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第2次トランプ政権と米国覇権の行方

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公開日:2025年03月03日(月)09:19

第2次トランプ政権が発足して40日が経過した。この間、洪水のように大統領令を乱発し、米国国内も国際社会もトランプの言動に振り回されている。トランプ政権は何を目指しているのか、世界の覇権構造はどのように変貌していくのか、先行きはなお不透明だが、とりあえず現状を整理しておきたい。

◆大統領令の乱発

 トランプ大統領は最初の1か月だけで100件以上の大統領令(行政命令・覚書・布告)に署名した。国内政策では第一に、イーロン・マスク率いるDOGE(政府効率化省)を通じた政府機関の解体、政府職員の大量整理があげられる。国際開発局、消費者金融保護局の業務停止をはじめ、国防総省、中央情報局を含めて多数の政府機関に大幅な人員削減を迫っている。また、DEI(多様性、公平性、包摂性)を推進する政府内の部署の廃止を実施した。第二は移民排斥政策であり、「不法移民」の強制送還、メキシコ国境への米軍動員、壁の建設をはじめ、合法移民の規制、国籍付与の「出生地主義」の修正などが打ち出された。その他、環境・エネルギー政策の転換では、「パリ協定」からの離脱、化石燃料開発の促進策を実施した。さらに、法人税・所得税の減税政策、企業活動の規制緩和策が予定されている。

対外政策では第一は関税政策であり、中国には、第1期政権期の関税引上げ策を継承し、新たに10%の追加引上げに踏み切った。隣国メキシコ、カナダへは、合成麻薬流入を理由に25%課税を提起したが、実施は延期されている。その他、鉄鋼、アルミ、自動車への25%追加関税、すべての国からの輸入品への一律10~20%関税、特定の相手国に対する相互関税など、様々な関税発動を予告している。第二に国際協調システムからの離脱だ。気候変動に関する「パリ協定」離脱、WHO等の国際機関からの撤退、国際課税協定・国際租税協力枠組条約交渉からの撤収などが目に付く。第三に、目下の二つの戦争に対する積極的な停戦工作だ。パレスチナ戦争では停戦合意の実施が進むなかでイスラエル寄りの姿勢を強め、ガザを所有してリゾート開発する構想を打ち出した。ウクライナ戦争では、米ロの2国間交渉を先行させ、ウクライナ、欧州諸国の関与を後回しにした。 

◆引き起こされる内外の混乱

 第一に、大統領令の拙速な発動が現場に様々な混乱を引き起こした。政府機関の閉鎖、職員のリストラは、通常業務の停止、大統領令の執行停止を求める訴訟の多発、連邦地裁による差し止め命令など、総じて連邦政府の機能停滞といった事態を生んでいる。ただ、こうした混乱が生じるとしても、いずれ最高裁によって訴訟は終結し、行きすぎは是正されながら、行政整理は進行していくだろう。

 第二に、関税引上げが広範囲の輸入品に適用されれば、国内的にはインフレ、世界的には貿易の停滞、成長率鈍化を引き起こすだろう。移民排斥も低賃金労働力の不足に帰結し、インフレに結びつく。減税政策も同様の効果をもつ。バイデン政権下のインフレを非難して選挙に勝ったトランプだが、このままではインフレは避けられないように思われる。

 第三に、米国第一主義による国際システムの混乱だ。国際社会をリードしてきた米国がリード役を降りることになれば、様々な空白、停滞が生じる。「パリ協定」離脱は気候変動への取り組みに打撃を与える。デジタル課税協定も実現一歩手前で頓挫した。ウクライナ停戦交渉をめぐっては米国・欧州間に深い亀裂が生じた。国連総会の決議では、ロシアを非難する欧州等提案と非難を避けた米国提案が並列する形となり、亀裂が表面化した。G7、G20 の運営も混迷するだろう。 

◆世界覇権構造の変貌

 トランプ政権の米国第一主義には二重の意味が込められている。第一は狭義の国益優先であり、覇権国に求められる国際貢献は軽視される。第二に、軍事力・経済力では超大国として世界第1位の座を維持することだ。従って、その地位を脅かす中国の台頭は抑え込む意思が強烈に発動される。超大国の特権、軍事的・経済的威圧を駆使して、ディールという手法で米国の国益確保を図ることになる。

 覇権国に相応しい国際貢献を果たさず、自国本位で普遍的理念(人権、法の支配等)を提供できない米国は、国際社会における信認を低下させ、友好国の離反を招かざるをえない。米国は国際社会をリードする覇権国の地位から後退し、代わりに中国が台頭してくるだろう。しかし中国も超大国とはいえ、普遍的理念を供給して世界から信認を得る覇権国にはなりえない。とすれば、世界は超大国として対立する米中と、これに続くEU、ロシア、インド、その他グローバルサウスが並立する、覇権国不在の多極化世界に向かうことになるだろう。多極化世界では各国が自国中心主義に走り、軍備増強に傾いて国際社会が不安定化する危険性がある。国連を軸とした多国間協調・連携が何よりも重要になるだろう。

(POLITICAL ECONOMY, No.279、2025年3月1日)

トランプ政権の再登場で世界情勢はどうなるか

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公開日:2025年01月16日(木)11:42

2025年1月20日、第二次トランプ政権(トランプ2.0)が成立する。「米国第一主義」を掲げるトランプ政権の目玉政策は、関税引き上げ、移民排除、大型減税、エネルギー政策転換、規制緩和などだ。いずれも第二次政権誕生を支えた中間層・低所得層の利害関心を意識した政策だが、一時的な効果はあるとしても持続可能とは考えられず、いずれ米国経済を棄損し、世界経済に大きな混乱をもたらすかもしれない。以下では、長期的な覇権構造の変貌も視野に入れながら、トランプ2.0の行方を展望したい。

 

