- 詳細
-
公開日:2020年05月15日(金)18:51
コロナ危機と日本の財政・金融システムの危機
2020年5月15日
金子文夫
新型コロナウイルスの大流行で日本も世界も大混乱になっている。日本政府は4月8日に「緊急事態宣言」を発出し、1年間の政府予算を上回る規模の「緊急経済対策」を発表した。その総額は117兆円、日本のGDPの2割にあたると安倍首相は自慢した。総額117兆円のうち、真水の財政支出は約48兆円、その中にはすでに決められていた昨年度の予算分約10兆円と特別会計の約12兆円、合わせて約22兆円も含まれている。というわけで、4月末に国会通過した補正予算は約26兆円にすぎない。補正予算の目玉は1人10万円の給付金で、これだけで13兆円となる。
財政支出が限られているのは、日本の財政赤字が主要国のなかで最悪で、臨時の支出をする余裕がまったくないからだ。現在の国債発行残高は1人1000万円に達している。臨時の支出の財源は国債発行しかなく、それは結局日本銀行によって引き受けられる。
インフレにならない限り、国債をいくら発行しても問題ないという主張もある。本当にそう考えてよいのか。日銀は無尽蔵の宝箱をもっているわけではないので、財政も日銀もいずれは破綻してしまうかもしれない。コロナ危機のなかで日本の財政・金融システムはどこに進もうとしているのだろうか。問題点と展望を考えてみたい。
◆「緊急経済対策」の問題点
「緊急経済対策」117兆円には見かけを大きくするトリックがある。117兆円は政府の用語で「事業規模」というもので、財政支出以外の民間資金も多く含まれている。民間資金に相当するものは、第一に、金融機関から中小企業への資金繰り支援融資37兆円だ。これは金融機関の資金を融資する際に、政府が利子補給・信用保証をするというもので、融資であるからいずれ返済する必要がある。第二に、企業に対する税・社会保険料支払の1年間猶予26兆円だ。これは1年後には支払わなければならないが、それを延滞金なしという救済の意味をもたせ、対策の1項目としている。
こういう金額を差し引いていくと、正味の財政資金は48兆円になる。米国の300兆円にはるかに及ばないのは当然として、ドイツの90兆円、イギリスの45兆円に比べても見劣りがする。しかも、48兆円のなかには、2019年12月に閣議決定された総合経済対策費9.8兆円、2020年2月に決められた緊急対応費0.5兆円、特別会計の財政投融資資金12兆円などが含まれており、それらを除くと、「緊急経済対策」として4月の補正予算で新規に決定したのは約26兆円にとどまる。これは117兆円の2割にすぎない。
補正予算26兆円の内訳をみると、医療提供関係1.8兆円、(医療設備、マスク、ワクチン開発等8000億円、地方自治体への交付金1兆円)、経済支援19.5兆円(1人10万円給付金13兆円、中小企業支援6兆円)、経済活動回復1.8兆円、強靭な経済構造構築0.9兆円、予備費1.5兆円などとなる。
「緊急経済対策」の問題点の第一は、経済支援の規模が小さいことだ。生活給付金は最初の案では低所得世帯に30万円、総額4兆円だったが、その後一律給付で13兆円に増額された。それでも主要国と比べて多いとはいえない。また支給までに時間がかかり、困窮している人を救済する意味が薄くなっている。
第二は、医療関係が少なく、経済関係にかなりの額が配分されていることだ。国内ワクチン開発費は100億円にすぎず、これでは1000億円規模の米国や中国に太刀打ちできるはずがない。経済活動回復と称して、Go To キャンペーン(観光振興など)に1.7兆円をあてているが、そういう経費はもっと先の話ではないか。
第三に、抜け落ちている項目があり、追加給付の見通しが明らかでないことだ。「緊急事態宣言」が長期化する、あるいは解除後の再発動といった事態があるとすれば、第二次補正予算を組む必要があるだろう。
◆コロナ危機と日銀の出動
