トヨタ2016年度決算から見えてきたもの

トヨタ2016年度決算から見えてきたもの

         (フィリピントヨタ労組を支援する会『フィリピントヨタ労組とともに』17号、2017年8月)

                           

  • 減収減益決算

 トヨタの2016年度(2016年4月~17年3月)決算は、売上高が前年度より8059億円(2.8%)減少、営業利益が8595億円(30.1%)減少、純利益が4815億円(26.5%)減少という結果となった。ここ数年、売上高、営業利益などは増加基調であっただけに、今期の落ち込みは際立っている。

 

表1 トヨタの経営実績    
  2016年度 2015年度 前期比
売上高(億円) 275,971 284,031 -8,059
営業利益(億円) 19,943 28,539 -8,595
純利益(億円) 18,311 23,126 -4,815
従業員数(人) 364,445 348,877 15,568
生産台数(万台) 898 858 40
  国内生産(万台) 411 398 13
   海外生産(万台) 487 460 27
販売台数(万台) 897 868 29
  国内販売(万台) 227 206 21
  海外販売(万台) 670 662 8
設備投資額(億円) 12,118 12,925 -807
       
出所:トヨタ「決算報告」2017年3月期。  

 

 

 営業利益の減少要因については、為替変動9400億円、諸経費増加5300億円などのマイナスがあげられ、原価改善努力4400億円、営業努力2100億円のプラス効果を上回ったためと指摘されている。2016年の円高傾向が、輸出依存度の高いトヨタに打撃を与えたと考えられる。ただし、2017年5月の決算発表時の豊田章男社長のあいさつでは、減収減益の事実にはふれず、「今回の決算は、為替の追い風も向い風も無い中で、まさに現在の等身大の実力が素直に表れたもの」と平静を装っている。

 減益の結果、法人税等は6289億円(前期比28.4%減)、実効税率は税額控除や海外子会社益金の影響により28.7%となり、法定法人税率を下回った。   

 なお、決算発表と同時に示された2017年度(2017年4月~18年3月)の決算見通しによれば、売上高は0.4%減、営業利益は19.8%減、純利益は18.1%減と、2期連続減収減益としている。2期連続の営業利益減少は18年ぶりのことで、トヨタの拡大路線の行詰まりを示している。

 

  • 北米市場での苦戦

 減収減益にもかかわらず、生産台数と販売台数はわずかながらも増加している。これは、安いクルマが売れたにもかかわらず、高いクルマが売れなかったことを意味している。地域別にみると、北米市場での苦戦が明らかである。

 

表2 トヨタの地域別業績    
    2016年度 2015年度 前期比
売上高 日本 148,308 147,594 714
(億円) 北米 102,390 110,519 -8,129
  欧州 26,810 26,613 197
  アジア 48,198 50,038 -1,840
営業利益 日本 12,022 16,775 -4,753
(億円) 北米 3,111 5,288 -2,177
  欧州 -122 724 -846
  アジア 4,351 4,491 -140
生産台数 日本 411 398 13
(万台) 北米 206 197 9
  欧州 64 57 7
  アジア 167 161 6
販売台数 日本 227 206 21
(万台) 北米 284 284 0
  欧州 93 84 9
  アジア 159 135 24
設備投資 日本 6,402 6,468 -66
(億円) 北米 3,745 2,342 1,403
  欧州 589 777 -188
  アジア 1,031 2,397 -1,366
         
出所:トヨタ「決算報告」2017年3月期。  

  

 

販売台数は、各地域が増加を記録するなかで、北米のみが2千台の減少となった。売上高では、北米は8129億円(7.4%)の減少であり、全体の減少額を上回る落ち込みをみせた。営業利益に至っては、2177億円(41.2%)という大幅な下落を示した。減益要因として、販売面の影響1250億円、諸経費増加1150億円、為替変動450億円などのマイナスが原価改善努力1100億円のプラス効果を上回ったことが指摘されている。会社資料によると、貸倒関連費用、残価損失関連費用の増加などが特に記載されており、無理な営業活動の失敗によるものと考えられる。

 こうした状況のなかで、トランプ政権からメキシコの工場建設反対、アメリカ工場増強の圧力が加えられ、豊田社長はあわてて今後5年間で100億ドルをアメリカ国内に投資すると表明せざるをえなくなった。電動化、自動運転化などの急激な技術革新とともに、企業間の競争が激化しており、トランプ大統領の場当たり的な経済政策に振り回されながら、北米市場でのトヨタの苦戦は今後も続くものと思われる。

 

  • アジア市場の可能性

 グローバル企業であるトヨタは、全世界に製造・販売拠点を展開しているが、地域別にみると北米が最重点地域であることは間違いない。販売台数は日本国内を上回るほどであり、売上高は海外地域のなかで一貫して最大である。

 ただし、生産台数、営業利益、設備投資額などではアジア地域の役割も大きくなっている。試みに、過去6期の北米とアジアの実績を比較してみると、アジアが北米を上回ったのは、生産台数では3期、営業利益では4期、設備投資額では4期となっている。アジアのなかでは、世界最大の自動車市場となった中国が大きいことは言うまでもない。

 2016年の国別生産台数ランキングをみると、アメリカ138万台、中国107万台、カナダ60万台、タイ56万台、インドネシア31万台、フランス24万台、イギリス18万台、ブラジル18万台、トルコ15万台、インド15万台であり(『東洋経済』2017年4/29-5/6)、上位10カ国のうちアジアが半分を占めている。なかでも中国の天津は49万台、広州は42万台という巨大工場である。なお、フィリピンは5万5千台であり、規模は小さい。

 今後、アジアの経済成長、自動車市場の拡大とともに、トヨタのアジア拠点の役割はさらに大きくなっていくだろう。そのなかで、フィリピントヨタ争議の解決を放置しておくことは、トヨタにとってどうみても得策とはいえないのではないか。