◆トランプ2.0の政策見通し

 1.関税引き上げ

トランプが第一次政権期に中国にかけた追加関税はバイデン政権期にも継続し、税率は20%程度に達している。これにさらに10%上乗せし、最大60%まで課税するという方針が表明されている。一方、3国間自由貿易協定によって市場統合したメキシコ、カナダからの輸入品に対しては、貿易赤字・「不法移民」・麻薬流入等を理由にして25%の関税をかけるという。その影響でカナダのトルドー首相は辞任に追い込まれた。その他の国からの輸入品にも10~20%の課税を提案している。これらの保護主義に基づく関税引き上げが実施されれば、対抗して報復関税がかけられ、世界貿易の縮小、世界経済への打撃をもたらす。米国は関税収入が増えて財政赤字に縮小効果を生む反面、輸入品価格が上昇してコストプッシュインフレを招き、消費の減少などを通じてGDP成長率は1%程度低下すると予測される。ただし、トランプは関税引き上げを2国間取引の手段とみており、そのまま実施されるとは限らない。どの程度実行するか、先行きは不透明だ。

 2.移民排除

トランプは大統領就任初日に国境を閉鎖し、数百万人と見積もられる「不法移民」の流入をストップさせると主張している。そのうえで国境の壁を建設して非正規の移民を完全に遮断し、並行してすでに流入している約1100万人と推計される「不法移民」を強制送還するとの方針だ。しかし、大規模な強制送還はそもそも実施困難なうえ、すでに農業、サービス業などの低賃金労働に従事している人々を排除した場合、労働力不足から賃金上昇が起こり、インフレをもたらすことになる。

 3.大型減税

トランプが第一次政権期に実施した所得税減税は2025年に期限切れになる。これを恒久的に延長するとともに、すでに35%から21%へと引き下げている法人税率をさらに15%まで下げるのが新しい減税政策だ。これによって米国経済は活性化するだろうが、財政赤字の拡大は避けられず、連邦政府債務残高の対GDP比は2024年の99%が2035年には143%に達すると試算されている。基軸通貨ドルの信認を低下させ、持続可能な政策とは考えられない。

4.エネルギー政策転換

バイデン政権は脱炭素政策を展開してきたが、トランプはこれを180度転換、「石油を掘りまくる」と叫び、パリ協定から再び離脱すると予想される。実施中の温暖化ガス排出規制、EV推進策は廃止され、石油・ガス産業に減税などの優遇措置がとられ、増産効果によってエネルギー価格は引き下げられるだろう。これも米国経済を勢いづかせる政策だが、世界的な脱炭素潮流に逆行する施策が果たして持続可能なのか疑問符がつく。

5.規制緩和

イーロン・マスク担当で新設される政府効率化省(DOGE)による規制改革(規制削減、行政改革、予算圧縮)もトランプ2.0の目玉だ。公務員を大幅に整理し、連邦政府予算を3割減少させるきわめて野心的な計画だが、社会保障費の削減を不可避とするものであり、果たして実現可能だろうか。実行した場合、かなりの混乱が起こるのではないか。この他、連邦取引委員会(FTC)、連邦通信委員会(FCC)、連邦準備制度理事会(FRB)等の独立規制機関の大統領権限下への取り込み、テック企業規制(反トラスト法)の緩和、AI開発促進、金融規制緩和など、全般的に規制改革を進める方針のようだ。テスラの自動運転車の普及はその象徴となろう。

総じてトランプ2.0の政策は、対外的にはモノとヒトの自由な移動を制約する保護主義(反自由主義)、国内的には減税・反脱炭素・規制緩和の新自由主義であり、相反する方向性を米国第一主義で統合するという矛盾をはらんだ体系だ。一時的には米国経済の一人勝ち、株高、ドル高をもたらしうるが、やがてはインフレ昂進と財政赤字拡大を引き起こすだろう。そうとすれば一部の政策は意外に早く放棄するかもしれない。2年後の中間選挙まで当初の政策が継続するか注目される。

 

◆米中関税合戦の継続

 トランプ2.0の政策には不確かな面があるが、米中経済戦争がさらに激化することは間違いあるまい。戦線は関税合戦とハイテク覇権争いの2領域で構成される。

関税合戦の経過を簡単にふり返っておこう。第1次トランプ政権は、対中貿易赤字の縮小を狙い、知的財産権侵害を理由に(1974年通商法301条)、中国からの輸入品に対して、2018年7月に第1弾、340億ドル相当の品目に税率を25%引き上げる制裁関税をかけた。続いて8月に第2弾160億ドル、25%、9月に第3弾2000億ドル、10%(2019年5月から25%に引き上げ)へと拡大した。さらに第4弾3000億ドル、10~25%が準備され、ほぼすべての品目が追加関税の対象となった。2019年9月には第4弾の一部が発動され(税率15%)、輸入品全体の7割をカバーするほどの規模に達した。

この間、中国側からも対米輸入品に対して相応の報復関税が発動され、関税合戦が激化する一方、政府間の通商交渉が断続的に行われ、2019年12月、経済・貿易協定の合意に至った。内容は、中国が知的財産保護など米国の要求を一定程度受入れ、合わせて対米輸入の拡大によって貿易不均衡を是正するというもので、第4弾の残りの発動が回避され、実施部分については税率が15%から7.5%に下げられた。しかし、第1~3弾の2500億ドル、25%追加関税はそのままとされた。

2021年1月のバイデン政権成立後も、関税引き上げ措置は継続された。一方、人権問題を重視したバイデン政権は、2021年12月にウイグル強制労働防止法を成立させ、ウイグル産とみなされる物品の輸入差し止め措置を講じた(2022年6月施行)。対象品目はアパレル製品、農産物、化学品など広範な分野に及んだ。さらに2024年に入ると、中国が生産量を増やして価格が低下したEV、太陽光パネルなどの輸入が増加すると見込まれたため、EVには100%、太陽光パネル、旧世代の汎用半導体には50%という高率の関税を課すと決定した。これは大統領選挙対策の意味もあると思われ、中国側は強く反発した。