補正予算26兆円は全額国債発行によってまかなわれる。それはまず市中銀行が引き受け、その後日本銀行が買い取ることになる。しかし、それだけではコロナ危機に対処する資金が足りないため、日銀は3月に第1弾、4月に第2弾の資金供給政策を打ち出した。第1弾の総枠は国債購入80兆円、民間資産購入28兆円、第2弾は第1弾に上乗せしたもので、国債無制限購入、民間資産55兆円購入ときわめて大きい規模だ。この金額は日銀が供給しうる資金の上限を示すもので、市場に安心感を与えるねらいをもつ。
第一弾は、3月15~16日の金融政策決定会合で決定された。この会合自体、当初の18~19日の予定を、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)会合に合わせて前倒しするという異例の開催だった。そこでの決定は、量的緩和策として、①国債買入れ(年間80兆円)、米ドル資金の潤沢な供給(貸出金利0.25%引下げ)、②「新型コロナ対応企業金融支援特別オペ」の導入(民間企業債務を担保にゼロ金利資金8兆円を金融機関に供給)、③CP(短期借入証券)・社債購入枠を2兆円拡充(CP3.2兆円、社債4.2兆円まで)、④ETF(上場投資信託=株式)を年間12兆円、J-REIT(不動産投資信託)を年間1800億円まで購入とし、金利政策は従来の短期マイナス0.1%、長期ゼロ%の方針を維持した。全体として量的緩和の規模をさらに拡大するとともに、特にコロナ対策として②を導入したことが目新しい。
これに続く第二弾として、4月27日、緊急経済対策の補正予算の国会通過を目前にして、日銀は金融政策決定会合を開き、さらなる金融緩和策を決定した。要点は、①国債の無制限購入、②社債・CP購入枠を3倍に拡張、③新型コロナ対応資金のゼロ金利供給オペの拡充である。①国債に関しては、従来年間80兆円購入を掲げつつも、実際は10兆円台まで減額してきたところ、今回は無制限購入へと一気に舵を切った。これは国債を低金利で発行させるための財政への援護射撃であって、いよいよ「財政ファイナンス」の姿が露骨に現れることになった。②では、CP・社債の買入れ上限を20兆円まで一挙に拡大するだけでなく、1発行体の発行残高に占める日銀保有割合の上限をCP50%、社債30%に引上げており、日銀が民間企業のメインバンクになった形だ。③は3月に新設された方式の拡充であって、担保額を8兆円から23兆円に3倍増、利用残高に相当する当座預金へのプラス0.1%付利など、大盤振る舞いといえる。
こうして、日銀は、「緊急経済対策」の財政資金総額48兆円を超える55兆円を民間企業に供給する枠組みを創出した。日銀が民間企業救済機関に変質した姿を現している。
◆日本銀行の金融政策の変質
日本銀行が中央銀行としての本来の業務を逸脱し、財政支援機関、さらには民間企業支援機関へと変質していった歴史は、1990年代までさかのぼる。それ以前の日銀は、中央銀行の「伝統的金融政策」を、節度を保って実行し、通貨量を調節して景気変動を調整してきた。金融政策の手段としては、次の三つが使われていた。①公定歩合操作(金利政策、市中銀行に貸し出す際の金利を上下させることで、市中に出回る通貨量を調節し、景気変動を調整する)、②公開市場操作(国債・公社債など、主に短期の有価証券を市中銀行との間で売買することにより、市中の通貨量、景気変動を調整する)、③支払(預金)準備率操作(市中銀行の預金の一定割合を支払準備として中央銀行に預金させ、その割合(準備率)を上下させることにより、通貨量を調節する)。
1970~80年代の日銀は、公定歩合を2.5%から9.0%までの間で上下させ、景気調整の役割を果たしていた。1985年のプラザ合意によって急激な円高が進むと、日銀は円高不況を警戒して金利を5.0%から2.5%まで低下させ、市中に大量の資金を供給したが、それは土地や株式の投機に向かい、バブル景気になった。そこで日銀はあわてて金利を6.0%まで引き上げると、今度はバブルが崩壊して不況に陥ったため、1995年には0.5%まで引き下げた。それにもかかわらず景気は回復せず、日銀は「ゼロ金利政策」の時代に入り、その後若干の変動を含みながら超低金利状態は現在も続いている。金融政策の三つの手段のうち、支払準備率操作は事実上廃止され、また超低金利状態が続いたため公定歩合操作も機能しなくなり、公開市場操作のみが「量的緩和政策」という言い方で使われるようになっている。
