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バイデン政権の税制改革とグローバル・タックス

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公開日:2021年08月06日(金)12:41

2021年1月に成立した米国のバイデン政権は、格差是正に取り組むなかで抜本的な税制改革を提起し、同時に多国籍企業に対する新たな課税ルールの創出を主導しつつある。その意義と限界について検討してみたい。

◆バイデン税制改革は米国経済に何をもたらすか

 バイデン大統領は就任直前に1.9兆ドル規模(約200兆円)の「米国救済計画」を打ち出した。これはコロナによって打撃を受けた低中所得層の支援を目的としたもので、現金直接給付、失業保険給付期間の延長のほか、子育て世帯に対する税額控除を使った「子ども手当」の毎月支給など、ベーシックインカムに近い給付の実施を目指している。3月に、共和党が反対したため民主党単独で可決した。

続いて打ち出されたのが、中長期の「米国雇用計画」と「米国家族計画」である。「米国雇用計画」は8年間に2.3兆ドルを投じ、インフラ整備(高速道路、通信網、水道等)、産業強化(電気自動車、半導体、クリーンエネルギー等)、生活基盤向上(学校、保育施設、低所得者住宅等)を図るという。「米国家族計画」は10年間に1.8兆ドルを投入し、教育支援(幼児教育、コミュニティカレッジ、マイノリティ教育等)、育児・介護支援、家計支援(子育て世帯の税額控除)を進める構想となっている。

3つの計画を合わせると総額6兆ドル、日本のGDPを超えるほどの大きさになる。財源はどうするのか。「米国雇用計画」では、法人税の引き上げ(21%から28%へ)、多国籍企業の海外収益への課税強化などで10年間1.75兆ドル、15年間2.75兆ドルの税収を確保する目算だ。「米国家族計画」では、個人所得税の最高税率引き上げ(37%から39.6%へ)、キャピタルゲイン課税の引き上げ(20%から39.6%へ)のほか、税務当局による徴税強化などによって10年間1.5兆ドルを調達するという。

1930年代のニューディール期に匹敵する財政の大膨脹、大企業・富裕層に増税し、中低所得層に回す所得再分配政策、これはまさに1980年代のレーガン政権時代に始まった新自由主義、市場原理主義、「小さな政府」路線の180度転換であり、格差是正、「大きな政府」路線への回帰といえる。こうした転換は、米国社会の格差拡大が極限まで達していることの帰結にほかならない。

しかし、これらの計画はどこまで実現可能なのか。民主党左派の主張に近い増税政策に対して、共和党だけでなく民主党の一部議員も同意していない。「米国雇用計画」について、超党派の上院議員団は、8年間1.2兆ドルに圧縮、使途は道路等の旧来型のインフラ整備を主とし、財源には法人税増税をあてないといった妥協案を早くも作り上げた。

今後の見通しとして、おそらく大幅な増税は議会が認めず、財政赤字が膨らむことになるだろう。しかしそうなると、インフレの高進は避けられず、といってFRBが金融引締め、金利引上げに動けば金融危機を招きかねない。FRBの舵取りをめぐって米国経済は混迷を深めていくかもしれない。

 

◆なぜ国際課税ルールは革新されなければならないのか

バイデン政権による法人税引上げ政策は、多国籍企業に対する国境を超えた新たな課税ルールの実現を促すことになる。新たなルールへの道筋をふり返ってみよう。

戦前の国際連盟の時代から、国境を越えた事業活動に対する課税の問題は検討が重ねられてきた。そこでは、多国籍企業の本社所在国と海外子会社立地国の課税権の配分が焦点になり、二重課税の調整を図る2国間租税条約のモデルが作成された。第二次大戦後、多国籍企業の活動が活発になるにつれて、二重課税を回避しつつ課税権を確保する租税条約と国内租税法体系の整備が図られていった。国際的な議論の場としてはOECDと国連の二つがあったが、主導権は先進国クラブであるOECDが握っていた。

