経常収支黒字縮小に経産省の焦り
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- 公開日:2017年11月05日(日)14:00
経常収支黒字縮小に経産省の焦り
POLITICAL ECONOMY 33号
2015年8月9日
7月3日、経済産業省は2015年版『通商白書』を発表した。この白書は1947年から刊行されており、今回が67回目になるが、毎年の世界経済や日本の対外経済関係を概観するとともに、その時点での日本の対外経済政策の課題を書き込んでいる。今年の白書では、「「日本を活かして世界で稼ぐ」力の向上のために」と題した第Ⅱ部に、経産省の問題意識が表明されている。
- 日本の「稼ぐ力」は落ちている
「世界で稼ぐ力」とは何か。その内容は、「輸出する力」、「呼び込む力」、「外で稼ぐ力」の三つからなる。「輸出する力」とは文字通り輸出を増やして外貨を稼ぐ力のことで、円安にもかかわらず輸出があまり伸びないのはなぜか、その要因を分析している。要因として、海外需要の低迷、企業が輸出価格を下げないことによる輸出数量の伸び悩み、国内生産から海外生産のシフトなどをあげる。特に問題点として、世界的に需要が伸びている品目に対して日本の輸出が対応できておらず、中国、米国、ドイツ、さらにはイギリス、韓国などにも遅れをとっている点が指摘される。対策として、ドイツのIndustrie 4.0、米国のI o T (Internet of Things) のような先進的なビジネスモデルへの取り組みが必要という。
「呼び込む力」は、観光客とグローバル企業の受け入れを増やす力のことだ。観光客の呼び込みについては、確かにここ1~2年の訪日外国人数とその消費は過去最高を更新しており、白書では、受け入れ環境整備、日本の魅力(食、自然、文化)への認識の深まり、販売商品への信頼性などを要因にあげているが、円安効果、中国・台湾・韓国等の近隣地域の所得水準上昇も大きいだろう。これに対してグローバル企業の呼び込みは、なかなか実績があがっていない。対策として、イスラエル、スイス、台湾のような規模は小さくともイノベーション力のある国・地域に学ぶべきという。
「外で稼ぐ力」とは海外に進出した企業の利益率を上げることであり、配当の全般的増加、中国進出企業の配当性向の高水準などを評価する一方、他国のグローバル企業と比較すると日系企業の力は劣っていると指摘する。2006年度から2013年度までの主要なグローバル企業の業績を比較すると、売上高成長率・営業利益成長率はアジア系、米系、欧州系、日系の順、売上高営業利益率(2013年度)は米系、欧州系、アジア系、日系の順となり、日系企業の弱さが示された。弱さの原因として白書は、日系企業の多角化戦略が成長性、収益性を下げているとして、グローバル経営力の強化を課題にあげている。
- 経常収支赤字転落に危機感
以上のような三つの領域を合わせて経産省がことさら「世界で稼ぐ力」を強調するのは、日本の経常収支の黒字幅が急速に縮小し、近い将来赤字に転落するのではないか、という焦りがあるからだろう。実際、かつて大幅な経常収支黒字によって「黒字国責任」を追及された時代とは様変わりして、ここ数年の黒字幅減少は急激なものがある。すなわち、2010年の19.4兆円が2014年にはわずか2.6兆円へと激減した。2015年は若干持ち直すと予想されるが、長期減少傾向は否めない。その主因は2011年以降の貿易赤字の拡大であり、2014年には10.4兆円の赤字を計上した。これをカバーするのが海外投資収益の還流による第一次所得収支の黒字であり、2014年は18.1兆円を記録した。サービス収支は訪日外国人が増えたといっても全体として赤字項目であって、総合的にみれば経常収支黒字をいつまで維持できるか、経産省の懸念は今後も解消しないのではないだろうか。