武器輸出解禁からODA大綱改訂へ―成長戦略と積極的平和主義の連結
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- 公開日:2017年11月05日(日)14:05
武器輸出解禁からODA大綱改訂へ―成長戦略と積極的平和主義の連結
POLITICAL ECONOMY 28号
2015年3月5日
安倍政権の支持率が落ちない。秘密保護法制定、集団的自衛権行使容認、安保法制改訂等、改憲路線を暴走する安倍政権が支持率を落とさないのは、アベノミクスがそれなりに機能して、景気回復の期待感をもたせているからだろう。しかし、ここにきて2%のインフレターゲットが達成できず、官邸と日銀の間に隙間風が吹くなど、アベノミクスは賞味期限切れの兆候を示している。アベノミクスの3本の矢のうち、異次元の金融緩和と機動的財政出動は、もともと短期的効果しか望めないものである以上、手詰まり状態は明らかだ。ただし、第3の矢の成長戦略は様々な規制緩和策を並べたもので、即効性はないとはいえ長期的影響には注意を要する。
安倍政権の2本柱、アベノミクス(日本再興戦略)と積極的平和主義(改憲戦略)は、これまでのところ並行して展開しているが、両者を連結する手法も現れている。武器輸出解禁とODA大綱の改訂である。
武器輸出解禁は、2014年4月の「防衛装備移転3原則」閣議決定によって実施段階に入った。現行憲法の平和主義の一指標である武器輸出3原則は、1960年代佐藤政権時に提起され、1970年代三木政権時に定式化された。共産圏、国連の禁輸国、国際紛争当事国向けの武器輸出を規制する政策だが、実際には武器輸出一般を禁止する形で運用されてきた。このため武器生産メーカーは販路が国内市場(自衛隊)に限定され、少量高コスト生産が常態化した。その後、米国への技術供与、国際共同開発といった例外が次々に現れたものの、3原則は基本的に維持されてきた。民主党政権下、3原則の見直しが提起されるようになり、安倍政権のもとで、2013年12月の「国家安全保障戦略」策定に基づき、ついに「防衛装備移転3原則」へと切り替えられることになった。
新たな段階に入った対外政策の軍事化
新3原則は、①国連禁輸国、紛争当事国への輸出禁止(旧3原則の継承)、②「平和貢献」「日本の安全保障」目的には許容、③第三国移転の規制であり、これまでの例外を一般化したものであって、武器輸出解禁策にほかならない。日本の軍事産業の市場規模は1兆6千億円にとどまっているため、40兆円以上とみられる世界市場への参入を目論んでいるわけで、成長戦略としての規制緩和の一環と考えられる。
ODA大綱は、2015年2月の「開発協力大綱」閣議決定によって、転換が明らかになった。日本のODA政策の基本は、1992年の「ODA大綱」制定、2003年の改訂によって内外に示されてきた。そこでは、「外国軍への支援は禁止」など、軍事的利用への歯止めが明示されていた。
しかし、今回の改訂によって、大綱の名称が変わるとともに、内容も大きく転換している。新大綱の要点としては、国益の重視を正面にすえ、他国軍への非軍事的分野での支援、ODA卒業国への供与(非ODA枠予算の設定)、民間企業・自治体等との連携などがあげられている。他国軍への支援は、「民生目的、災害救助など非軍事的目的」に限るとしているが、それが歯止めにならないことは目に見えている。全体として、「国家安全保障戦略」をふまえた積極的平和主義の観点が濃厚な大綱となっている。武器輸出との関連でいえば、これまでもインドネシアやベトナムへの巡視艇供与が問題とされてきたが、今回の改訂によってそうしたODAが公然と実施できるようになった。中国との対抗を意識したASEAN諸国への軍事的ODA供与がこれから増えていくことになろう。これもまた一種の規制緩和であって、成長戦略にも通じている。
成長戦略と積極的平和主義の連結、ODAによる武器輸出解禁によって、日本の対外政策の軍事化は新たな段階に入ろうとしている。