆6920億円、生産台数903万台というたいへんな記録である。3月の賃金交渉では、政府の要請を受け入れ、トヨタは2700円のベースアップを回答している。

 2014年4~6月期の営業利益も6927億円に達し、四半期としては過去最高を実現した。純利益5877億円も過去最高だ。間もなく発表される7~9月期の業績もほぼ同様となるだろう。

トヨタは2014年5月の決算説明会で、前年度から営業利益が9712億円増加した要因について、為替9000億円、原価低減2900億円、営業努力1800億円等のプラス面、諸経費増加4800億円といったマイナス面をあげている。近年は原価低減、つまり部品調達コスト削減などの生産過程にかかわる要因が大きく、為替変動は円高によりマイナス要因であったのが、2013年度はアベノミクスによって円安が進んだ効果が大きかったといえる。トヨタの計算では米ドルは83円から100円へ、ユーロは107円から134円へと変動している。

 しかし、トヨタは円安を利用して輸出台数を伸ばしたわけではない。決算報告書に記載された日本国内の生産台数から販売台数を引いた数字を輸出台数としてカウントしてみると、2012年度の200万台に対して、2013年度は197万台にとどまっている。つまり、円安に対応して海外での販売価格を下げて台数を伸ばすのでなく、販売価格を据え置いて円での手取り額を増やしたと考えられる。

この結果、生産台数は前年度に比べてそれほど大きく伸びていないにもかかわらず、営業利益は73.5%も引き上げられることになった。これを反映して、純利益は89.5%の増加を達成した。

 

  • トヨタはどれだけ税金を納めているのか

 2014年5月8日の決算発表の席上、豊田社長は次のような注目すべき発言をしている。

 「この4年間、関係する皆様のご協力をいただきながら懸命に努力を続けたことにより、経営体質は確実に強くなりました。日本においても税金を納めることができる状態となり・・・」

 これはどういう意味か。現在の日本の法人税制では、収益(課税所得)がマイナスにな

った場合、その年度に納税を免れるだけでなく、マイナス分を次年度以降に繰り越し、マ

イナスが解消するまで最長7年間税金を納めないでおくことができる。2008年のリーマ

ンショックで赤字に陥ったトヨタは、日本国内では2008年度から4年間、欠損の繰り越

しを行い、海外子会社の収益と相殺し、大幅に納税額を削減してきた。2007年度の納税額

が9115億円に達していたのに対し、2008年度は実質ゼロ、以下2009年度927億円、2010

年度3128億円、2011年度2623億円、2012年度5517億円と推移し、2013年度は7678

億円まで増加してきた。それでも2007年度の水準には復帰していない。

 

  • 減税政策の恩恵

 アベノミクスの成長戦略の目玉として、法人税減税が取り沙汰されている。しかし、トヨタのような大企業に対しては、すでに手厚い減税措置が講じられている。2013年度の場合、税引き前利益は2兆4411億円であり、これに法定税率37.6%をかけると、税額は9179億円となる。ただし、研究開発費等の税額控除1587億円、海外子会社との法定税率の差(外国税額控除)781億円など、様々な控除が加わり、納税額7678億円、実効税率は31.5%に低下している。

 また、税引き前利益の算出にあたっても、税制上の問題がある。『文芸春秋』2013年9月号の富岡幸雄氏による「法人税を下げる前に企業長者番付の復活を」という記事は、「受取配当金益金不算入制度」の不当性を論じている。これは、企業が保有する他社株式の配当金を受け取った場合、関係会社からの配当金は100%、それ以外の会社からの配当金は50%が利益金に算入されないという制度である。トヨタの2008年から13年までの受取配当金は6年間で2兆3246億円にのぼるが、この多くの部分には税金がかからないというのである。こうした項目を算入した税効果会計適用後の2013年度実効税率は何と22.9%まで減少する。

このような法人税制を残したまま、法定税率を20%台まで引き下げていくとすれば、トヨタの実質的税負担がさらに軽くなることは間違いない。