この当時の国際課税の原則は、製造業を想定して、独立企業原則(多国籍企業グループの子会社を独立した企業とみなす)と、PE原則(PE=物理的拠点の存在する国に課税権がある)が柱になっていた。ところが21世紀に入り、GAFAというグローバル・デジタル企業が登場すると、こうした原則では税収を確保できないことが明らかになっていく。GAFAはPEをもたずに世界中で売り上げを伸ばし、利益をあげていく。利益源となるのは無形資産(ビジネスモデル、ブランド、知的財産権)であり、これは開発した本社からタックスヘイブンの子会社に移転できるため、企業グループ内の取引を通じてタックスヘイブンに利益を集め、課税を回避できる。最近の調査によれば、世界の主要企業5万社の税負担率平均25.1%に対して、GAFAは15.4%と6割しか負担していない(「日本経済新聞」2021年5月9日)。

このような状況に対して、英国を拠点とする有力NGOのタックス・ジャスティス・ネットワークなどが問題を提起し、多国籍企業の課税逃れは年間5000億ドルという推計を発表した。対策として、多国籍企業グループの利益を合算したうえで各国に一定の方式で合算利益を配分し、それぞれ課税する方法(独立企業原則、PE原則の否定)、各国の法人税率の共通最低ラインの設定(タックスヘイブンの否定)などの提案を行った。

リーマンショック以後、問題を放置できなくなったOECDは2012年にG20と共同して46カ国の規模でBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2016年に15項目の行動計画を策定した。これによって多国籍企業の活動・納税実績の国別報告書作成が義務づけられるなどの成果が生まれたが、税逃れを十分に捕捉する実効性あるルール制定は残された課題となった。

そこでOECDとG20は139カ国・地域が集まる「拡張された枠組み」を創出し、多国籍企業課税の新ルールの形成を目指した。2018年には、①多国籍企業の総利益に対する課税権の国別配分、②法人税の国際最低税率の設定という2本柱からなる方策がまとめられた。ところが、米国のトランプ政権がこれに同意せず、新ルールの実現は暗礁に乗り上げた。そこにバイデン政権が登場し、国内の法人税増税政策に連動する形でOECD提案を米国主導で推進することになった。新ルールは、①法人税の共通最低税率を15%以上とする、②多国籍企業の超過利潤のうち20~30%について、売上のある各国に課税権を配分するというもので、2021年10月のG20サミットで最終合意に至る見通しである。

 

◆新しい国際課税ルールはどこまで評価できるか

新しい国際課税ルールは、これを求めてきた国際NGOや労働組合からはあまり評価されていない。

第一に、対象となる多国籍企業の範囲が狭く、税収増加が見込めない。現時点の案では、年間売上高200億ユーロ(約2.6兆円)以上、利益率10%以上の巨大高収益企業のみが対象になる。業種では銀行・保険、資源企業は除かれている。該当企業は世界全体で100社程度と想定されている。GAFAのうちアマゾンは利益率が10%未満であるため除外される。

第二に、課税範囲が限定され、利益配分方式が偏っている。新方式は利益全体に及ぶのでなく、利益率10%までの利益および10%を超える超過利益の70~80%は従来の課税方式のままであり、超過利益のうち20~30%にしか適用されない。この部分が売上高に応じて各国に配分され、各国の税率で課税される。すでに独自にデジタル・サービス税を導入して売上高に課税しているインドなどからみれば、減収になるかもしれない。

第三に、最低税率が低すぎて、タックスヘイブンを容認することになる。現時点では少なくとも15%以上という低いラインが設定されている。そのうえ実効税率を計算する分母にあたる利益の算出に抜け道が用意され、従来どおりの税負担でも計算上の税率が高くなり、最低法人税率が意味をもたないことになる。

第四に、総じて途上国の声が反映されていない。現在の案が実施された場合、途上国側に税収増加のメリットはあまり期待できない。先進国主導のルール作りでなく、国連のもとで途上国の発言力が保障された場でルールが策定されるべきだという批判がある。