低金利下の金融緩和政策は、それまでの経済学の教科書に書かれていない「非伝統的金融政策」とされ、2000年前後に小規模に実行されはじめた。当初は日銀当座預金残高が5兆円程度になるように市中銀行に資金を供給していくが、市中銀行は民間企業への貸出を増加させることができず、国債購入に向かったため、資金が日銀から市中銀行を経由して政府に流れる回路が形成され、量的緩和の資金量は次第に増加していった。
2008年のリーマンショックの後、FRBやECB(欧州中央銀行)は金融危機からの脱出をはかる目的で猛烈な勢いで量的緩和政策を実施し、通貨供給量を拡大した。一方日銀は、やや控えめな姿勢でそれに追随したが、緩和の程度が小さかったために円高を押し付けられ、円相場は1ドル=79円まで跳ね上がった。
その後、2013年にアベノミクスの柱として異次元緩和政策が開始され、日銀は国債の年間80兆円購入を打ち出した。日銀のねらいは、通貨供給量を一気に増やしてインフレを引き起こし、経済成長率を上げることだったが(2年で通貨量を2倍にして2%の物価上昇)、国債購入によって市中銀行に渡った資金は市中に出回るのでなく、日銀にある当座預金口座に積み上げられたままになり、2%の物価目標は達成できなかった。そのため2016年になると日銀は、当座預金の一部にマイナス金利をつけて無理矢理資金を押し出そうとしたが、これも成果をあげたとはいえない。
一方、超低成長が続き、税収が伸びないなかで社会保障費が増大する日本の国家財政は、国債発行によって税収不足をカバーする道をとらざるをえなかったが、日銀の低金利、国債購入政策のおかげでたいした抵抗もなく、毎年国債発行を続けることができた。その結果、日本政府の国債発行残高(国庫短期証券を含む)は2000年末に500兆円あまりであったのが、2010年度末に884兆円、2019年末に1132兆円と、GDPの2倍以上に積み上がった。
ここで注意を要するのは、そうして増加した国債の大半を日銀が抱え込んだ点だ。2010年度末の時点で、国債発行残高に占める日銀の保有割合は8.9%だったが、2019年末には43.7%まで上昇した(朝日新聞2020年4月28日)。この間の国債残高増加は248兆円、日銀保有額の増加は416兆円と計算されるので、市中銀行等が保有する国債を日銀が買い上げ、政府の低金利国債発行を支援したことになる。
戦後制定された日本の財政法は、戦時期に日銀が国債を際限なく購入し、軍事費を捻出するとともに激しいインフレを引き起こしたことを反省し、日銀による国債の直接引き受け(財政ファイナンス)を禁止した。現在もこの法律は生きているが、政府発行の国債は市中銀行を経由して日銀に流れており、国債増発に歯止めがかからず、もはや財政法は空文化したというしかない。
◆日銀金融政策の何が問題か
日銀の資産規模は10年前には100兆円程度だったところ、現在はその5倍以上に膨らんでいる。資産の大半は国債だが、政府と日銀を一体とみる「統合政府論」の立場からは、大きな政府内部での資金の循環であって特に問題はないとする。はたしてそうだろうか。
現在の日銀の超緩和政策の問題点を整理すると、次のような点を指摘できる。
第一は、金融市場の価格形成の歪みだ。かつて日銀は短期資金市場の動きはコントロールできても長期資金市場は制御できないとみられていた。しかし、日銀が長期国債の独占的な保有者となったため、長期金利もそのコントロール下に入った。2016年以降の長短金利操作政策はそれなりに機能している。しかし、その結果、長期金利が、実体経済の動向の指標となるべき役割を果たせなくなっている。
