コロナ禍から回復できるか―トヨタ経営の現局面をみる

  • 2019年度は若干の後退

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、自動車各社の経営業績は大きく落ち込んだ。そのなかでトヨタ自動車のみ赤字転落を食い止めている。まず。通常の決算年度である2019年度(2019年4月~2020年3月)の業績からみていこう。コロナの影響は2020年2月の中国から生じていくが、この決算年度への打撃はそれほど大きくなかった。表1によれば、前年度と比べて売上高、営業利益は若干減少したとはいえ、純利益はむしろ増加し、販売台数はほぼ同じ水準だった。

表1 トヨタの主要経営指標      
  2017年4月 2018年4月 2019年4月 2020年4月
  ~18年3月 ~19年3月 ~20年3月 ~21年3月
売上高(億円) 293,795 302,257 299,300 240,000
営業利益(億円) 23,998 24,675 24,429 5,000
純利益(億円) 24,940 18,829 20,762 [7,300]
販売台数(万台) 896 898 896 700
従業員数(人) 369,124 370,870 359,542  
(臨時雇用)(人) 84,731 87,129 86,219  
税金費用(億円) 5,044 6,599 6,834  
実効税率(%) 19.2 28.9 26.8  

 地域別の事業実績は表2のとおりで、これを前年度と比べると、生産台数では日本以外は減少、販売台数では北米、アジアが減少、外部顧客向け売上高では北米、アジア、その他が減少、営業利益では日本、アジア、その他が減少したが、いずれにせよ減少幅はそれほど大きくなかった。

表2 地域別事業実績(2019年4月~20年3月)  
  生産台数 販売台数 売上高 営業利益
  (万台) (万台) (億円) (億円)
日本 441 224 95,229 15,680
北米 181 271 104,166 2,706
欧州 67 103 31,388 1,505
アジア 152 160 48,286 3,710
その他 40 137 20,231 907
合計 882 896 299,300 24,429

 

コロナの影響は中国工場閉鎖から始まり、欧州、北米、日本の操業停止、販売市場の縮小へと広がっていくが、3月末時点では影響は深刻ではなかった。5月の決算説明会資料によれば、営業利益へのコロナの影響をマイナス1600億円(台数影響1000億円、金融事業600億円)と見積もっていた。それに対して2020年度の見通しは厳しく、売上は6兆円近い減少、営業利益は2兆円近い落ち込みを予測し、営業利益は何とか5000億円の黒字とするものの、純利益は数字の発表を見送ってしまった。

 

  • コロナの影響はどの程度か

 4月以降、世界の自動車生産は軒並み大幅にダウンした。感染拡大による工場閉鎖、生産の縮小と外出制限、ロックダウンによる需要の落ち込みの両面から各社とも生産・販売が激減し、総崩れの状態となった。トヨタの地域別生産・販売台数も表3のように落ち込んだ。

表3 コロナのトヨタへの影響  
        (単位:万台)
  生産 台数 販売 台数
  2019年1-6月 2020年1-6月 2019年1-6月 2020年1-6月
日本 178.0 129.9 83.1 71.1
北米 95.3 61.0 133.7 101.8
欧州 40.8 29.1 55.5 41.0
アジア 126.7 100.5 143.6 115.6
その他 23.3 10.8 62.8 47.6
合計 464.1 331.3 478.7 377.1

 国内7社の2020年4~6月期売上高合計は9兆3872億円で、これは前年同期比45.4%減という驚くべき数字だった。50%以上の減少は日産、マツダ、三菱、スズキ、40%台の減少にとどまったのはトヨタ、ホンダ、スバルだった。売上高の下落以上に差が開いたのは純利益の減少(損失の発生)であり、日産2855億円、三菱1761億円など、巨額の損失に見舞われた。そのなかで、トヨタは1588億円の黒字を計上した。他に黒字はスズキの17億円のみだった。

 なぜトヨタの黒字計上が可能になったのか。理由の一つは中国市場の回復であり、1~6月の販売台数は前年比2%減にとどまり、1~7月では1%増となった。特に高額のSUV(スポーツ用多目的車)であるRAV4が富裕層向けに売れ行きを伸ばしたことが大きかったようだ。中国市場ではライバルのフォルクスワーゲンは1~6月販売台数17%減、日産・ルノー・三菱連合は20%減だったので、トヨタの強さは際立っていた。この結果、1~6月の世界販売台数ランキングでトヨタ(ダイハツ。日野を含む)は6年ぶりに首位に返り咲いた。

 もう一つの理由は、原価低減策が効果を発揮していることだろう。原価低減(原価削減、諸経費圧縮)は毎年2000~3000億円に達しており、その効果が4~6月期にも及んできていると考えられる。4~6月期の業績好転を受けて、トヨタは2020年度の世界販売台数計画を当初の890万台から910万台に引上げ、非公表だった純利益を7300億円(前期比64%減)と発表した。

 

  • ポストコロナに向けて

 他社に比べれば回復の早いトヨタだが、ポストコロナの前途には難題が待ち受けている。デジタル革命への対応は待ったなしである。電気自動車専業のテスラが株式時価総額でトヨタを抜いたのも、そうした時代の変化を先取りしている。電気自動車が主流になれば、当然部品点数は激減し、車づくりのシステムが大転換する。トヨタが抱える下請け部品メーカーは整理・淘汰を迫られる。この7月にトヨタは一部の部品メーカーに価格の引き下げを要求した。通常は4月と10月に価格見直し交渉をするが、今年は異例の要請となった。特殊鋼価格の低下が引下げ要請の理由のようだが、こうした要請を繰り返すなかで部品メーカーを淘汰していくのがトヨタの狙いではないか。すでに車台・部品の共通化を通じて、部品メーカーの再編は進行している。

販売組織、社内組織の再編もここにきて目立ってきた。これまで車種ごとに販売店を系列化していたが、この区分を解消した。これによって販売店間の競争が激しくなるだろう。また社内組織では、これまで23人いた執行役員を9人まで減らし、副社長職もなくしてしまった。社長の権力がますます強化されるだろう。

豊田章男社長は、強いリーダーシップを発揮する意気込みを示すなかで、5月の決算説明会の発言を「SDGsに本気で取り組む」と締めくくった。これは唐突な感があるし、言うこととすることの食い違いを示している。SDGsに取り組むならば、当然サプライチェーンの労働者の人権を尊重しなければならない。フィリピントヨタ争議の解決を放置しておきながら、「SDGsに本気で取り組む」といってみても、とうてい信用することができない。なぜこのような発言をしたのか、真意を知りたいところだ。

(フィリピントヨタ労組を支援する会『フィリピントヨタ労組と共に』第20号、2020年8月)