このような問題点をあげて、いま拙速に決定してしまうと今後当分の間変更されないため、もう少し時間をかけて検討すべきだとして、早期妥結に反対する意見が提起されている。しかし、現在の改革機運を逃すならば、現状を変える機会が失われ、現行の欠陥ルールが生き続けることになる。今回の新ルールは様々な限界をもつとしても、法人税切下げ競争にブレーキをかけ、多国籍企業の課税回避を抑制する第一歩として意義をもつのではないか。

グローバルに活動する多国籍企業に対して、課税権力も主権国家の枠を超えてグローバル化していく必要がある。諸富徹『グローバル・タックス』(岩波新書)は、グローバル化の方式には、課税権力のネットワーク化と超国家機関の創出の2ルートがあると論じているが、その第1ルートが現実化しつつあると考えられる。グローバルな課題に対処するためには、1国主義を超える様々なグローバル・ガバナンスの道が開拓されなければならない。課税問題にとどまらず、多国籍企業規制(「ビジネスと人権」)、気候変動、感染症などの課題に連携して取り組んでいくことが求められている。(「テオリア」107号、2021年8月)

バイデン革命とグローバル・デジタル課税の新局面

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公開日:2021年06月02日(水)10:42

◆コロナ禍から「バイデン革命」へ

 コロナ禍を契機に、世界的に新自由主義、市場原理主義の見直しが進行している。WHOの提案するコロナワクチンの特許権停止は以前では考えられなかった策であるし、米英の増税政策への転換もそうである。特にバイデン政権は、1980年代のレーガン財政に始まった小さな政府路線を覆し、大きな政府路線に進もうとしている。

バイデン政権はまずコロナ禍対策の「米国救済計画」として、1人最大1400ドルの追加給付など総額1.9兆ドル散布を打ち出したが、これだけならばコロナ対策の大型財政出動として各国で実施されている。だが、バイデン政権はそれを超えてさらなる財政拡大を提起した。第一に、インフラ投資(道路・鉄道、EV設備、半導体供給網等)を柱とする2兆ドル超の「米国雇用計画」である。財源は法人税の増税であり、連邦法人税の21%から28%への引き上げ、多国籍企業の海外収益への増税などで15年間に2.5兆ドルの確保を目指すという。第二に、所得格差是正をねらった「米国家族計画」であり、10年間で財政出動1兆ドル(幼児教育、介護支援等)、子育て世帯減税8000億ドルを見込み、その財源として富裕層への増税(所得税、キャピタルゲイン増税等)10年間1.5兆ドルをあてるという。5月28日に公表された2022会計年度予算教書は歳出総額6兆ドルと戦後最大規模となった。

この「バイデン革命」、バイデノミクスともいわれる野心的な提案には議会、大企業、富裕層の抵抗が予想され、その通りに実現するものではないだろう。実際、法人税の28%への増税は25%に削減する動きも出ている。また、インフレ、金利上昇による混乱の懸念も指摘されている。とはいえ、減税、小さな政府路線が格差を拡大してきた現状を転換させる意義は大きい。加えて、法人税増税はOECDが提起している多国籍企業課税構想を前進させる画期的な意義をもっている。

 

◆OECDの多国籍企業課税構想の進展

 課税は1国主義が原則であるため、国外に事業展開する多国籍企業への課税をめぐっては長い歴史がある。20世紀には本社立地国と海外子会社立地国との間で二重課税問題が生じたため、これを解決する2国間租税条約が締結された。21世紀になると、経済のグローバル化、デジタル化によって、タックスヘイブンを利用した多国籍企業の課税逃れ、二重非課税問題がクローズアップされた。20世紀型の製造業中心の課税モデルでは、無形資産が価値を生むGAFAなどの新興デジタル企業の巧妙な利益移転作戦に対応できなくなったためである。

 2000年代初頭には、タックス・ジャスティス・ネットワークなどのNGOが問題を提起し、多国籍企業の課税逃れは年間5000億ドルに及ぶという推計を発表した。対策として、多国籍企業の利益合算課税(独立企業原則の否定)、法人税の最低税率の設定などのアイディアが早くも提出されていく。

