コロナ禍から回復できるか―トヨタ経営の現局面をみる
- 詳細
- 公開日:2020年09月03日(木)13:50
- 2019年度は若干の後退
新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、自動車各社の経営業績は大きく落ち込んだ。そのなかでトヨタ自動車のみ赤字転落を食い止めている。まず。通常の決算年度である2019年度(2019年4月~2020年3月)の業績からみていこう。コロナの影響は2020年2月の中国から生じていくが、この決算年度への打撃はそれほど大きくなかった。表1によれば、前年度と比べて売上高、営業利益は若干減少したとはいえ、純利益はむしろ増加し、販売台数はほぼ同じ水準だった。
表1 トヨタの主要経営指標 | ||||
2017年4月 | 2018年4月 | 2019年4月 | 2020年4月 | |
~18年3月 | ~19年3月 | ~20年3月 | ~21年3月 | |
売上高(億円) | 293,795 | 302,257 | 299,300 | 240,000 |
営業利益(億円) | 23,998 | 24,675 | 24,429 | 5,000 |
純利益(億円) | 24,940 | 18,829 | 20,762 | [7,300] |
販売台数(万台) | 896 | 898 | 896 | 700 |
従業員数(人) | 369,124 | 370,870 | 359,542 | |
(臨時雇用)(人) | 84,731 | 87,129 | 86,219 | |
税金費用(億円) | 5,044 | 6,599 | 6,834 | |
実効税率(%) | 19.2 | 28.9 | 26.8 |
地域別の事業実績は表2のとおりで、これを前年度と比べると、生産台数では日本以外は減少、販売台数では北米、アジアが減少、外部顧客向け売上高では北米、アジア、その他が減少、営業利益では日本、アジア、その他が減少したが、いずれにせよ減少幅はそれほど大きくなかった。
表2 地域別事業実績(2019年4月~20年3月) | ||||
生産台数 | 販売台数 | 売上高 | 営業利益 | |
(万台) | (万台) | (億円) | (億円) | |
日本 | 441 | 224 | 95,229 | 15,680 |
北米 | 181 | 271 | 104,166 | 2,706 |
欧州 | 67 | 103 | 31,388 | 1,505 |
アジア | 152 | 160 | 48,286 | 3,710 |
その他 | 40 | 137 | 20,231 | 907 |
合計 | 882 | 896 | 299,300 | 24,429 |
コロナの影響は中国工場閉鎖から始まり、欧州、北米、日本の操業停止、販売市場の縮小へと広がっていくが、3月末時点では影響は深刻ではなかった。5月の決算説明会資料によれば、営業利益へのコロナの影響をマイナス1600億円(台数影響1000億円、金融事業600億円)と見積もっていた。それに対して2020年度の見通しは厳しく、売上は6兆円近い減少、営業利益は2兆円近い落ち込みを予測し、営業利益は何とか5000億円の黒字とするものの、純利益は数字の発表を見送ってしまった。
- コロナの影響はどの程度か
4月以降、世界の自動車生産は軒並み大幅にダウンした。感染拡大による工場閉鎖、生産の縮小と外出制限、ロックダウンによる需要の落ち込みの両面から各社とも生産・販売が激減し、総崩れの状態となった。トヨタの地域別生産・販売台数も表3のように落ち込んだ。
表3 コロナのトヨタへの影響 | ||||
(単位:万台) | ||||
生産 | 台数 | 販売 | 台数 | |
2019年1-6月 | 2020年1-6月 | 2019年1-6月 | 2020年1-6月 | |
日本 | 178.0 | 129.9 | 83.1 | 71.1 |
北米 | 95.3 | 61.0 | 133.7 | 101.8 |
欧州 | 40.8 | 29.1 | 55.5 | 41.0 |
アジア | 126.7 | 100.5 | 143.6 | 115.6 |
その他 | 23.3 | 10.8 | 62.8 | 47.6 |
合計 | 464.1 | 331.3 | 478.7 | 377.1 |
国内7社の2020年4~6月期売上高合計は9兆3872億円で、これは前年同期比45.4%減という驚くべき数字だった。50%以上の減少は日産、マツダ、三菱、スズキ、40%台の減少にとどまったのはトヨタ、ホンダ、スバルだった。売上高の下落以上に差が開いたのは純利益の減少(損失の発生)であり、日産2855億円、三菱1761億円など、巨額の損失に見舞われた。そのなかで、トヨタは1588億円の黒字を計上した。他に黒字はスズキの17億円のみだった。
なぜトヨタの黒字計上が可能になったのか。理由の一つは中国市場の回復であり、1~6月の販売台数は前年比2%減にとどまり、1~7月では1%増となった。特に高額のSUV(スポーツ用多目的車)であるRAV4が富裕層向けに売れ行きを伸ばしたことが大きかったようだ。中国市場ではライバルのフォルクスワーゲンは1~6月販売台数17%減、日産・ルノー・三菱連合は20%減だったので、トヨタの強さは際立っていた。この結果、1~6月の世界販売台数ランキングでトヨタ(ダイハツ。日野を含む)は6年ぶりに首位に返り咲いた。
もう一つの理由は、原価低減策が効果を発揮していることだろう。原価低減(原価削減、諸経費圧縮)は毎年2000~3000億円に達しており、その効果が4~6月期にも及んできていると考えられる。4~6月期の業績好転を受けて、トヨタは2020年度の世界販売台数計画を当初の890万台から910万台に引上げ、非公表だった純利益を7300億円(前期比64%減)と発表した。
- ポストコロナに向けて
他社に比べれば回復の早いトヨタだが、ポストコロナの前途には難題が待ち受けている。デジタル革命への対応は待ったなしである。電気自動車専業のテスラが株式時価総額でトヨタを抜いたのも、そうした時代の変化を先取りしている。電気自動車が主流になれば、当然部品点数は激減し、車づくりのシステムが大転換する。トヨタが抱える下請け部品メーカーは整理・淘汰を迫られる。この7月にトヨタは一部の部品メーカーに価格の引き下げを要求した。通常は4月と10月に価格見直し交渉をするが、今年は異例の要請となった。特殊鋼価格の低下が引下げ要請の理由のようだが、こうした要請を繰り返すなかで部品メーカーを淘汰していくのがトヨタの狙いではないか。すでに車台・部品の共通化を通じて、部品メーカーの再編は進行している。
販売組織、社内組織の再編もここにきて目立ってきた。これまで車種ごとに販売店を系列化していたが、この区分を解消した。これによって販売店間の競争が激しくなるだろう。また社内組織では、これまで23人いた執行役員を9人まで減らし、副社長職もなくしてしまった。社長の権力がますます強化されるだろう。
豊田章男社長は、強いリーダーシップを発揮する意気込みを示すなかで、5月の決算説明会の発言を「SDGsに本気で取り組む」と締めくくった。これは唐突な感があるし、言うこととすることの食い違いを示している。SDGsに取り組むならば、当然サプライチェーンの労働者の人権を尊重しなければならない。フィリピントヨタ争議の解決を放置しておきながら、「SDGsに本気で取り組む」といってみても、とうてい信用することができない。なぜこのような発言をしたのか、真意を知りたいところだ。
(フィリピントヨタ労組を支援する会『フィリピントヨタ労組と共に』第20号、2020年8月)