関税合戦は米中間貿易にどのような影響を与えたのか。米国の対中輸入総額は2000年以降増加基調で推移し、2018年5397億ドルがピークとなり、2019年以降、一時的な増加を挟みながら減少基調に転じ、2023年には4269億ドルへと低下した。米国の輸入全体に占める中国の割合は2017年21.6%から2023年13.9%へと下落し、国別順位は2023年にメキシコに首位の座を明け渡した。米国の対中貿易赤字は2018年の4196億ドルから2023年の2791億ドルへと縮小を記録した。

ただし米国の貿易赤字総額が減少したわけではなく、2018年の8748億ドルが2023年には1兆0621億ドルへと増加している。貿易赤字は、メキシコ、カナダ、EU、それにベトナムをはじめとする東南アジア諸国など、多くの国との間で拡大した。そのなかには、中国からの輸入の迂回経路となった国もあると思われる。たとえばベトナムは中国で操業していた外資系企業および中国企業の移転先として注目されるが、米国の対ベトナム貿易赤字は2016年に比べて2023年には3.3倍に拡大し、1000億ドルを突破している。

高関税による中国からの輸入の抑制、国内製造業の発展を意図した米国の試みは成功したとはいえない。むしろ中国の報復関税によって輸出産業の雇用が減少したという事実が報告されている。

第2期トランプ政権は、中国からの輸入品に対してさらに関税を引き上げようとしている。選挙期間中、一律60%の追加課税を表明したが、仮にこれが実施された場合、米国の消費者物価は1.4~5.1%上昇すると試算されている。おそらく、通商交渉の取引材料としてこうした関税引き上げ策を使っていくのだろう。

 

◆米中ハイテク覇権抗争の拡大

 先端技術をめぐる覇権争いは、軍事覇権と結びつく意味をもつだけに、米国は中国に対する攻勢を強めている。中国のハイテク企業を標的に、調達(輸入)、供給(輸出)、技術供与、投資等の様々な局面で規制を強化し、技術開発を押さえ込もうとしてきた。有力な手法は商務省の輸出禁止措置対象企業リスト(エンティティ―リスト:EL)への登録だ。2016年、まず国営通信機器企業ZTEをリストに載せ、トランプ政権期には通信機器大手ファーウエイと多数の関連企業を追加した。ファーウエイについては第三国からの再輸出も禁止した。また国防総省による中国軍事企業の指定も規制の手法だ。ファーウエイに加えて最近ではネットサービスのテンセント、車載電池のCATLが中国軍と関係する軍事企業に指定され、米国企業との取引が制約されるようになった。

中国企業は先端半導体の調達を輸入に依存していたため、この規制を受けて半導体の国産化に力を注ぐが、今度は半導体製造装置の供給を規制し、有力企業を擁するオランダ、日本にも同調を強要した。バイデン政権下では、輸出規制に加えて投資規制を強化し、先端半導体だけでなく量子コンピューター、人工知能(AI)に関わる対中投資を禁止する措置を準備した。また、情報操作を理由として、人気のある動画投稿アプリ「TikTok」(中国のバイトダンスが運営)の禁止にも踏み込んだ。

こうした米国の攻勢に対して、中国も対抗して対米輸出規制、投資規制、EL作成などに取り組んだ。たとえば米国半導体大手マイクロンを標的に同社製品の調達を停止した。さらに、半導体材料の重要鉱物であるガリウム、ゲルマニウム、アンチモニー、黒鉛などの輸出規制をとった。また、米国側の規制による技術開発の困難に対しては、第三国を介した迂回調達ルートの開拓、外国人技術者の好待遇での受入れなど様々な手段で巻き返しを図った。

その結果、ファーウエイを先頭にして半導体関係のハイテク企業群が成長しつつある。ファーウエイは、先端半導体の調達を阻まれたにもかかわらず、5G対応のスマホの製造に成功し、エヌビディアが独占しているAI半導体についても独自開発も進めている。半導体製造装置やシリコンウエハーを製造する企業も着々と力をつけてきている。いずれは川上から川下までの半導体サプライチェーンを国内で完成させるだろう。またファーウエイは急成長する中国EVを支える有力なサプライヤーとなった。米国による規制がかえって中国のイノベーションを加速する意味をもったといえる。

 

◆グローバル覇権構造の変容

 トランプ2.0は「米中新冷戦」を激化させ、世界を分断していくのだろうか。軍事面ではそうした傾向が生じるとしても、経済を含めた総体としては2大陣営に分かれたブロック化は起こらないのではないか。

 第一に、米国は覇権国(世界のリーダー)としてふるまう役割を放棄し、求心力が低下するだろう。米国第一主義の立場から、軍事力・経済力(GDP規模、基軸通貨ドル)世界1位という超大国の地位は維持するとしても、陣営づくりへの関心は弱まる方向だ。欧州でもアジア太平洋地域でも、軍事負担の肩代わりを強要し、G7(OECD)諸国との距離が開き、結束力が下がる可能性がある。トランプは温暖化防止のパリ協定離脱だけでなく、WHO、WTO、ユネスコ、国連人権理事会などの国際機構からの脱退をほのめかしており、脱退までいかなくとも非協力的になるだろう。

 中国との対抗については、軍事面でAUKUS(米英豪)、米日韓、米日比等の連携枠組みは一応維持するだろうが、経済面では、オバマが注力したTPPから離脱したように、バイデンが創設したIPEF(インド太平洋経済枠組み)からは離脱するのではないか。中国の一帯一路構想に対抗して企画された「インド・中東・欧州経済回廊」構想についても、米国がどこまで関与するかわからない。