2008年のリーマンショック以後、各国政府も問題の重要性を認め、本格的に取り組むようになった。ここで中心的役割を担ったのはOECD租税委員会である。2011年、財務省国際租税課長であった浅川雅嗣氏が租税委員会議長になり、その幹部会(ビューロー)で米国の委員が二重非課税を許してはならないと問題提起したことが発端であった(浅川雅嗣『通貨・租税外交』日本経済新聞出版、2020年、191頁)。OECD租税委員会は2012年に「税源浸食と利益移転」(BEPS)プロジェクトをG20と共同で46カ国の規模で開始し、2015年に15項目の行動計画を作成した。このなかには、多国籍企業に税務当局への詳細な経営情報の提出を義務づけるといった画期的な内容が含まれている。

 

◆巨大デジタル企業への課税

2016年以降、BEPS行動計画で積み残されたデジタル課税問題についてBEPS包摂的枠組み会合(IF)が組織され、参加国は140カ国・地域へと拡張した。この取り組みのなかで、巨大デジタル企業への課税方式として、利用者の企業利益への貢献度に応じて各国で課税する英国案、収益を生む無形資産が作られた国で課税する米国案、売上高・資産・従業員数などに応じて各国で課税するインド案の3案が提起され、2019年10月には米国案をベースにして、連結売上高7.5億ユーロ以上のグローバル企業を対象にして、3段階で課税する方式(1.通常の利益率10%を超過する無形資産による利益を抽出、2.その利益を各国の売上高に応じて分割、3.分割された利益に対して各国で課税)にまとめられた。また、それに合わせて、タックスヘイブン対策として、各国共通の法人税最低税率を設定する案も提起された。

これらの案が2020年には正式に140カ国の間で合意されるはずであったが、2020年1月、米国が現行課税方式と新方式を企業が選択できるとする提案を持ち出し、合意は遠のくことになった。これはトランプ政権の米国第一主義を反映した提案だが、この結果各国がばらばらにデジタル課税を導入する動きが強まっていった。

こうして2011年以来のOECD租税委員会の取組みは中断しかけたが、バイデン政権の登場により、米国国内の法人税引上げに合わせて、国際最低税率の設定、グローバル企業への新課税方式が復活することになった。米国は最低税率を21%とする案を示したが、アイルランドなど低税率国の反発に配慮して15%へと下げるもようである。グローバル企業への課税では、売上高100億ドル以上、利益率15~20%以上などの基準で世界100社程度を想定した提案となっている。

この提案に対して、最低税率は15%では低すぎる、対象企業が100社では少なすぎるなどの批判が寄せられている。2021年中の合意に向けて各国政府・NGOの間で折衝が進行するだろう。

 

◆グローバル税制への第一歩

 GAFAの課税逃れは巨額である。世界の主要企業5万社の平均税負担率25.1%と比べて、15.4%と6割しか負担していない(日経新聞2021年5月9日)。米国をはじめ各国が新方式に取り組むのは、グローバル企業の課税逃れへの対策を確立し、増税政策を全体として推進していくためだろう。

 米国の新提案は不十分だという批判もあるが、長期の視点でみれば、新方式は国際法人税の課税原則の大転換を意味している。もちろん、旧方式は存続しており、新方式はごく一部に導入されるにすぎないが、少なくともグローバル企業への課税が1国主義から多国間主義へと転換することは、グローバル税制への一歩前進を意味する。

 企業活動のグローバル化に対応して、課税権力もグローバル化する必要がある。その方式には、課税権力のネットワーク化と超国家機関の創出の2ルートがあるといわれるが(諸富徹『グローバル・タックス』岩波新書、2020年)、その第1ルートが現実化しつつあると考えられる。第2ルートについては、EUが近い将来財政同盟をつくるとしても、それは国民国家の拡大であって超国家機関とはいえない。第2ルートは第1ルートが実績を積み上げた後に、いずれ姿を現すことになるだろう。