さらに問題なのは、日銀がETF(上場投資信託)の大量購入を続けていることだ。日銀のETF購入はリーマンショック後の2010年12月が最初で、年間4500億円という控えめな上限が設定された。ところがアベノミクスが始まった2013年4月に1兆円、14年10月に3兆円、16年7月に6兆円に増額され、2020年3月についに12兆円に達した。日銀は株価下落傾向が生じるとETF買いに出動し、アベノミクスの看板である株価を維持する役割を果たしている(官製相場、GPIF=年金積立金管理運用独立行政法人の株式購入も同様)。そのため、海外のファンドは安心して日本株を売買し、利益をかすめ取っている。そして株式市場もまた実体経済から遊離してしまい、バブル化する危険性を増している。
なお付け加えれば、日銀が株式を大量保有したため、日銀が筆頭株主になる企業も増えてきており、それに今回の社債・CP大量購入も合わせると、日銀が民間企業との関係を異常に深めることになったと考えられる。
第二の問題点は、以上にみたような有価証券大量購入が、日銀の財務構造を悪化させ、債務超過を引き起こしかねないことだ。黒田総裁は国会で、株価(日経平均)が1万9500円を割ると、日銀の保有株式に含み損が発生すると発言した。今回の金融政策では社債の大量購入を打ち出していて、そのなかには「堕天使債」(投資不適格債)という格付けの低い社債も含まれるもようだ。このようなリスク資産の購入は、緊急事態として正当化されるのだろうが、日銀の信用に不安を抱かせる。これに財政危機、金利上昇、国債価格下落の重圧が加わった場合、日銀の信認が低下し、円が暴落する危険性をはらんでいる。
第三に、2016年以来の日銀のマイナス金利政策は、民間金融機関、特に地方銀行の経営を圧迫してきた。地域経済を支えるべき地方銀行の経営悪化は、地方の衰退を加速させる。コロナショックはその趨勢に追い打ちをかけており、今後地方銀行の合併・統合、それに伴う地方金融サービスの低下は避けられなくなるだろう。マイナス金利政策は評判が悪いが、それを改めるタイミングを見出せないままにコロナショックに突入してしまい、事態はますます悪化せざるをえない。
第四に、財政規律の喪失、財政の国債依存度の上昇を招いている。財政健全化、歳入歳出バランスの回復のためには、経済成長が見込めない以上、増税策を採用せざるをえないが、これは選挙で票を失う結果になるため、政府・与党は安易な国債発行に向かう傾向がある。日銀の低金利政策は国債の金利負担を非常に低くしているため、国債発行に歯止めがかからない。この状態が長く続いた結果、日本の国債発行残高はGDPの2倍以上という、主要国のなかで最悪の状況をもたらした。
第五に、過剰な通貨供給がインフレを引き起こすリスクを高めている。緩やかなインフレをねらって通貨供給を増やしてきたものの、一向にインフレは起こらず、大量の通貨は日銀の当座預金に眠ったままである。しかし、何かのきっかけで眠りから覚めた時には、制御の困難なインフレに突入する可能性がある。傾向的にモノの値段が上がる、カネの価値が下がるという判断が成立すれば、日銀当座預金は市中に堰を切って流出していくだろう。
MMT(現代貨幣理論)では、インフレが起こるまでは通貨供給を増やし、インフレになれば増税で通貨を吸収すればよいというが、リアリティーがない。通貨供給は日銀の裁量でできるのでやりやすい。通貨量の縮小は日銀が保有国債を売却しておこなうことが本筋だが、インフレで金利が上昇すると国債価格は下落するため、日銀の国債売却には困難がともなう。MMTのいう増税は政治的行為であって、日銀のオペレーションとは次元が違う。まして現在の税収60兆円を仮に10兆円増税したところで、数百兆円に膨らんでいる通貨の吸収はたかが知れている。おそらく経済成長率は今後も上がらないだろうから、ハイパーインフレにはならないとしても、低成長下のインフレ、つまりスタグフレーションの時代になることが想定される。
◆ポストコロナの展望