 第二に、中国の陣営づくりも見通しは不確定だ。中国は人口減少期に入り、経済成長率は低下しつつあり、GDPが米国を抜く見通しは低くなった。そうしたなかで習近平政権は上海協力機構、一帯一路構想などを通じて、地域覇権国としての地位を高めてきた。地域安全保障を目的とする上海協力機構は正規加盟国が発足時の6カ国から10カ国へと拡大し、オブザーバーなどの参加国は20カ国を超え、中央アジア、中東、東南アジアへとネットワークを拡大した。一帯一路構想を通じた経済圏拡大は、国内不況の長期化に規定されて一時ほどの勢いはないが、中国の経済的影響力はユーラシアからアフリカ、ラテンアメリカに広く及んでいる。貿易金融通貨として人民元はユーロを上回る地位に達した。

 さらに中国は非米連合組織BRICS拡大にも注力してきた。BRICS参加国は当初の中国、ロシア、インド、ブラジルの4カ国から10カ国へと増加し、2024年10月にロシアで開催されたBRICSサミット参加国は36カ国へと拡大した。BRICSはドルに依存しない決済システム、共通通貨、OPECのような穀物取引機構等の創出を追求しており、米国の覇権構造に対抗する性格をもっている。

しかし、上海協力機構やBRICSに集まった諸国の多くは、必ずしも米国(西側)陣営に対抗して中国(およびロシア)の陣営に加わったとはいえない。たとえば、インドは上海協力機構とBRICSの正式加盟国だが、同時にQUAD(米日豪印)という米国主導の枠組みにも加わっている。またインドネシアはBRICS入りの一方、OECD加盟を目指している。ASEANや中東諸国は米国と中国の2大陣営の中間に位置し、国力増強の観点から対外関係のバランスをとっていると考えられる。

BRICSの拡大はグローバルサウスの台頭という意味をもっている。グローバルサウスは、西側先進国に対抗するという観点から中国と歩調を合わせることはあるとしても、第三勢力として独自の存在感を発揮し、多極化時代への道を拓いていくだろう。多極化時代はイアン・ブレマーのいう「Gゼロ」、つまりリーダー不在の世界だが、国際社会が分断され、混迷を深めるとは限らない。トランプ2.0は保護主義を拡散し、世界の分断を加速する恐れがあるが、それに対抗して国際社会が結束を強める可能性も否定できない。グローバルサウスが国連に結集し、欧州諸国を糾合してグローバルガバナンスを創出する方向が考えられる。そこには政府だけでなくグローバルな市民社会運動の参加も不可欠の要素となる。グローバル課題である気候危機や国際課税(国際租税協力枠組み条約)への取り組みが、その可能性を切り拓くのではないだろうか。

 

時代は富裕層課税を求めている

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公開日:2025年01月01日(水)14:46

衆議院選挙では国民民主党とれいわ新選組が躍進した。米国大統領選挙ではトランプ元大統領が圧勝した。共通するのは大規模減税の訴えであり、背景には中間層の両極分解、格差の拡大という問題がある。しかし、減税だけでは財政がもたない。格差を是正する増税策をセットで提起すべきだろう。格差是正の有力な手段は富裕層への課税強化ではないか。

 

◆富裕層の資産増加が続いている

 野村総合研究所の調査(2023年3月1日公表)によれば、2021年の日本の超富裕層(純金融資産5億円以上)は、9万世帯、資産総額105兆円にのぼっている。2011年には5万世帯、45兆円だったので、10年間に世帯数は1.8倍、資産総額は2.3倍に増加したことになる。富裕層(1億円以上5億円未満)は同じ期間に76万世帯から139.5万世帯へ、資産は144兆円から259兆円へとそれぞれ1.8倍の増加となった。一方、資産3000万円未満のマス層は、4048万世帯から4213万世帯へ、資産は500兆円から678兆円へと増加幅はわずかにとどまり、相対的にみて格差は広がったと認められる。

  世界的にみると、超富裕層による富の独占はさらに著しい。毎年1月、ダボス会議に合わせてOXFAMが調査を発表しているが、2023年1月の発表では、世界の富裕層1%が富の43%を保有、2024年1月の発表では、過去10年間で世界の超富裕層1%が増大した富のうち半分を獲得したという。

 こうした富裕層への富の集中は、グローバル化とデジタル化の進行のなかで、資本所得が労働所得を上回る状態が続いているためだろう。1980年代以降続いている新自由主義による法人税切下げ、所得税フラット化もこれを促進した。

 日本では、アベノミクスによる異次元の金融緩和が格差の拡大をもたらした。緩和マネーは株式市場に向かい、日経平均は4倍ほどに上昇した。日銀のETF大量買入れ、海外ファンドの参入がこの趨勢を支えた。円安による大企業の利益増大もまた株価上昇を引き起こし、株式を大量に保有する富裕層の資産は増大した。しかし、この間、実質賃金は横這いを続け、GDP成長率は低水準にとどまった。株価上昇は経済成長と結びつかず、資本所得と労働所得の格差拡大が続いた。

 

◆税制の格差是正機能が低下している

格差を是正するうえで税制の役割は大きいはずだが、有効に機能していない。所得税は1980年代には税率が15段階に区分され、最高税率は70%(地方税を加えると88%)に達していた。しかし、バブル崩壊後の1990年代末には4段階、最高税率37%(同50%)へと下がった。現在は若干修正され、7段階、最高税率45%(同55%)へと上がったが、累進性は弱まっているといえる。

一方、法人税の基本税率は1980年代の45%が2010年代には23%へと半減した。地方税を加えると29%ほどとなる。これは世界的な法人税引下げ競争の影響を受けたもので、租税特別措置による減税が加わり、実効税率はさらに低下する。このような法人税減税は企業の純利益を増やし、手厚い配当と内部留保の蓄積をもたらし、株価を上昇させた。これも富裕層に有利に作用したことはいうまでもない。

所得税、法人税の減税によって減少した税収を埋めたのが消費税だ。過去40年ほどの国の税収構成の推移をみると、消費税導入前の1980年代後半は所得税37%、法人税35%程度だったのが、2020年代には所得税31%、法人税21%、消費税32%となっており、逆進性の強い消費税の割合が増えて格差拡大を強めていると考えられる。