(POLITICAL ECONOMY, No.190, 2021年6月1日に加筆)

香港の悲劇に便乗する東京国際金融都市構想

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公開日:2021年01月16日(土)08:54
  • 近視眼的な税制改正大綱

12月10日に2021年度与党税制改正大綱が公表され、12月21日に閣議決定となった。コロナによって緊急に財政資金をばらまいている中での税制改正であり、将来の財政再建をどう展望するのか、そのための税制体系をどのように築いていくのか、その方向性が示されるべきであったが、実際には景気対策的な細々とした減税措置、それに脱炭素化、デジタル化を誘導する企業優遇税制が大半であり、減税色に染め上げられた、選挙を意識した近視眼な内容に終始していた。新型コロナなどの感染症には国際社会が協働して取り組むべきであり、その財源として国境を越えた活動に課税する国際連帯税を導入する好機のはずだが、そうしたことを検討した形跡はない。

その中で目を引いたのが国際金融都市に向けた税制上の措置である。海外から高度金融人材を受け入れるためとして、国外財産を相続税からはずす特別措置、海外の資産運用会社を招致するためとして法人税を優遇する措置など、現行の税体系の例外とする規定が、法人税、相続税、所得税の各項目に盛り込まれた。

これらは12月8日に閣議決定された「総合経済対策」のなかの「世界に開かれた国際金融センターの実現」という政策課題に対応している。そこでは、日本国内に蓄積されている1900兆円の個人資産に着目し、これを運用する資産運用業者と専門人材を呼び込み、金融資本市場の拡充を図ることが狙いとされている。

 

  • 国際金融センター構想は実現可能か

1985年の大蔵省外国為替等審議会の答申「円の国際化について」では、日本の経済大国化、都市銀行の世界ランキング上昇を背景に、円をドルに続く国際通貨に押上げ(当時、ユーロは存在しなかった)、東京をロンドン、ニューヨークと並ぶ国際金融センターに発展させる構想が描かれていた。しかし、バブル崩壊を契機とする低成長時代に東京は、シンガポール、香港に差をつけられてしまう。円の国際化、東京センター構想はその後何回も検討されたものの、目立った成果はあがらなかった。

最近の動きとしては、2017年11月に東京都が公表した「「国際金融都市・東京」構想」があげられる。この報告書では、「今回がラストチャンスとの危機感を持って、・・・必ずや具体的な「行動」に結び付けていかなければならない」と強い決意を表明している。報告書のポイントは、海外から高度専門人材、資産運用業者を受け入れて東京金融市場を活性化させる、そのための税制、手続、生活環境等を整備するというものである。政府の「総合経済対策」の狙いを先取りしている(政府が東京都の構想を引き取った)ものといえる。

この構想の可能性を考えるために、外国資本の日本への進出実績をみておきたい。2019年の外国資本の対日直接投資残高は2225億ドル、世界で28番目である。香港は世界第3位1兆8679億ドル、シンガポールは世界第6位1兆6976億ドルであって、日本との差は大きい。日本の順位は1995年には18位であったので、それよりも低下している。この事実をふまえるならば、海外の金融業者や人材を多少受け入れたとしても、東京の地位が目覚ましく上昇するとは考えられないのではないか。

 

  • 香港の悲劇を利用した格差拡大でよいのか

国際金融センター構想は1980年代から掲げられ、一向に進展しないテーマであるが、ここにきてにわかに国策として登場してきたのは、2020年の香港をめぐる政治状況の変化が契機であることは間違いあるまい。香港の自治が否定され、国際金融センターの地位が失われることを見込んで、脱出する人材、企業の受け皿を用意しようとする目論見であろう。

 そもそも、国内の富裕層の資金を海外の業者に運用させることが目下の優先課題になるのだろうか。与党税制改正大綱は「成長なくして財政再建なし」として、相変わらず成長神話に呪縛され、分配面を無視している。コロナ禍での失業者の増加、マイナス成長であっても株式市場だけは異様に好調であり、ますます格差が拡大している。金融所得課税に手をつけることは急務と考えられるが、その発想はない。