アベノミクスの構想では、短期的には金融政策でデフレ脱却を図り、長期的には成長戦略で経済成長を実現するシナリオだったのだろう。しかし、人口減少下で消費は伸びず、企業の投資は海外に流出していくため、成長戦略は成果を出せていない。その一方、本来は2年という短期方針であったはずの超金融緩和政策は、止めるに止められず7年も経過してしまった。コロナ危機によって、当面は財政と金融の拡大をするしかないが、その先には現在とは違う社会経済システムを構築していかなければいけない。その議論はこれから盛んになっていくだろうが、ここでは2点ほど指摘しておきたい。
第一に、財政・金融政策の改革、特に税制改革だ。財政破綻、円の暴落を招かないように、長期にわたって慎重に、日銀資産の縮小、国債残高の減少を図っていく必要がある。そこでまず取り組むべきは、包括的な税制改革だ。現在は消費税ばかりに目が向いて、議論の幅が狭い。歴史的にみると所得税、法人税が減税され、その穴を消費税が埋めてきた。その結果、格差社会が深刻になり、社会が分断されてきた。今や所得税、法人税の増税を強力に実施すべき時だ。所得税の累進性、高所得者がより多くの税負担をすることは、税の垂直的公平の観点から正当化しうる。累進税率を以前の水準に戻し、合わせて株の配当などの金融所得への税率を上げることが重要だ。金融所得を分離課税でなく総合課税にすることが望ましいが、とりあえず金融所得の税率引き上げが急がれる。そもそも低成長下で金利がゼロにもかかわらず、高率の配当が実現できていること自体がおかしい。高配当の一方、実質賃金は低下しており、格差拡大のメカニズムが働いている点に目を向けるべきだ。
高額所得者に増税すると海外に逃げるというが、それを補足する情報技術、税務行政の国際的連携は進化しており、逃げても得なことはないという制度を作ればよい。法人税もまた、相次ぐ減税によって企業に恩恵を与えてきたが、その結果400兆円を超える膨大な内部留保を生み出した。税率を上げると企業が海外に逃げるというが、OECDを中心にして法人税率の最低ラインを決める国際ルール作りが進んでおり、タックスヘイブン対策の国際連携は着実に進展している。また、今回のコロナショックで、過度に海外サプライチェーンに依存する経済システムは不安定なことが明らかになった。企業のやみくもなグローバル化に歯止めがかかったとみるべきだろう。
なお、付け加えれば、法人税減税では租税特別措置が大きな意味をもっていることも指摘しておきたい。その情報開示は不十分であって、この措置が特定の企業にどれだけの恩恵を与えているか、制度の透明性を高めれば、行き過ぎた減税にブレーキがかかるだろう。
第二に、地方・国家・世界の関係の見直しだ。これは大がかりな問題設定だが、コロナ危機はこのテーマを考えるよい機会を提供してくれた。本格的な議論はこれから進めるとして、ここではごく簡単に要点を述べておこう。
地方・国家関係では、コロナ危機に対応する政府の無策・無能と地方の首長の活躍が好対照をなした。PCR検査一つとっても、現場の状況を把握できず、権限だけ握って離さない中央政府の劣化が明らかにされた。この際、地方分権を一気に推進し、権限と財源を地方に移していく好機だろう。これに対応して、経済システムも地域自立型に転換するチャンスだ。過度に資源・食料を輸入に依存するグローバル化に歯止めをかけ、エネルギー自給・食料自給の方向に進むこと、製造業の国内回帰も促進すべきだろう。また、在宅勤務の有効性が示されたことの意義も大きい。人口の大都市集中から地域分散への契機が創出されたことに注目したい。
国家・世界関係では、当面は1国主義、反グローバル化の流れが強まるだろう。強権的国家が並立し、国家間分断が深まる事態が想定される。しかし、感染症にしても、気候変動にしても、貧困・難民問題にしても、1国単位で解決できるものではない。国境を越えて利益をあげるGAFA(グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック)などの巨大IT企業に対しては、各国連携の課税ルールの策定が進みつつある。長期的には、新自由主義的なグローバル化に歯止めをかけつつ、国際協調・国際連帯をさらに進める方向が今後の世界潮流になるだろう。その先には、世界共通ルール、世界共通課税を実現する超国家機関(世界政府)の展望が開けてくるはずだ。