さらに問題なのは、金融所得(利子、配当、株式譲渡益等)に対する課税で源泉分離方式がとられ、一律15%(地方税を加えて20%)と低率であるため、金融所得が多い富裕層は所得階層が上がれば上がるほど所得税負担率が下がる傾向にあることだ。所得額が300万円以下の階層の所得税負担率は2%台で、所得が増えるとともに負担割合は増加し、だいたい1億円で27%台の水準に達する。ところがそれを超えると負担率は下がっていき、100億円の階層では17%まで低下する。これを「1億円の壁」と呼んでいるが、負担能力のある階層の負担が軽減されている不公平税制の典型的事例といえる。

 

◆金融所得課税を強化すべきだ

 金融所得課税をめぐる不公平感には自民党政府も問題を感じているようで、かつて岸田首相は分配重視の「新しい資本主義」構想を提起し、その目玉として金融所得課税を強化しようとした。しかし、これに対して株式市場が敏感に反応し、株価が急落する「岸田ショック」に見舞われると、早々にこの政策を棚上げしてしまった。石破首相も同様に金融所得課税を提起したが、またしても株価が下落する「石破ショック」に遭遇し、当面の政策課題から外してしまったようだ。

 この不公平税制を解決するには、金融所得を源泉分離課税ではなく総合課税の対象に統合することが望ましい。とはいえ現状では、多数の金融機関口座に分散している情報を集約することは容易でない。マイナンバーを銀行口座に紐づけすれば情報を統合できるが、それには抵抗が強く、実現には相当の政治エネルギーを要するだろう。

 当面可能なのは、地方税を含めて20%という税率を引き上げることだ。G7主要国をみると、ドイツは26.4%、フランスは30%、米国は段階税率で最高34.8%、イギリスは配当課税が段階税率で最高39.4%など、いずれも日本より高い税率だ。日本でも経済同友会の新浪代表幹事などは25%を提唱している。政府は「資産運用立国」の方針に反するとして消極的だが、富裕層にあたらない新NISA利用者は非課税制度の枠内にある限り影響はない。

 ただし、政府が何もしないわけではなかった。2023年度税制改正では、新NISA非課税枠の大幅拡充と同時に、非常に限定的な「富裕層ミニマム税」を導入した。この制度は、年間所得3.3億円以上の富裕層を対象にして、租税負担率が22.5%に満たない場合には22.5%になるまで差額を追加徴収する措置であり、実際には所得が30億円を超える超富裕層に適用される見込みだ。きわめて例外的な措置であり、対象者はわずか200~300人、税収は550億円程度と予測されている。いかにもアリバイ作りのような富裕層課税であり、今後は対象者を広げ、22.5%という最低税率を引き上げていく必要があるだろう。

  

◆富裕税への挑戦

 富裕層課税の本命は所得への課税ではなく資産への課税だ。相続税・贈与税の最高税率引上げも一案だが、継続的に徴収できるわけではない。富裕層の資産に着目して毎年恒常的に課税する富裕税案は共産党が提示している。対象者は純資産5億円超の富裕層として、5億円を超える資産に0.5~3%の累進税率で毎年課税する案だ。税収は1兆円以上と見込んでいる。

 視野を世界に広げれば、国際協調によって世界の超富裕層の資産に課税するグローバル富裕税の構想が提起されている。2024年G20議長国のブラジルは、財務相会合の議題に超富裕層課税を取り上げるべく、フランスのガブリエル・ズックマンに報告書作成を委託した。ズックマンはトマ・ピケティの指導を受けた経済学者であり、長年にわたりタックスヘイブンに隠された富の所在を追究し、世界規模の金融資産台帳を作成して課税する方法を提案してきた(『失われた国家の富』NTT出版、2015年、参照)。

 2024年6月に公表された報告書はまず、世界の超富裕層(資産10億ドル超)の現状を分析し、巧妙な課税軽減策が駆使されているために効果的な課税ができず、実効税率が逆進的になっている事実を指摘する。そのうえで、世界共通基準として保有資産に2%課税すれば、年間2000~2500億ドルの税収をあげることができるとする。実施上の問題については、超富裕層がタックスヘイブンに資産を隠すとしても、課税権力のグローバルな連携が進んでおり、金融口座情報の自動交換ネットワークなどを使って課税逃れは防止できる、また共通基準に参加しない国に移住するとしても、原居住国が課税権を拡張して対応できるとして、制度の有効性を主張している。

 年間2000~2500億ドルは世界のODA総額に匹敵する規模だ。対象を資産1億ドル超の富裕層約6万人に広げ、税率を3%に引き上げれば、税収は6000億ドルへと増加する。実現すればSDGs達成に大きく寄与するだろう。

 2024年7月のG20財務大臣会合における「国際租税協力に関するリオデジャネイロ閣僚宣言」には超富裕層課税の課題が盛り込まれ、10月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議の声明にも継承された。また、進展しつつある「国際租税協力に関する国連枠組み条約」の準備プロセスでは、今後の交渉項目の一つとして超富裕層課税が提示され、COP28を契機に発足したフランス・バルバドス・ブラジルが主導する「グローバル連帯税タスクフォース」でも検討課題の一つに取り上げられている。

 このように格差是正のための富裕層課税は、国内的にも国際的にも関心を集めつつある。実現に至るまでにはかなりの時間がかかるかもしれないが、時代がそれを求めていることは確かだろう。                    (『言論空間』2025年冬号)

変革期に入った国際課税制度  ―国連の国際租税協力枠組条約の進展―

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公開日:2024年11月02日(土)15:32

 2023年11月、国連総会(第二委員会)において「国連における包摂的かつ効果的な国際租税協力の促進」と題するナイジェリア提案が、賛成125、反対48、棄権9で採択された。賛成したのはアフリカ・アジア・中南米の途上国(グローバルサウス)、反対したのは日本を含む先進国(OECD諸国)だ。国際課税制度はこれまでOECDがルール形成を主導してきたが、ナイジェリア提案は「国際租税協力枠組条約」を創設し、国連のもとに国際課税ルールを形成することを意図している。この国連決議は国際課税制度構築の主導権の歴史的転換を意味するかもしれない。