富裕層の資産を増やすための海外業者の受入れ、そのための税制の優遇、このような国際金融センター構想は、目的も手段も格差拡大そのものではないか。しかもそれを香港の民主化運動圧殺をチャンスとみて推進することがあるべき政策といえるのだろうか。

(Political Economy No,181, 2016年1月16日)

菅政権を待ち受ける二つの難題

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公開日:2020年09月16日(水)09:15

9月16日、安倍長期政権を継承して菅政権が誕生する。当面のコロナ対策、解散総選挙の有無などが関心を呼んでいるが、そうした目先の課題の先にある二つの難題に新政権がどのように対処するかに注目したい。難題の一つは財政再建、もう一つは米中新冷戦への対応である。

 

  • アベノミクスの継承でよいのか

 菅政権はアベノミクスを継承する方針のようであり、その功罪のうち功のみ語り、罪は無視している。経済政策に特段の変更点はなく、スガノミクスは考えていないのだろう。しかし、アベノミクスの功はもはや賞味期限切れ、罪はコロナ危機でますますひどくなると思われる。

功の第一は円安、株高、企業収益向上だが、円安・株高の起点を2012年の最低点から起算するから改善したようにみえるだけで、もっと前の水準に戻ったにすぎないし、株高は日銀・GPIFによってかさ上げされている。企業収益は世界的好景気の反映でもある。功の第二は雇用の改善だが、生産年齢人口の減少のなかで、非正規雇用の増加、実質賃金の低下、格差の拡大を生み出しており、コロナ危機で負の側面が露わになったといえる。

罪の第一は財政再建を先延ばしにしたことで、この問題はコロナ対策で一段と深刻化した。2020年度予算は2回の補正予算で57.6兆円の国債追加発行が要請され、本予算分も含めると90兆円規模になる。政府債務(国債、政府短期証券等残高)は、2020年6月末に1159兆円、3月末から44.5兆円の増加である。税収と歳出のギャップをワニの口にたとえれば、もはや顎がはずれた状態だ。

国債の大半は日銀で引き受けられた。日銀の総資産は8月末に683兆円に到達、3月から90兆円増加、そのうち国債は536兆円にのぼり、40兆円増加した。国債全体の半ばを日銀が保有、総資産はGDPをはるかに上回る膨張となっている。さらに日銀はETF(上場投資信託)34兆円、社債・CP10兆円のリスク資産を抱え込んだ。GDPに対する政府債務の比率、中央銀行総資産の比率、いずれも日本が主要国のなかで格段に大きい。

コロナ危機からの脱出にはこれから数年かかるだろう。その間、アベノミクスの継承で時間を稼ぐことができるのか。早期に財政再建、日銀の出口戦略の見通しを示すのでなければ、やがて財政や日銀への信認が失われ、不意の金利高騰など、財政金融システムが制御不能になり、インフレと増税によるハードランディングの道しか残されなくなるのではないだろうか。

 

  • 米中新冷戦に対応できるのか

 日本は軍事的に米国に依存する一方、経済面では中国との関係が大きい。2019年の日本の輸出先シェアは米中とも約20%だが、輸入は米国11%に対して中国は23%と倍以上だ。こうした軍経分離、米中二股の状態は、米中新冷戦によって許されなくなりつつある。すでに韓国が米中のいずれにつくか選択を迫られているが、日本もいずれその状況に直面する。大統領選挙でトランプが勝つ可能性が出てきており、またバイデンが勝つにしても米中新冷戦は進行するだろう。

 米中関税合戦は一段落して、いまはファーウエイ排除、動画投稿アプリTikTokの米国事業買収など、ハイテク覇権争いが激化しつつある。ファーウエイにとどまらず中国のハイテク企業からの調達、部品供給の禁止範囲が拡大してきている。これに対して中国側は、半導体とソフトの国産化を急ピッチで進め、また販路を国内と一帯一路市場に求めて対抗している。加えて、中国の主導する国際的決済システム、通信システム、データ管理システムなどを構築しようとしている。米国は中国ハイテク企業の台頭を一時的に抑えることはできても、潰すことはできない。日本企業は当面は米国による中国取引規制に追随せざるをえないが、中国との経済的断絶(デカップリング)はありえないし、貿易は縮小させたくないはずだ。