 以下では、国際課税制度の歴史的変遷をたどり、今回の決議の背景と意義を検討したうえで、今後の見通しを述べていきたい。

 

◆租税条約に関する二つのモデル

 「国際租税協力枠組条約」は、気候変動枠組条約の国際租税版であり、目標・原則などの大枠を取極め、具体的な内容は政府間交渉による議定書作成を通じて決定するという二段構えの条約形式だ。そこでまず、国際課税問題を扱う基本形態である租税条約の歴史を簡単にふりかえっておこう。

 経済活動の国境を越えた展開、先進国から途上国への資本輸出の増大とともに、多国籍企業への課税が1国の範囲を超える問題が生じる。途上国への事業投資の利益について、企業本社所在国(先進国)と投資先(途上国)がそれぞれ課税するという「二重課税問題」が発生する。この問題を調整するため、2国間の租税条約が締結されることになる。

 20世紀前半、国際連盟の時代に租税条約のモデルが提示された。当初は多国間条約モデルが模索されたが成立せず、1928年に2国間租税条約のマドリード・モデルが成立した。しかし、これは先進国優位のモデルであったため、途上国は対抗して1943年にメキシコ・モデルを成立させた。

このように国際課税ルールをめぐる対抗は早くも国際連盟のなかで生じていたが、第二次大戦後、先進国はOECD、途上国は国連を基盤としながら、一面では連携しつつ他面では対抗する状態に入っていく。主導権を握ったのはOECDだった。1963年、OECD財政委員会は「所得及び資本に関するモデル租税条約」を提示した。これに対して途上国は1970年代に入るとパワーを増大させ、1974年国連総会での「新国際経済秩序」宣言、その流れで1980年国連租税条約モデルの公表に至る。

冷戦終結後、経済(金融)グローバル化の進展とともに、多国籍企業や富裕層のタックスヘイブンを利用した租税逃れが活発になっていく。各国の税制の違いを利用して課税の抜け穴を見つけ出し、どこからも課税されない「二重非課税問題」の発生だ。OECD租税委員会は1998年、「有害な租税競争」と題する報告を作成し、悪質なタックスヘイブンのリストを公表して租税逃れ対策を強化していく。

それに加えてOECDは、途上国を巻き込んで税務行政の国際的ネットワーク構築に取り組んだ。第一に、1988年成立の税務行政執行共助条約であり、各国税務当局が連携して国境を越える納税者に関する税務情報の共有、文書送達、徴税代行などを行う仕組みを整えていった。第二に、「租税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム」の形成であり、2006年発足以降拡大を続け、いまや160カ国・地域の参加のもと、税務情報交換制度の強化、各国別審査や支援などに取り組んでいる。第三に、金融口座情報の自動交換制度であり、各国税務当局間で共通の報告基準に基づいて非居住者の口座情報を共有できるシステムが2014年G20サミットで承認された。

こうした課税権力の国境を越えた連携は、国際課税制度の構造的転換に向けた基盤づくりの意義をもつといえる。

 

◆OECDのBEPSプロジェクトの展開

 21世紀に入り、デジタル技術を駆使したGAFAなどのグローバル企業が急成長していく。インターネットを通じて国境を超えた情報サービスを提供し、高収益をあげていく新産業に対して、従来の製造業をベースにした国際課税制度は有効な対応ができず、各国の税務当局は連携して対策を講じる必要に迫られていく。

特に2008年のリーマンショック、それに続くユーロ危機のなかで、巨額の利益を計上しながら巧妙な課税逃れスキームを構築し、納税額がきわめて少ないグローバル企業に対する批判が強まっていく。税負担の不公平、格差の拡大、税収逸失額の増加を放置できなくなったOECD租税委員会は、国際課税制度の大がかりな見直し作業に着手する。それが2012年にスタートするBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトだ。OECDは先進国だけのグループであるため新興国・途上国を巻き込む必要があり、BEPSはOECDとG20の共同プロジェクトに格上げされ、約40カ国の参加のもと急ピッチで行動計画の策定が進展した。その結果、2015年には15項目の行動計画をまとめた最終報告書が公表され、G20サミットで承認された。

15項目の行動計画は、デジタル経済への対応(行動1)、租税回避を防止する国際的ルールの統一化・明確化(行動2~10、従来から存在する外国子会社合算税制・移転価格税制等の再定義)、多国籍企業情報の収集・開示・文書化(行動11~13)、相互協議・多国間条約(行動14~15)に大別される。このなかで注目されるのは、多国籍企業グループの経営実績(売上高、利益、従業員数、納税額等)の国別報告書作成だ。これは課税逃れの実態把握にとって重要な情報の提供という意義がある。

BEPS行動計画全体は比較的短期間にまとめられたが、肝心のデジタル経済への対応(行動1)は積み残しとなった。そこで2016年、デジタル企業への新たな課税制度を創出すべく、参加国・地域を約140に広げ、「BEPS包摂的枠組」(BEPS2.0)が開始された。OECD事務局は、各国の様々な提案を集約し、論点整理をしたうえで2本柱の新しい国際課税制度の提案を行った。

第1の柱はデジタルサービスを消費する市場国への一定の課税権の配分だ。従来のルールでは事業所・支店などの物理的拠点が存在しない国には課税権はないという原則だったが、デジタル経済の時代には拠点のない市場国も一定の課税権をもつとした。対象となる企業は、年間売上高200億ユーロ超かつ利益率10%超のグローバル企業(約100社)に限定し、通常の利益率とみなされる10%を超える超過利益について、その25%を売上高に応じて各市場国に課税権を配分した。