 経済面の覇権争い以上に深刻なのが米中の軍事面での対立だ。中国は海軍力、宇宙・サイバー空間軍事力を飛躍的に向上させている。これに対抗して米国は中国に対する軍事的包囲網を強化する目的でインド太平洋戦略を推進し、その一環として日本にミサイル防衛システムの強化を求めるかもしれない。それに応じようとすると、日本は中国側から経済面で圧力をかけられる。韓国がサードミサイルシステムの配備を求められ、中国から猛反発を受けた構図の再現である。経済界は困惑し、親中派の二階幹事長も黙っていないだろう。いずれ到来するこの難局に、日本は日米関係と日中関係の両立を可能とする道筋をつけるしかない。新政権はこの難問に立ち向かう準備ができているのだろうか。

(Political Economy 2020年9月15日)

コロナ禍から回復できるか―トヨタ経営の現局面をみる

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公開日:2020年09月03日(木)13:50
  • 2019年度は若干の後退

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、自動車各社の経営業績は大きく落ち込んだ。そのなかでトヨタ自動車のみ赤字転落を食い止めている。まず。通常の決算年度である2019年度(2019年4月~2020年3月)の業績からみていこう。コロナの影響は2020年2月の中国から生じていくが、この決算年度への打撃はそれほど大きくなかった。表1によれば、前年度と比べて売上高、営業利益は若干減少したとはいえ、純利益はむしろ増加し、販売台数はほぼ同じ水準だった。

表1 トヨタの主要経営指標      
  2017年4月 2018年4月 2019年4月 2020年4月
  ~18年3月 ~19年3月 ~20年3月 ~21年3月
売上高(億円) 293,795 302,257 299,300 240,000
営業利益(億円) 23,998 24,675 24,429 5,000
純利益(億円) 24,940 18,829 20,762 [7,300]
販売台数(万台) 896 898 896 700
従業員数(人) 369,124 370,870 359,542  
(臨時雇用)(人) 84,731 87,129 86,219  
税金費用(億円) 5,044 6,599 6,834  
実効税率(%) 19.2 28.9 26.8  

 地域別の事業実績は表2のとおりで、これを前年度と比べると、生産台数では日本以外は減少、販売台数では北米、アジアが減少、外部顧客向け売上高では北米、アジア、その他が減少、営業利益では日本、アジア、その他が減少したが、いずれにせよ減少幅はそれほど大きくなかった。

表2 地域別事業実績(2019年4月~20年3月)  
  生産台数 販売台数 売上高 営業利益
  (万台) (万台) (億円) (億円)
日本 441 224 95,229 15,680
北米 181 271 104,166 2,706
欧州 67 103 31,388 1,505
アジア 152 160 48,286 3,710
その他 40 137 20,231 907
合計 882 896 299,300 24,429

 

コロナの影響は中国工場閉鎖から始まり、欧州、北米、日本の操業停止、販売市場の縮小へと広がっていくが、3月末時点では影響は深刻ではなかった。5月の決算説明会資料によれば、営業利益へのコロナの影響をマイナス1600億円(台数影響1000億円、金融事業600億円)と見積もっていた。それに対して2020年度の見通しは厳しく、売上は6兆円近い減少、営業利益は2兆円近い落ち込みを予測し、営業利益は何とか5000億円の黒字とするものの、純利益は数字の発表を見送ってしまった。

 

  • コロナの影響はどの程度か

 4月以降、世界の自動車生産は軒並み大幅にダウンした。感染拡大による工場閉鎖、生産の縮小と外出制限、ロックダウンによる需要の落ち込みの両面から各社とも生産・販売が激減し、総崩れの状態となった。トヨタの地域別生産・販売台数も表3のように落ち込んだ。

表3 コロナのトヨタへの影響  
        (単位:万台)
  生産 台数 販売 台数
  2019年1-6月 2020年1-6月 2019年1-6月 2020年1-6月
日本 178.0 129.9 83.1 71.1
北米 95.3 61.0 133.7 101.8
欧州 40.8 29.1 55.5 41.0
アジア 126.7 100.5 143.6 115.6
その他 23.3 10.8 62.8 47.6
合計 464.1 331.3 478.7 377.1

 国内7社の2020年4~6月期売上高合計は9兆3872億円で、これは前年同期比45.4%減という驚くべき数字だった。50%以上の減少は日産、マツダ、三菱、スズキ、40%台の減少にとどまったのはトヨタ、ホンダ、スバルだった。売上高の下落以上に差が開いたのは純利益の減少(損失の発生)であり、日産2855億円、三菱1761億円など、巨額の損失に見舞われた。そのなかで、トヨタは1588億円の黒字を計上した。他に黒字はスズキの17億円のみだった。

 なぜトヨタの黒字計上が可能になったのか。理由の一つは中国市場の回復であり、1~6月の販売台数は前年比2%減にとどまり、1~7月では1%増となった。特に高額のSUV(スポーツ用多目的車)であるRAV4が富裕層向けに売れ行きを伸ばしたことが大きかったようだ。中国市場ではライバルのフォルクスワーゲンは1~6月販売台数17%減、日産・ルノー・三菱連合は20%減だったので、トヨタの強さは際立っていた。この結果、1~6月の世界販売台数ランキングでトヨタ(ダイハツ。日野を含む)は6年ぶりに首位に返り咲いた。

 もう一つの理由は、原価低減策が効果を発揮していることだろう。原価低減(原価削減、諸経費圧縮)は毎年2000~3000億円に達しており、その効果が4~6月期にも及んできていると考えられる。4~6月期の業績好転を受けて、トヨタは2020年度の世界販売台数計画を当初の890万台から910万台に引上げ、非公表だった純利益を7300億円(前期比64%減)と発表した。

 

  • ポストコロナに向けて

 他社に比べれば回復の早いトヨタだが、ポストコロナの前途には難題が待ち受けている。デジタル革命への対応は待ったなしである。電気自動車専業のテスラが株式時価総額でトヨタを抜いたのも、そうした時代の変化を先取りしている。電気自動車が主流になれば、当然部品点数は激減し、車づくりのシステムが大転換する。トヨタが抱える下請け部品メーカーは整理・淘汰を迫られる。この7月にトヨタは一部の部品メーカーに価格の引き下げを要求した。通常は4月と10月に価格見直し交渉をするが、今年は異例の要請となった。特殊鋼価格の低下が引下げ要請の理由のようだが、こうした要請を繰り返すなかで部品メーカーを淘汰していくのがトヨタの狙いではないか。すでに車台・部品の共通化を通じて、部品メーカーの再編は進行している。

販売組織、社内組織の再編もここにきて目立ってきた。これまで車種ごとに販売店を系列化していたが、この区分を解消した。これによって販売店間の競争が激しくなるだろう。また社内組織では、これまで23人いた執行役員を9人まで減らし、副社長職もなくしてしまった。社長の権力がますます強化されるだろう。

豊田章男社長は、強いリーダーシップを発揮する意気込みを示すなかで、5月の決算説明会の発言を「SDGsに本気で取り組む」と締めくくった。これは唐突な感があるし、言うこととすることの食い違いを示している。SDGsに取り組むならば、当然サプライチェーンの労働者の人権を尊重しなければならない。フィリピントヨタ争議の解決を放置しておきながら、「SDGsに本気で取り組む」といってみても、とうてい信用することができない。なぜこのような発言をしたのか、真意を知りたいところだ。

(フィリピントヨタ労組を支援する会『フィリピントヨタ労組と共に』第20号、2020年8月)

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