第2の柱は世界の法人税率を実質15%以上とするグローバル・ミニマム課税だ。対象は売上高7.5億ユーロ以上の多国籍企業(約1000社)で、仮に子会社が税率15%以下の軽課税国で納税したとしても、15%との差額は親会社から徴収することにし、タックスヘイブンの利用を無意味にする。これによって国際的な法人税切下げ競争に一定の歯止めをかける意義がある。

2本柱の提案は各国政府・関係団体の意見をふまえ、2021年10月に最終合意となった。それに続くプロセスをみると、第2の柱は実施に向けて動きつつあるが、第1の柱は米国議会の反対が強く、米国が不参加となれば成立しないことになる。多国間条約の締結予定期限は過ぎており、このままでは不成立に終わるかもしれない。

 

◆SDGsと国際課税の結合

 BEPS2.0は140カ国・地域に拡大した「包摂的枠組」だが、途上国は概して批判的だ。手続面では課題設定、意思決定がOECD主導で行われ、途上国が実質的に関与できない、実体面では途上国にメリットが少なく、ルールが複雑すぎて実施できないといった点だ。

それゆえ途上国は、国連によるより包括的な国際課税ルールの創出を目指すことになる。日本では国際課税問題といえばOECD主導のデジタル課税のことだと思われているようだが、国連を舞台とするルール作りの胎動が生じている点に注目すべきだろう。

起点はBEPS成立と同じ2015年だ。この年、国連で2030年に向けた17項目のSDGsが採択され、目標17は持続可能な開発に向けたグローバル・パートナーシップの活性化と設定された。そして目標17の1には、課税・徴税能力向上のための途上国への国際的支援が書き込まれた。

また、これに先立って、第3回国連開発資金会議がエチオピアで開催され、そこで打ち出された「アディスアベバ行動目標」のなかに、国際租税協力による課税・徴収能力の強化が盛り込まれている。ここに途上国が関心を寄せる開発資金と国際租税協力の結合を見ることができる。2016年には、国連・OECD・IMF・世界銀行が連携し、途上国の税制改革、税務能力向上を支援する「税の協力プラットフォーム」(PCT)が組織された。

一方、国連には経済社会理事会のもとに以前から国連租税委員会(租税協力専門家委員会)が設置されていたが、そのデジタル課税小委員会が2019年にBEPS2.0に対する意見書を提出した。そこでは、途上国への課税権配分、簡素な制度設計、執行能力への配慮などを要請している。

2020年には国連総会議長のもとにFACTI PANEL(SDGs達成のための、国際的資金の説明責任・透明性・公正性に関するハイレベル・パネル)が17人の委員によって組織された。このパネルは2021年に14項目の勧告を含む報告書を作成している。その勧告2には、多国間国連租税条約の締結、勧告14Bには、各種の租税協力機構の国連のもとへの統合という文言が書き込まれた。

このような動きをふまえ、特にアフリカ諸国は活発な活動を展開し、2022年12月、二つの国連総会決議に至る。一つは12月14日採択の「持続可能な開発促進のため、不正な資金の流れに対抗し、資産回収を強化する国際協力の促進」だ。「不正な資金の流れ」とは、不公正な貿易や資金貸借、脱税、密輸、汚職などの不正行為によって、本来途上国の開発に投じるべき資金が国外に流出しているという問題であり、かねて途上国が対策に悩んできた課題だ。

もう一つは12月30日採択の「国連における包摂的かつ効果的な国際租税協力の促進」だ。このナイジェリア提案は、途上国のルール形成への参加を実質的に保障、持続可能な開発のための資金確保、不正な資金の流れの抑止、価値創造地点での課税等を骨子とするものだった。具体的なプロセスとして、包摂的な政府間フォーラムによる国際租税協力の枠組創出、国連事務総長による選択肢を示した報告書の作成を提起している。

ナイジェリア提案に対して、ルール形成の主導権がOECDから国連に移ることを懸念したためか、米国は修正案を提出したものの失敗に終わった。

 

◆国際租税協力に関する枠組条約への道

 2022年末の国連総会決議に基づき、国連事務総長は「国連における包摂的かつ効果的な国際租税協力の促進」と題する報告書を作成し、2023年8月に公表した。報告書はまず、国際租税協力における国連とOECDの役割を実体面と手続面から比較検討し、OECDのBEPS2.0は途上国の参加のうえで問題があると指摘する。実体面では途上国の課題・能力などの状況に適合しない取組みであり、包摂性・実効性に問題があると述べる。手続面ではOECD非加盟国は課題設定や意思決定に実質的に参加できていないと批判する。一方、国連については包摂的かつ効果的な国際租税協力の促進が可能だと評価する。

 そのうえで、進め方について三つの選択肢を示している。第1は「多国間租税条約」の締結であり、法的拘束力のある標準的な多国間条約の成立を想定する。第2は「国際租税協力に関する枠組条約」の締結であり、国際租税協力の原則、ガバナンスなどの大枠について法的拘束力のある条約を成立させ、そのうえで具体的な内容は政府間交渉を通じた議定書採択をもって決定するという二段構えの構想だ。第三は「国際租税協力に関する枠組」の設定であり、主要な原則や取組みについて法的拘束力をもたない形で策定するという選択肢だ。いずれの場合も政府間特別委員会が草案を作成すると提案している。

 こうした2023年夏までのプロセスを経て、冒頭に記したように秋の国連総会の場で、事務総長報告書の第2の選択肢をベースにしたナイジェリア提案が採択された。これに対して先進国側は、すでに国際租税協力の機構はいくつも存在しているし、OECDのプロジェクトが進展しているので、新たな仕組みを作る必要はない、無駄な行為であるとして、英国が修正案を提出したが、賛成55、反対107、棄権16で否決された。なお日本はナイジェリア提案に反対、英国提案に賛成している。

 ナイジェリア提案では、枠組条約の付託事項の草案を策定する政府間特別委員会の設置を求めている。特別委員会委員は地域やジェンダーのバランスを考慮して20人以内で構成し、2024年8月までに各国政府・国際機関・市民社会組織等の意見をきいて草案を作成、9月の国連総会に提出するとした。

 2024年1月、特別委員会は設置され、4~5月、7~8月の2回の集中審議を経て8月16日に草案採択(賛成110、反対8、棄権44、日本は反対)に至った。この間、多数の意見が寄せられ、審議の様子はオンラインでライブ配信されるオープンな方式だったことも特筆されてよい。

 予定では2024年末に付託事項が総会で承認され、2025~27年に枠組条約本文が交渉・決定されることになる。また枠組条約の交渉と並行して、デジタルサービス税、グローバル富裕税等の議定書交渉が進められる可能性がある。

 このプロセスが順調に進むのか、OECD側の抵抗や非協力がどのようになるのか、予断を許さない。とはいえ、グローバルサウスの台頭により、先進国主導だった国際課税制度が変革期を迎えていることは間違いあるまい。     (季刊『言論空間』2024年秋号)

富裕層への課税強化は時代の要請だ

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公開日:2024年11月02日(土)15:24

衆議院選挙は自公政権の敗北に終わり、政治状況は流動的になった。政治資金問題がこの変化をもたらしたわけだが、日本が取り組むべき格差是正問題については、選挙戦を通じて焦点化されなかった。しかし、資産所得が労働所得を上回ることから生じる格差拡大は放置できない水準に達している。格差是正のための税制改革、富裕層への課税強化は重要な政策課題といわなければならない。

 

◆各政党は公約で何を提起したのか

 主な政党の税制改革政策は3グループに分けられる。第一は自民党と公明党であり、格差是正の税制改革は掲げられなかった。自民党は、岸田前首相、石破首相ともに金融所得課税に言及したものの、株価下落に直面すると簡単に棚上げするという経緯があり、今回の公約には「経済成長を阻害しない安定的な税収基盤の構築の観点から、税制の見直しを進めます」とだけ書き、どこをどう見直すのか何らの言及もなかった。公明党は税制改革そのものを取り上げていない。

 第二は維新の党と国民民主党であり、消費税・所得税減税を通じた消費喚起、経済成長を政策の基調としつつ、維新の党は金融所得の総合課税化、マイナンバーと銀行口座の紐付け、国民民主党は給付付き税額控除、マイナンバーと銀行口座の紐付けを提起した。

 第三は立憲民主党と共産党であり、ともに総合的な税制改革案を打ち出した。立憲民主党は格差是正を目指し、所得税の累進性強化、各種控除見直しによる所得再分配の強化、金融所得への超過累進税率の導入、将来の総合課税化、消費税の軽減税率廃止、給付付き税額控除の導入、相続税・贈与税の累進性強化を提案した。共産党は消費税の5%への引下げ、将来的な廃止、大企業の内部留保課税、株式配当の総合課税化、株式譲渡所得は高所得者には30%以上課税、所得税の累進性強化、相続税・贈与税の最高税率を50%から70%へ引上げなどを掲げた。さらに注目すべきは富裕税の創設であり、純資産5億円超の富裕層に対して、5億円を超過する部分に0.5~3%の累進税率で毎年課税し、およそ1兆円程度の税収を見積もっている。

 

◆日米の富裕層増税政策

 多くの党は消費税減税を訴えたが、富裕層増税などとセットで打ち出すべきものだろう。

あまり目立たないが、日本ではすでに2023年度税制改革で「ミニマム富裕税」が創設されている。これは、所得が3億3千万円を超える富裕層に対して、最低でも22.5%の課税を行うもので、金融所得が所得の大半を占める富裕層の税負担率が低下する「1億円の壁」問題を一定程度是正する措置といえる。対象者は少なく、税率引き上げはわずかであり、たいした増収効果も見込めないが、今後の格差是正策の端緒になりうるだろう。

一方、米国のバイデン政権は様々な富裕層増税政策を提起している。投資純利益が20万ドルを超える場合は通常の税率に3.8%追加、40万ドルを超える場合は5%追加する所得税増税、所得1000万ドル超の富裕層に対して超過分に5%、2500万ドル超に対しては8%の追加課税、純資産1億ドル超の富裕層に対して資産の含み益を含めて最低25%課税する富裕層ミニマム課税(含み益課税は資産課税ではなく、含み益が将来実現することを想定した所得税の前倒し課税)などが主なものだ(詳しくは、岡直樹「金融所得課税・富裕層課税の新たな展開」財務省『フィナンシャル・レビュー』2024年8月号参照)。

バイデン政権の様々な富裕層増税案は、増税論議を封印している日本とは対照的だ。目下のところ、提案に対する議会の抵抗が強く、修正あるいは不成立に終わっているが、富裕層課税が時代の要請であることを示している。

 

◆G20財務相会合におけるグローバル富裕税の提起

 ピケティの弟子にあたるガブリエル・ズックマンはかねてグローバル富裕税を提起していたが、2024年のG20議長国であるブラジル政府の委託を受けて、6月に超富裕層グローバルミニマム課税に関する報告書を公表した。それによれば、世界の10億ドル以上の資産をもつ超富裕層約3000人に対して、世界共通して実効税率が最低2%になるように富裕税を課税すれば、年間2000~2500億ドルの税収があげられるという。

これは現在の世界のODA総額に匹敵する規模であり、実現すればSDGs達成に大きく寄与するだろう。範囲を広げて、資産1億ドル超の富裕層約6万人に3%課税すれば税収は6000億ドルと推計される。富裕層は国外移住などで租税回避行動をとると想定されるが、課税権力のグローバル化が進展しているため、すでに実現しているグローバルミニマム法人税と同様、国際協調によって対応が可能であり、またすべての国が参加しなくても実施できると論じている。

この報告を受けて7月のG20財務相会合ではこの構想が議題に取り上げられた。また、国連租税協力枠組条約の創設プロセスでも、グローバル富裕税は早期議定書のテーマの一つにあげられており、今後の取組が注目される。

(Political Economy No.272, 2024年11月1日)

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